使用者の安全配慮義務

東京都社労士会会報10月号で、金井克仁弁護士が「事業主の安全配慮義務と法的根拠について」と題して寄稿されていたので、その記事をもとに使用者の安全配慮義務についてまとめておきます。

1.安全配慮義務の定義

安全配慮義務とは、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、その法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められる」ものであり、判例法理によって形成されてきた理論です。

使用者の安全配慮義務とは、労働契約における人的・継続的な関係から当事者である労使双方には相手方の利益に配慮し、誠実に行動することが要請されています。この誠実・配慮の要請に基づく労働契約関係において使用者に求められる代表的な付随的義務が安全配慮義務です。一般的には、労働者が労務提供を行うための場所、設備、器具等の設置管理又は労働者が使用者の指示の下に労務を提供する過程において、労働者の生命、健康等を危険から保護するように配慮すべき義務といわれています。

このような判例法理の形成及び確立を受けて、新たに施行された労働契約法では、第5条で「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定する1条を設けることになりました。


2.労災が起こった場合の救済制度

今日、労働者が労災により被害を受けた場合、これを救済する制度として、(1)労働基準法上の労災補償制度、(2)労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という)に基づく労災補償制度、(3)被災労働者又はその遺族が使用者に対して行う損害賠償制度の3つがあります。

労働基準法は、労働者が業務上負傷、疾病又は死亡した場合の使用者の補償責任を規定しています。この災害補償責任は、使用者の無過失責任です。その意味するところは、労働者は災害の発生が「業務上」のものであることを立証すれば、使用者に故意・過失がなくても補償の請求ができるということです。

このような使用者の無過失災害補償責任の履行を確保するために、労働基準法と同時期の1947年(昭和22年)に制定されたのが労災保険法です。同法では、1972年(昭和45年)4月から労働者を使用する全ての事業に労災保険の適用が拡大されるなど、制度の充実が図られてきました。その結果、今日では労災保険こそが労災補償制度の中心的な役割を担うこととなり、労働基準法の災害補償責任が現実に機能する場面は、労災保険法による休業補償給付が支給されない休業最初の3日間の休業補償等に限られてきていると考えられています。


3.労災民事補償制度と安全配慮義務

労災が発生した場合、被災労働者又はその遺族は、災害の発生が業務上のものであることが立証できれば、労働基準法又は労災保険法に基づく労災補償を受けることができます。しかし、この労災補償制度による補償には精神的損害(慰謝料)及び逸失利益が含まれてはいません。この精神的損害及び逸失利益を含めた全損害の回復を図るためには、使用者を相手取り労災民事訴訟を提起します。こうした労災民事訴訟の根拠として、従来は不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、715条)が中心でした。しかし、不法行為による損害賠償請求訴訟では、被災労働者及びその遺族等が使用者等の故意・過失を立証しなけらばならない点が困難であったため、「労働契約等に基づく使用者の安全配慮義務の概念」が次第に確立されるようになり、債務不履行責任(民法415条)に基づく損害賠償請求が行われるようになったという経緯があります。

債務不履行に基づく損害賠償請求とした場合、立証責任が使用者側に転換される点及び時効が3年の不法行為に比べて長い10年であるという点で被災労働者にとって有利とされました。ただし、立証責任については、後に最高裁が安全配慮義務の内容の特定及び該当事実の立証責任は被災労働者側にあるとした判例が出ています。

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