「デフレの正体」を読んで

最近ビジネス書の書評で話題になっている「デフレの正体」藻谷浩介著を読んでみました。新書版ですが、経済学の教科書に書いてあるような理論を振り回すのではなく、統計数字を基に自分の頭で考え出したことを理路整然と説明した想定外の良書でした。内容は、現在の日本経済不調の原因をマクロ経済理論で説明しようとする通説に対して、我が国の人口構成の変動がもたらす生産年齢人口の劇的な減少こそがその構造的な要因であるという視点から、統計数字を使って丁寧に分析し、説明を試みたものです。その上で、現在我が国が抱える雇用問題を始め不況がもたらしたとされる様々な問題を解決するには何をするべきかについて簡単に政策提言まで行っています。


1.デフレの正体

藻谷氏の提示する統計によれば、2005年から10年までの5年間に850万人を超える戦時中生まれの世代が65歳を超え、Bubble以降に生まれた600万人が15歳を超えています。つまり、15歳から65歳までの生産年齢とされる人口の減少が約250万人で、この数字は過去最大です。さらに、2010年から15年には、団塊の世代が65歳を超えるため、生産年齢人口の減少は5年間で400から450万人に上ると試算されています。この生産年齢人口自体の減少に伴う就業者数の減少とでも呼ぶべき現象は、1995年から2000年までの5年間から見られるようになった現象で、2000年からの5年間も同様でした。

生産年齢人口の動向は、就業者数の動向と強い相関関係がみられます。就業人口が激減するということは、個人所得総額の激減を意味し、これこそが2003年ごろから2008年の世界同時不況の勃発まで続く戦後最長の好景気においても、個人消費が冷え切ったまま内需が一向に盛り上がらなかったことの主因です。これを図式化すると、次のようになります。

生産年齢人口の減少=消費者人口の減少→供給能力過剰→
在庫の積み上がりと価格競争の激化→在庫の時価の低下(著者の言葉で在庫が腐る)


2.生産性を上げるのが正解か

経済成長←生産年齢人口×労働生産性と考え、たとい生産年齢人口が減少しても、生産性を上げることによって補えるという、一般に信じられているドグマに対して、生産性の定義にまで遡って考えてみる必要があると著者は反論しています。つまり、日本企業の生産性が低いのは、生産能力が過剰な中で、長年値引き競争を続けてきた結果、「生産性の分子=付加価値額」の主要部分である内部留保と人件費が構造的に低い水準になっているからであり、「分母=労働者数」が過剰なためではありません。「つまり、コストダウンを重ね利益の低下を甘受して体力勝負で低価格大量生産を続けるというのが得意技になって染み付いてしまっている状態ですので、いくら生産性が低くとも国際的なコスト競争力は失われておらず、輸出が減っていくという状況にはならないのです。」


3.成長戦略ではあいまいすぎる

このように長期的な人口構成の変化がもたらしているデフレと不況対策として、日本経済は何を目標に施策を行っていくべきなのか。著者は次のように提案しています。

(1)生産年齢人口が減るペースを少しでも弱める。
(2)生産年齢人口に該当する世代の個人所得の総額を維持し、増やしていく。
(3)生産年齢人口+高齢者による個人消費の総額を維持し、増やしていく。

藻谷氏によれば、生産年齢人口という切り口から提示されたこれらの目標こそが現状を打開するための真の目標とされるべきで、その結果、経済成長がもたらされるという道筋は正しい議論になりますが、その逆は「真」ではないといっています。つまり、戦後最長の好景気の下でも、確かに個人所得総額の増加は起きましたが、(1)生産年齢人口は減少し、(2)及び(3)も減少したのです。


4.それでは何をすればよいのか

生産年齢人口の減少を食い止め、生産年齢人口に該当する世代の個人所得を維持するために、著者は(1)企業に対して団塊世代の退職で浮く人件費をコスト削減ではなく、若い世代の給料に回すことの奨励や生前贈与の推進などによって高齢富裕層から若者への所得移転を促進する施策を行うこと、(2)女性の就労と経営参加を当たり前にすること、(3)外国人労働者の受け入れではなく、観光産業振興を狙って、外国人観光客及び短期定住客受け入れを促進することの3つの提案を行っています。

本来ならば大量の退職者の穴を埋めるため、人手不足になってもよいはずの労働市場では、若者の就職が極めて難しいという考えてみれば奇妙な現象が続いています。人口減少による国内市場の縮小、円高放置及び高法人税放置の3点セットで多くの大企業は、国内市場に見切りをつけ、成長の見込める亜細亜市場等への投資を促進し、製造業を中心とした国内産業の空洞化は今後益々進みそうな気配を企業は先取りしているからなのでしょう。

本書は、社会保険労務士の業務にも関係の深い、雇用の問題及び社会保険のあり方問題にも人口構成という大局的な視点から言及しています。呑み込みの悪い小生としては、繰り返し読み込んで、問題意識を深化させていきたいと心からそう思わされる良書です。ご一読をお薦めします。


コメント

非公開コメント

トラックバック

http://yokoteoffice.blog130.fc2.com/tb.php/82-6199cdd6