企業年金受給権者の給付減額の問題

月刊社会保険労務士(2010年11月号)に横浜国立大学経営学部教授山口修氏の「企業年金受給権者の給付減額をめぐって」という記事が掲載されています。広義の公的年金制度の3階部分にあたる企業年金の非常に重要で核心的な問題です。日本航空及びNTTと言う社会になくてはならない公共部門を担う大企業において起きた事例を山口氏の記事から引用しつつ、企業年金の給付減額問題の要点をまとめておきたいと思います。


1.企業年金の種類

我が国の主な企業年金制度は、厚生年金基金、適格退職年金、確定給付企業年金及び確定拠出年金です。少し古い統計ですが、平成19年(2007年)の数字で、次のようになっています。
(1)厚生年金基金 642基金 5250千人
(2)適格退職年金 38885件 5060千人
(3)確定給付   2384件  4780千人
(4)確定拠出   2357件  2424千人

このうち(2)は、平成24年3月末で廃止されることが決まっていますので、大幅に減少していると思われます。(3)は平成14年4月に施行された確定給付企業年金法、(4)は平成13年10月に施行された確定拠出年金法によってそれぞれ新たに制定された企業年金制度です。

これらの新たな企業年金制度が制定された背景は、第一に、少子高齢化の進行により、企業年金も給付と負担の見直しが必須となってきたことが挙げられます。第二に、産業構造の変化に伴う大幅な企業再編が頻発するようになり、企業再編の際にも柔軟に対応できる企業年金の設計を担保しておく必要性が高まったことがあります。第三に、低成長経済に移行した結果、運用環境の非常に厳しい状況が続いており、運用リスクを企業と従業員がどのように負担していくかという課題に応える要請が高くなってきたことです。第四に、会計基準の国際化、とりわけ退職給付会計の導入により、企業年金が経営の重要な課題となってきたことです。すなわち、退職給付会計では、厚生年金基金の代行部分を企業の債務として認識する必要があるため、企業にとっては大きな負担となってきたのです。


2.確定給付企業年金法の概要

さて、ここからは話を(3)確定給付企業年金に絞り込みます。というのは、今日企業年金制度として確定給付企業年金(以下DBと言います)制度を採用する企業が増える傾向にあること、前述の日本航空及びNTTの採用している制度もDBだからです。

確定給付企業年金法の最大の目的は、「受給権の保護」とされています。その根幹をなすものが「積立義務」であり、これは制度継続中及び終了時にそれぞれ必要な準備金の確保を要求し、積立不足があれば一定期間内に積立てることを要請しています。この他、受給権保護のために「受託者責任の明確化」及び「情報の開示」について規定しています。

確定給付企業年金法は、加入者期間20年以上の者には年金給付を行うことを義務付けており、年金支給期間は、5年以上の有期であれば足り、必ずしも終身年金にする必要はありません。選択一時金は、保証期間の年金の現在価値の範囲内で可能です。また、脱退一時金は、加入期間3年以上で支給することが必要であるため、適格退職年金に見られるような定年退職者のみを給付の対象にするような制度は認められていません。給付の形態として、定額制、給与比例、ポイント制の他、キャッシュバランスプランの採用も認められています。


3.DB受給権者の給付減額の要件

給付の減額は、対象が加入者に限られる場合と受給権者等に及ぶ場合が考えられます。受給権者等の給付減額は、確定給付企業年金法の目的からして、原則は禁止であり、例外的に認められるための要件として、「減額しなけらば確定給付企業年金の事業の継続困難になること、その他省令で定める理由がある場合でなければならない」としています(確定給付企業年金法施行令4条)。具体的には、次の2つの場合に限られるとされています。

(1)給付減額がやむを得ないほどの経営悪化
(2)給付減額しないと事業主が掛金拠出が困難になるほどの掛金負担の大幅上昇が見込まれること


受給権者等については、加入者について認められている企業再編による制度の統合や他制度への移行を理由とした減額が認められていません。しかも、これらの要件に加えて、受給権者等の同意について次のように定めています。

(1)受給権者等の3分の2以上の同意を得ること
(2)受給権者等のうち、希望する者には最低積立基準額相当額を一時金として支給すること


4.日本航空とNTTの給付減額

山口氏の記事によれば、日本航空の場合、加入者からの3分の2以上の同意を取り付ける目途は立ったものの、受給権者等からの同意取り付けは難しかったため、事実上、日本航空の企業年金だけを対象とする3分の2以上の同意なしで給付の減額を可能にする特別立法の制定が検討されたり、同意が取れないのであれば、年金基金を解散するという企業再生機構の方針が打ち出されるなどすったもんだの末、ようやく3分の2以上の同意に漕ぎ着けたのです。

一方、NTTの場合、退職者の83%からの同意は得ており、この点は要件を満たしていましたが、給付減額がやむを得ないほどの経営の悪化があったのかという点が問題になりました。NTTは「給付減額がやむを得ないほどの経営の悪化は見られない」として申請を不承認とした国を相手取り、行政の過剰介入であるとして裁判で争うことになりました。本年6月9日最高裁判決は、次のような理由でNTTの上告の訴えを退け、NTT側の敗訴が確定しました。

(1)給付減額は、企業の自主性、労使の合意のみに委ねられているのではない。なぜなら、確定給付企業年金法の目的は、受給権の保護にあるから。
(2)そもそも受給権者の給付減額は、母体企業の経営状態の悪化などにより企業年金を廃止するという事態を避けるため、限定的な要件の下で認められていること。
(3)受給権者の年金額を減らして、株主の利益配当を優先する姿勢が見られること。

そうだとすれば、8割以上にのぼるNTTの受給権者の方々が給付減額に同意した理由とは一体何だったのだろうと疑問がわいてきます?

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