厚生年金の脱退手当金とは

1.脱退手当金とは何か

 社会保険労務士の受験勉強時代、外国人を対象にした「脱退一時金」の勉強をした覚えはありますが、「脱退手当金」という給付制度にお目にかかることはまずありません。それもそのはずで、既に廃止された制度だからです。

 かつて脱退手当金は、結婚などの理由で若年退職して厚生年金の加入期間が短いため、老齢年金支給の要件を満たさない人等を対象に加入期間に応じた一定給付を一時金の形で支払いそれまでの該当する厚生年金保険の加入期間を精算するため制度だったのです。昭和36年まで、厚生年金は厚生年金加入期間だけで20年なければ年金の受給資格が得られませんでした。そして昭和36年から昭和61年間までは国民年金等と通算で20年でもよしとされるようになりましたが、その期間夫が厚生年金保険の被保険者等の場合の専業主婦は国民年金に任意加入でした。そのため、結婚してからは国民年金に入らないという女性も多く、結果的に厚生年金の加入期間は掛け捨てになってしまう可能性は高かったため、脱退手当金を受給して退職時に精算してしまうことが合理的な選択だったのです。特に、1978年(昭和53年)5月まで、女性に限り2年以上の厚生年金加入期間でも脱退手当金を受け取ることができました。男性が年齢要件があったのに対し、女性は年齢要件もありませんでした。このような要件的な面からも、女性の結婚退職等の場合、脱退手当金の受給は自然なことだったのです。

 昭和60年大改正では原則として満20歳以上60歳未満の全ての居住者が国民年金の被保険者とされるようになり、保険料納付期間及び免除期間を合算して25年以上あれば、厚生年金保険の加入期間が短期間であっても老齢年金の給付に反映されることになるに至り、脱退手当金制度は廃止されたのです。

 実態的には各事業所でその支給手続きをしていましたが、年金制度の認知度が未だ低かった時代には、脱退手当金か退職金か区別もつかないで受給する人も多く、受領印も本人の印鑑を使わない、説明もしっかりとなされなかった場合などもあったようで、脱退手当金を受給していてもその認識をしないで事業所が支給する退職金と勘違いする人も多かったようです。また、ひどい場合には、なりすましで事業所等が受給していることもあったようです。通算年金通則が制定(36年4月)されて、制度的には国民年金などと加入期間を通算して老齢年金受給に結びつくようになっても年金制度の理解不足で脱退手当金として受給した人たちが相当数存在しています。


2.脱退手当金の支給要件

 脱退手当金は、昭和60年大改正によって廃止されました。ただし、昭和16年4月1日以前に生まれた者には支給するということになりました。なぜならこの方々は昭和61年4月1日(昭和60年改正法施行日)に45歳以上で、このときから厚生年金の加入期間である65歳(当時)までは20年未満のため、若い世代に比べて厚生年金加入期間が掛け捨てになってしまう可能性が高かったからです。

(1)支給要件
 脱退手当金を受給するには次のすべてを満たす必要があります。

昭和16年4月1日以前に生まれた者であること
厚生年金の被保険者期間が5年以上あること
③ 被保険者資格を喪失していること
④ 60歳に達していること
⑤ 老齢年金または通算老齢年金を受ける資格がないこと

 また、次のいずれかに該当するものは、脱退手当金を受給できません。

① 障害年金の受給権者であるとき
② 障害年金又は障害手当金を受けたことがある場合は、すでに受けた障害年金又は障害手当金の額が脱退手当金の額に等しいか、又はこれを超えるとき

 掛け捨てにならなかったということで、これらの場合、脱退手当金を受けることができません。遺族年金は、自分が被保険者であったことを理由に受け取るわけではありませんので、掛け捨て防止とは関係ありません。


3.脱退手当金の支給額

 脱退手当金の支給額=平均標準報酬月額×支給率(被保険者期間に応じ、1.1~5.4)

 ただし、障害年金または障害手当金の支給を受けたことのある者については、脱退手当金の額からすでに受給した障害年金又は障害手当金の額を控除した額が支給額となります。


4.脱退手当金受給の効果

 脱退手当金を受給した場合、昭和61年4月以降の計算の対象となった期間については、厚生年金の被保険者であった期間とはみなされません。

 昭和36年4月1日~昭和61年3月31日の計算の対象になった期間は合算対象期間とされます。(大正15年4月2日以後生まれ、かつ昭和61年4月1日以後65歳到達日前日まで保険料納付済期間又は保険料免除期間ありの場合)


5.脱退手当金の失権

 脱退手当金は、次のいずれかに該当したときに失権します。

(1)受給権者が厚生年金保険の被保険者となったとき
(2)通算老齢年金又は障害年金の受給権を取得したとき

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