年次有給休暇と時季指定_電電公社此花局事件

 私見ですが、我が国は一致協力して一斉に働き、一斉に休みを取る稲作を主とした農村共同体的社会の伝統を持つため、個々人がバラバラに年次有給休暇を取得することに関して、何とも言えない潜在的な抵抗感があるのではないかと思います。過労死対策で時間外の割増率を高くしたり、育児休業制度の拡充を図ったりも良いのですが、まず目指すべきは年次有給休暇の完全消化なのではないかと思います。ついでに言えば、国民の祝祭日が多すぎるのも、そういうことと関係があるのかもしれません。今や国民の7割近くが第3次産業に従事し、3割以上がサーヴィス産業で働いている現状からすると、実態に合わない慣習を続けているだけなのではないかと疑問を呈しておきたいと思います。


1.事案の概要

 X1及びX2は、Y社の職員です。X1は、昭和44年8月18日の年次有給休暇(以下「年休」という)について、当日の午前8時40分頃に電話で宿直職員を通じて、理由を述べずに同日の年休を請求し、午前9時から予定されていた勤務に就きませんでした。X2は、昭和44年8月20日の年休について、当日の午前7時30分頃に電話で宿直職員を通じて、理由を述べずに同日午前中の年休を請求し、午前10時から予定されていた勤務に就きませんでした。

 所属長は、事務に支障が生ずるおそれがあると判断しましたが、休暇を必要とする事情の如何によっては年休を認める可能性もあると考え、X1には直ちに電報を打ち、X2には午後出社時に直接理由を尋ねたところ、X1、X2は理由について回答を拒否しました。そこで、所属長は年休請求を不承認とし、当日を欠勤扱いとして賃金不支給としました。なお、Y社の就業規則及び労使協定では、年休の請求は「原則として前々日の勤務終了時まで」と規定されていました。


2.解 説

(1)判決要旨

 就業規則の定め(年休の請求は「原則として前々日の勤務終了時まで」と規定)は、年次有給休暇の時季を指定すべき時期につき原則的な制限を定めたものとして合理性を有し、労働基準法39条に違反するものではなく有効である。

 年次有給休暇の成立要件として使用者の承認という観念をいれる余地はないものであり、労働者の特定の時季を指定した年次有給休暇の請求に対し、使用者がこれを承認し又は不承認とする旨の応答をする場合には、使用者が時季変更権を行使しないとの態度を表明したもの又は行使の意思表示をしたものに当ると解するのが相当である。

 勤務開始時刻前に第三者(宿直職員)を介してなされた当日全日又は午前中2時間の年次有給休暇の請求に対し、事業の正常な運営を妨げるおそれがあるとの判断の下に、時季変更権の行使に当たってはX1及びX2が休暇を必要とする事情をも考慮するのが妥当とする場合があると考え、休暇の理由をただしたところ、X1及びX2が休暇の理由を明らかにすることを拒んだため、年次休暇の請求を不承認とする意思表示をしたことにつき、右の事情の下においては、不承認の意思表示が休暇期間の開始後又は経過した後になされた場合であっても、適法な時季変更権の行使に当り有効と認めるのが相当である。

(2)年次有給休暇制度

 年休は、法律で義務付けられた唯一の「有給」の休暇制度であり、継続勤務6箇月、かつ、全労働日の8割以上の勤務により、当然に発生します。労働者の請求は、具体的な時季指定であって、請求のために特別な要件はなく、連続して取得することも1日ずつ取得することも認められています。判決要旨にもあるように、年次有給休暇の成立要件として使用者の承認という観念をいれる余地はありません。また、年休を取得したことに対し、不利益な取り扱いをすることも禁止されています。

 一方、請求があれば例外なく時季指定を認めなければならないわけではなく、使用者には請求された時季に年休を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季に変更できるとされています(労働基準法39条5項)。本判決においては、年次有給休暇を取得するのに使用者の承認という観念をいれる余地はないとしながら、本事案のように当日になって休暇の申請をしてきた場合には、休暇期間の開始後又は経過した後になされた不承認の意思表示であっても、それは適法な時季変更権の行使に当るとして、妥当な結論を導こうとしたものと思われます。

 なお、年次有給休暇制度の他に法律で義務付けられた休業・休暇制度には、次のようなものがありますが、これらの休業・休暇を取得した日及び時間に対して賃金支払いの義務はありません。
① 公民権行使の時間 (労働基準法7条)
② 産前産後休業 (労働基準法65条)
③ 育児時間 (労働基準法67条)
④ 生理休暇 (労働基準法68条)
⑤ 育児休業 (育児介護休業法5条)
⑥ 介護休業 (育児介護休業法11条)
⑦ 子の看護休暇 (育児介護休業法16条の2以下)
⑧ 介護休暇 (育児介護休業法16条の5以下)

(3)使用者の時季変更権

 使用者の時季変更権は、労働者の請求通りに年休を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」に認められます。「事業の正常な運営を妨げる場合」はかなり限定的に判断され、「代替勤務者確保が可能か否か」が判断の最重要な基準になるといえます。即ち、代替勤務者確保が可能ならば時季変更権は行使できないとなり、不可能な状況ならば行使できると考えるべきですが、元々代替勤務者確保の余地がない又は極めて低い事業場において、余程の理由がない限り時季変更権の行使は合理的とは判断されないと考えるべきです。次のような場合は、「余程の理由」と認められる可能性が高いと言えます。
① ある特定の日に年休の請求者が集中したとき
② 事業場にとって「きわめて特別の日」に年休請求があったとき
③ 繁閑の差がきわめて大きい事業場で、繁忙期に年休請求があったとき

(4)年休請求と就業規則

 本判決では、就業規則の定め(年休の請求は「原則として前々日の勤務終了時まで」と規定)は、年次有給休暇の時季を指定すべき時期につき原則的な制限を定めたものとして合理性を有し、労働基準法39条に違反するものではなく有効であるとしています。

 通常の単発的な年休に関しては、2~3日前までならば合理的で有効と判断されます。しかし、長期かつ連続の年休請求に関しては、代替勤務者の確保はより困難になるとも考えられます。従って、就業規則において一定日数以上の年金連続請求の場合には、別途一定期間以上前に請求することを義務付けておくことが有効です。

 また、本事案で問題になったような事後振替についてもモデル就業規則で示したような規定を設けておくことがトラブル防止の観点から望ましいと思われます。

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モデル就業規則
第○条 (年次有給休暇の請求手続き)

年次有給休暇を受けようとする者は、取得日の前々日(休日を除く。連続5日以上の年次有給休暇を受けようとする者は、取得日の14日前)までに所属長に所定の書面を提出して申し出てください。ただし、会社は、事業の都合上やむを得ないときには、他の時季に変更することができます。

2.前項の期限までに年次有給休暇の届出がなかった場合であっても、傷病による欠勤の場合は、後日その事実を証明することを前提に、年次有給休暇を取得したものとすることができます。また、その他の個別の事情に応じて、会社は年次有給休暇の取得を承認することがあります。
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