年次有給休暇と時季指定_退職前の年休一括請求

 我が国の会社などの組織には、共同体的帰属意識の残滓のようなものが潜在的に残っていて、それが年次有給休暇(以下「年休」といいます)の取得を妨げている要因ではないかという私見を述べました。ところが、一旦退職と決めてしまうと、共同体との縁もなくなるせいか、退職前に年休残日数の全てを消化して退職するという場合も多いようです。民法上、労働者の側からの申出で期間の定めのない雇用契約を終了するには、退職予定日の2週間前の解約申し入れで足ります。就業規則で規定している場合でもせいぜい1箇月前といったところではないでしょうか。しかもこの規定に強制力はありません。そこで、退職予定日の1箇月前の解約申し入れが為されて、それから数日出勤した程度で年休消化のため出社しなくなると、引継ぎも十分にできなくなってしまうという問題が生じます。


1.使用者の時季変更権

 このような、年休の一括請求に対して、使用者が拒否することはできません。なぜなら、年休を取得する権利は既に生じており、年休申請は単なる時季の指定であって、使用者の承認は年休の成立要件ではないからです。それでは、「事業の正常な運営を妨げる場合において、他の時季にこれを与えることができる」とする時季変更権が行使できるかというと、まさに「他の時季に与えること」ができないために、これも認められません。退職前の年休一括請求は、使用者側から見れば、労働者の権利の濫用のようにも見えますが、時季変更権等の切り口ではこれを認めざるを得ないのです。


2.年休の買い上げ

 まず、「年次有給休暇の買い上げを予約し、これに基づいて法39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じ乃至請求された日数を与えないことは、法39条違反である」(昭和30年11月30日基収※4718号)とされていますので、年休の買い上げは原則としてできません。2年の時効で消滅した年休を買い取ることは、形式的に労働基準法の規定するところではありませんが、そのような規定を就業規則に盛り込むことによって、年休の取得を抑制する効果を狙ったものとみなされる可能性が高く、この場合も39条違反となるおそれがあります。

 しかし、退職前の一括請求に関しては、個別具体的事案にもよるとは思いますが、買上げを退職金扱いとして支給する方法が考えられます。

(1)年休制度の趣旨は、年休を取得することによって労働による心身の疲労を回復させることとされています。退職前の年休一括請求は、この趣旨にあてはまるものではなく、特殊な年休取得ということができます。
(2)年休は「有給」であり、賃金が支払われますが、賃金を支給すれば、労働保険料及び社会保険料が発生します。労働者にとっても、社会保険料の他所得税等の税負担が課せられます。

 そこで、個別の交渉により、退縮後に消滅する年休を買上げて退職金として支給することが考えられます。年休を取得した場合、賃金の支給がなされなけらばなりませんが、買上げの場合には、形式上退職後の消滅した権利の買い上げということになりますので、買い上げ額も交渉で定めることが可能です。

 この方法によっても、引継ぎをしっかりと行ってもらうという要請には十分に応えることはできないかもしれませんが、使用者側にとっては、(1)余計な労働保険料及び社会保険料の発生を抑えることができる、(2)退職する社員との関係を早くすっきりしたものにできる、等の効果が期待できると思われます。

※基収:厚生労働省労働基準局長が疑義に応えて発する通達

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