仮眠時間と時間外労働_大星ビル管理事件

 今年の8月は、酷暑と円高の夏になりました。夏は夏らしく暑くなるのは産業全般にとって追い風になるのでしょうが、この真綿で締め上げるような円高は、輸出産業を直撃し、日本経済にとっても相当な打撃になりそうです。また、このような負の見通しからか、日経平均が遂に9000円台を終値で割ってしまい、株式低迷という事実が相乗効果をもたらして経済低迷の一つの要因になってきます。このところ円高から派生している日本経済の動向は、一時的な景気の後退だけでなく、構造的な産業の空洞化につながることが怖いところです。産業が空洞化して雇用がなくなる問題はさておき、本年4月から、施行されている改正労働基準法の要諦は、法定の労働時間(1週間40時間、1日8時間)を超える時間外労働時間について、月当たり45時間以内、45時間超60時間以内、及び60時間超の三段階に細分化し、60時間超については否応なく5割以上の割増率で割増賃金の支払を課していることです。

 時間外労働には今までにも増して厳密な管理が要求されるようになったわけですが、それでは、労働時間とはそもそもどのように考えたらよいのかという点について争われた大星(たいせい)ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日判決)について見てみたいと思います。


1.事案の概要

 Y社は、不動産の管理受託及び管理受託に係る建築物の警備、設備運転保全等の業務を行う株式会社です。Y社の従業員Xらは、Y社が管理した各ビルに配置され、(1)ビル設備であるボイラー、ターボ冷凍機の運転操作、監視及び整備、(2)電気、空調、消防、衛生等のビル内各設備の点検、整備、(3)ビル内巡回監視、(4)ビルテナントの苦情処理、(5)ビル工事の立会、(6)記録、報告書の作成等の業務に従事していました。

 Xらは、毎月数回24時間勤務(註)に従事し、24時間勤務中、休憩が合計1時間乃至2時間、仮眠時間が連続して7時間乃至9時間与えられていました。Xらは、仮眠時間中、各ビルの仮眠室において、警報が鳴るなどの場合、直ちに所定の作業を行うこととされていましたが、このような事態が生じない限り、睡眠をとってもよいことになっていました。また、Xらは、配属先のビルからの外出を原則として禁止され、仮眠室における在室、電話の授受、警報に対応して必要な措置を取ること等を義務付けられ、飲酒は禁止されていました。また、仮眠時間中に警報が鳴った場合は、ビル内の監視室に移動し、警報の種類を確認し、警報の原因が存在する場所に赴き、警報の原因を除去する作業を行うなどの対応をし、また、警備員が水漏れや蛍光灯の不点灯の発見を連絡したり、工事業者が打ち合わせをするために仮眠室に電話をかけてきたときには、現場に行って対応することとされていました。

 Y社の賃金規程によれば、24時間勤務についた場合には、2300円の泊まり勤務手当を支給する旨の規定があるだけで、24時間勤務における仮眠時間は所定労働時間に参入されておらず、かつ、時間外勤務手当及び深夜就業手当の対象となる時間として取り扱いはされてきませんでした。ただし、仮眠時間中に突発的に作業が発生した場合、実作業時間に対しては、時間外勤務手当及び深夜就業手当が支給されていました。

 Xらは、泊まり勤務中の仮眠時間が労働時間に当たるとして、仮眠時間についての労働協約、就業規則所定の時間外勤務手当及び深夜勤務手当乃至労働基準法37条所定の時間外勤務手当及び深夜割増賃金の支払いをY社に求めて提訴したのが本件です。

(註)改正前就業規則による勤務区分には、日勤、早番、中番、遅番、16時間勤務、18時間勤務(始業午後3時、終業翌朝午前9時、休憩又は仮眠途中4時間)、21時間勤務(始業正午、終業翌朝午前9時、休憩又は仮眠途中7時間)及び24時間勤務(始業午前9時、終業翌朝午前9時、休憩又は仮眠途中10時間)があった。改正就業規則による勤務区分においては、従来の日勤、早番、中番、遅番に相当する部分は10の勤務区分に分けられ、16時間勤務、21時間勤務(始業正午、終業翌朝午前9時、休憩又は仮眠午後6時から午後7時まで、仮眠途中連続6時間)及び24時間勤務(始業午前9時、終業翌朝午前9時、休憩又は仮眠正午から午後1時まで、午後6時から午後7時まで、仮眠途中連続8時間)は残された。ただし、これらの勤務区分はあくまで原則であり、各勤務先のビルの実情に応じて勤務時間を変えることができるようになっている。


2.解 説

(1)判決要旨

 ①労基法32条の労働時間(以下「労基法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない仮眠時間(以下「不活動仮眠時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動仮眠時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである(最高裁平成7年(オ)第2029号同12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801頁参照)。そして、不活動仮眠時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。したがって、不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。

 ②そこで、本件仮眠時間についてみるに、前記事実関係によれば、Xらは、本件仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられているのであり、実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しないから、本件仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができる。したがって、Xらは、本件仮眠時間中は不活動仮眠時間も含めてY社の指揮命令下に置かれているものであり、本件仮眠時間は労基法上の労働時間に当たるというべきである。

 ③上記のとおり、本件仮眠時間は労基法上の労働時間に当たるというべきであるが、労基法上の労働時間であるからといって、当然に労働契約所定の賃金請求権が発生するものではなく、当該労働契約において仮眠時間に対していかなる賃金を支払うものと合意されているかによって定まるものである。もっとも、労働契約は労働者の労務提供と使用者の賃金支払に基礎を置く有償双務契約であり、労働と賃金の対価関係は労働契約の本質的部分を構成しているというべきであるから、労働契約の合理的解釈としては、労基法上の労働時間に該当すれば、通常は労働契約上の賃金支払の対象となる時間としているものと解するのが相当である。したがって、時間外労働等につき所定の賃金を支払う旨の一般的規定を有する就業規則等が定められている場合に、所定労働時間には含められていないが労基法上の労働時間に当たる一定の時間について、明確な賃金支払規定がないことの一事をもって、当該労働契約において当該時間に対する賃金支払をしないものとされていると解することは相当とはいえない。

