私傷病と労務受領拒否_片山建設事件

 職種又は業種が特定されていない労働者について、私傷病等のため今までの業務を継続することは難しいが、他の業務ならできるという労働者を会社としてどう処遇するかということについて言及した有名な判例です。


1.事案の概要

 原告Xは20年近く被告会社Y(従業員約130人の建設会社)で建設工事現場の現場監督業務に従事していました。平成2年夏、Xはバセドウ病との診断を受けますが、治療を継続しつつその事実をYには告げずに平成3年2月まで現場監督業務を続け、その後次の現場監督業務が生じるまでの一時的業務として、図面作成などの事務作業をしていました。

 Xは、平成3年8月から現場監督業務をするよう業務命令を受けますが、病気のため現場業務はできないこと、残業は1日1時間に限り可能、日曜日、祝日の勤務は不可能であることなどを申し出ます。会社の要請により診断書も提出しました。

 Y社は平成3年9月30日付けの指示書で10月1日から当分の間自宅療養するように命令します。Xは主治医の診断書を添え事務作業はできると主張しましたが、Y社は診断書に現場作業ができるとの記述がないとして、自宅療養命令を持続します。

 その後、平成4年2月5日に現場監督業務に復帰するまでの期間中、Y社はXを欠勤扱いとして無給とし、賞与も減額しました。Xが欠勤扱い中の賃金と賞与の減額分を請求したのが、本事案です。


2.解 説

 判決では、「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合において、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置、異動の実情及び難易度に照らして、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である」としてXの言い分を認めました(片山組事件 最高裁平成10年4月9日判決)。

 民法543条は、契約解除について「履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」と規定しています。この条文を素直に解釈すれば、労働者が「使用者に使用されて労働」することの「全部又は一部が不能になったとき」に使用者は、その労務提供不能が労働者の責に帰することができない事由による場合を除き、解雇できるということになります。

 しかし、最高裁判決は、「一部」就業できなくなったときについて、本人が担当している業種でない軽易な業種等で、実際に就業可能な「現実的可能性」があるときは、可能な業務をさせることで「債務の本旨に従った履行の提供があったと解するのが相当である」と判示しています。その理由は、そのように解さないと元々軽易な業種に従事していた労働者とそうでない労働者との間で、同様の状況(軽易な業種だけ就業可能な状況)となったときに不公平が生じるからというものです。


3.その他注意点

 本事案では、判決でも述べているように「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合」です。それでは、職種や業務内容が元々特定されている労働契約の場合には、「他の軽易な業種」への配置転換を検討する必然性は低いものになるはずです。実際、中小企業などでは、事務職員は現状で十分であり、営業職を一人でも事務職に配置転換することは困難といったところが実情ではないかと思われます。そのような実情に照らしてそれぞれの職種間で異動はさほど必要性がないような場合に、「職種限定特約付き労働契約」を締結するようにすれば、会社が権利行使する可能性の低い配置転換に関する裁量権を放棄することのかわりに、裁量権に対応する「軽易な職種への変更請求に応じる」などの義務をある程度免れることにつながってくると思われます。

 また、軽易な職種に配置転換した場合の賃金水準の変更については、就業規則の規定通りに運用されていること、過去にあった同様な事例での労働慣行からしても職種間異動で異動後の賃金に変更があったなどの事実があれば、合理的な内容である限り、特に問題はないと思われます。従って、営業職の営業手当などの根拠となる規定を就業規則にしっかりと規定しておくことが重要です。過去に事例がなく、就業規則にも賃金規程、給与規程といったものも特段の規定もない場合には、労使間の合意を経て変更すること、合意事項の内容を文書にしておくことといった手続きを経ておくことが労働契約法の精神に合致し、重要になってきます。

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