産業の空洞化について

1.産業構造の変化

 小学校の高学年だったか中学だったか思い出せないのですが、農林水産業の第1次産業、製造業を中心にした第2次産業、それらに属さない第3次産業ということで、就業人口の割合などを社会科の授業で習った経験はどなたもお持ちのことと思います。

 就業者人口で見た日本の産業構造をざっと眺めてみますと、

(1)第1次産業
 1956年(昭和31年)16731千人から2008年(平成20年)2680千人と減少が止まりません。全体に占める割合でみても、1956年時には42.0%を占めていたのが、2008年はたったの4.2%です

(2)第2次産業
 1956年(昭和31年)9512千人から1992年(平成4年)頃まで増加を続け21908千人(内製造業15610千人)となりましたが、その後減少傾向に転じ、2008年には16840千人と最盛期から5百万人も減少しており、全体に占める割合は、1956年時には23.9%、1992年 33.3%、2008年 26.3%です。

(3)第3次産業
 1956年(昭和31年)13580千人(内役務提供4262千人)から2008年(平成20年)43570千人と一貫して増加を続けています。全体に占める割合でみても、1956年時には34.1%だったのが、2008年には68.2%と7割近くを占めています。第3次産業は多種多様ですが、電気・ガス等、運輸・通信業、卸・小売業、金融・保険業、不動産業及び公務などを除いたサーヴィス(役務提供)業だけで30%を超えているようです。


2.米国の後追いについて

 1990年代の半ばに、米国で日本企業の駐在員として働いていた時の話です。当時の米国人の上司があるときふと話した言葉ですが、「横手さん、米国人の職業選択は、もはや弁護士になるかハンバーガー店の店員になるかの2者択一になってしまったよ」というのです。アメリカン・ジョークに続けて「私が子供のころには、世界最高水準の給与がもらえるまともな仕事(Decent Job)がいくらでもあったものさ。日本もこんなふうになっていいと思うかい」と言っていました。もう10年以上も昔の話で、当時の米国はIT景気と金融で好景気の最中だったときのことです。

 この話を聞いたとき、小生の問題意識は今よりずっと低かったので、「まあ、米国は徹底的に自由主義経済の国であるし、それを突き詰めていけば、産業の空洞化も結果として起こるんでしょう。第一、国の産業政策からして日独などに敗れた大部分の製造業をある程度放棄して、情報産業や金融で世界一稼げればいいと思っているんじゃないのかな。日本はそうならないだろうけど」くらいの反応だったと思います。

 しかしながら、小生の甘い見通しに反して、その後日本の製造業の空洞化は米国のあり様をなぞるかのように着々と進んでいきます。主な理由を挙げるとすれば、我が国の10分の1にも満たない超低賃金を売り物にした隣国の台頭がまずあげられます。もはや、低価格帯品の大量生産で世界の工場の地位に返り咲くことは全く考えられなくなりました。それでも、国内生産にこだわる自動車業界トップ企業や大規模な液晶工場を国内に建設した家電メーカーなど目先の利益にとらわれず、「物づくりの日本」にこだわってきた企業がそれなりにあったのだと思います。しかし、今回の円高は、いわゆる高級品・高付加価値製品での競争力にも厳しい影響があるとみられ、長引けば多くの製造業にとってとどめの一撃になるかもしれないと危惧します。


3.米国で今起こっていること

 それぞれの国の成り立ちも歴史も全く異なる我が国と米国ですが、どういう訳か米国で起こったことが、日本でも10数年の時差で繰り返される事例が結構あるような氣がするので、最近読んだ米国に関する分析をまとめておきます。本当は数字や統計による裏付けが是非必要な事柄ですが、取りあえず考える材料として。

 金融・不動産不況後の経済の立て直しを託された現政権は、輸出の振興を目論んでいるようですが、産業の空洞化は我が国などとは比べ物にならない水準にまでに進んでしまっているようです。もちろん、高収入の期待できる職業が弁護士になるだけということはあり得ませんが、大部分の製造業は、経営及び企画、製品開発といった頭脳部分以外の製造過程を大方低賃金の海外に移してしまっているのです。しかし、いわゆる頭脳部分の仕事をする者は、企業が儲かっている限りにおいて高給取りな上、ビジネスが順調に拡大すればこれらに群がる弁護士やらコンサルタントやら専門職も潤います。彼らの旺盛な国内消費が巡り巡って、前政権時代に奨励された起業家の起業を助けることとなり、お金が回るようになっていたのがリーマンショック前の好況の正体のようです。

 
しかし、不動産バブルがはじけてお金の巡りが悪化すると消費経済の一翼を担っていた自立した起業家たちが打撃を受け、一旦は現政権に希望を託してみたものの、経済の立ち直りの遅さにすっかり失望してしまうのです。先に行われた中間選挙でも多大な影響力を発揮し、にわかに日本でも知られるようになった「茶会党」運動の背景はそんなところにもあるようなのです。

 先進国における第1次産業及び第2次産業の就業者人口の減少とサーヴィス産業への移行は、多かれ少なかれ止められない現象なのだと思われます。そして、空洞化によって喪失した雇用を補うために起業を促す政策は正しいと思います。しかし、だからと言って農林水産業や製造業を放棄して産業の空洞化に手を拱いていたり、むしろサーヴィス産業への移行を促進するような産業政策は誤りではないかと思われます。

 「デフレの正体」によれば、先進国サミットに出席するG8諸国の中で、日本に対して貿易黒字なのは、資源国カナダを除き、仏伊の2か国なのだそうです。小生も、日本はもっと欧州諸国の研究をするべきだと思います。仏伊が持っているもの、それは「自国製」の「高級ブランド品」です。第1次産業及び第2次産業を空洞化させないための手がかりは、多分このあたりにあると思うのです。

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