 そこで、Y社とXらの労働契約における賃金に関する定めについてみるに、前記のとおり、賃金規定や労働協約は、仮眠時間中の実作業時間に対しては時間外勤務手当や深夜就業手当を支給するとの規定を置く一方、不活動仮眠時間に対する賃金の支給規定を置いていないばかりではなく、本件仮眠時間のような連続した仮眠時間を伴う泊り勤務に対しては、別途、泊り勤務手当を支給する旨規定している。そして、Xらの賃金が月給制であること、不活動仮眠時間における労働密度が必ずしも高いものではないことなどをも勘案すれば、Y社とXらとの労働契約においては、本件仮眠時間に対する対価として泊り勤務手当を支給し、仮眠時間中に実作業に従事した場合にはこれに加えて時間外勤務手当等を支給するが、不活動仮眠時間に対しては泊り勤務手当以外には賃金を支給しないものとされていたと解釈するのが相当である。
 
 ④上記のとおり、Xらは、本件仮眠時間中の不活動仮眠時間について、労働契約の定めに基づいて既払の泊り勤務手当以上の賃金請求をすることはできない。しかし、労基法13条は、労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約はその部分について無効とし、無効となった部分は労基法で定める基準によることとし、労基法37条は、法定時間外労働及び深夜労働に対して使用者は同条所定の割増賃金を支払うべきことを定めている。したがって、労働契約において本件仮眠時間中の不活動仮眠時間について時間外勤務手当、深夜就業手当を支払うことを定めていないとしても、本件仮眠時間が労基法上の労働時間と評価される以上、Y社は本件仮眠時間について労基法13条、37条に基づいて時間外割増賃金、深夜割増賃金を支払うべき義務がある。

 ⑤労基法37条所定の割増賃金の基礎となる賃金は、通常の労働時間又は労働日の賃金、すなわち、いわゆる通常の賃金である。この通常の賃金は、当該法定時間外労働ないし深夜労働が、深夜ではない所定労働時間中に行われた場合に支払われるべき賃金であり、Xらについてはその基準賃金を基礎として算定すべきである。この場合、Xらの基準賃金に、同条2項、労働基準法施行規則21条(平成6年労働省令第1号による改正前のもの。)により通常の賃金には算入しないこととされている家族手当、通勤手当等の除外賃金が含まれていればこれを除外すべきこととなる。前記事実関係によれば、上告人らの基準賃金には、世帯の状況に応じて支給される生計手当、会社が必要と認めた場合に支給される特別手当等が含まれているところ、これらの手当に上記除外賃金が含まれている場合にはこれを除外して通常の賃金を算定すべきである。


(2)法定労働時間と時間外労働

 労働基準法32条は、法定労働時間を1週間に40時間、1日8時間と定めています。これを超えてする労働は、時間外労働であり、割増賃金を支払わなければなりません。労働基準法37条によれば、時間外労働時間が1箇月60時間以内ならば2割5分以上の割増率で計算した割増賃金、60時間超については5割以上の割増率となります。

 また、割増賃金算定の対象となる賃金の範囲は、通常の労働時間又は労働日の賃金であり、基本給の他諸手当が含まれます。ただし、次の7種類の賃金は、割増賃金の計算の基礎に算入しないことになっています。
①家族手当 ②通勤手当 ③別居手当
④子女教育手当 ⑤住宅手当
⑥臨時に支払われた賃金(私傷病手当)
⑦1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

 本事案では、Xらの賃金は月給制で、基準賃金と基準外賃金によって構成されており、基準賃金は、年齢に応じて支給される基本給、職能に応じて支給される職能給、勤続年数に応じて支給される勤続給、役職に応じて支給される役名給、資格に応じて支給される職務手当、世帯の状況に応じて支給される生計手当、Y社が必要と認めた場合に支給される特別手当等により構成され、基準外賃金は、時間外勤務手当、深夜就業手当、泊り勤務手当、休日出勤手当、当直手当で構成されていました。

 したがって、時間外手当の計算は、原則的として次のような式になると考えられます。

(基本給+職能給+勤続給+役名給+職務手当+特別手当※)÷(156※※)×1.25

※ 中身に上述の除外賃金がふくまれるのであればこれを除外する
※※就業規則等の定めによる

コメント

認められた割増賃金再考

判例百選などを読み返してみたのですが、この判決では、就業規則上「泊まり勤務手当」の類が支給されて不活動仮眠時間については完結している。ただし、時間外や深夜に該当する時間についてはしっかり割増を支払えということをいっているに過ぎないと解されます。しかも、割増賃金の計算については、基本給などによるものですから、
(基本給+職能給+勤続給+役名給+職務手当+特別手当※)÷(156)×0.25)となるのではないかと思います。
1.25の1相当は、「泊まり勤務手当」の支払いで終わっていると考えればよいのでしょう。

2014年07月28日 08:58 from ヨコテ URL

No title

でしょうねえ、、、。
ただ、「調査官解説」では、そのことについて ひとことも 触れていないんです。そこが 「ぶきみ」ですねえ(笑)

2015年09月13日 07:50 from sr-jinjin URL

非公開コメント

トラックバック

http://yokoteoffice.blog130.fc2.com/tb.php/67-0593e676