同一価値労働・同一賃金議論の行方

 昨日、11月16日は、夕刻から日本橋公会堂ホールで開催された中央統括支部の研修に参加いたしました。明治大学の遠藤公嗣教授による「同一労働同一賃金が与える企業経営・労務管理への影響」という演題の講義が行われました。


1.同一労働・同一賃金議論の現状

 まず、遠藤先生は、我が国の同一労働・同一賃金議論の現状について、次のように経過を解説されております。

2016年1月22日 安倍首相が施政方針演説で非正規従業員の低賃金を引き上げる考え方として、日本的な同一労働・同一賃金を主張。
2016年12月20日 「働き方改革実現会議」が「同一労働同一賃金ガイドライン案」発表。
2017年6月16日  厚生労働省労働政策審議会「同一労働同一賃金に関する法整備について」を厚労相に建議。

 遠藤教授によれば、「同一労働同一賃金ガイドライン案」は、次の2点で、矛盾する内容を含んでおり、首相の周辺で同一労働同一賃金の考え方を主導した経済産業省とこの政策の主務官庁である厚生労働省との思惑も絡んで、安定した法的基準ないしガイドラインが作成される見通しは立たないという見解でした。

(1)正規非正規間の基本給における格差は不問する一方、諸手当、賞与については同じ基準で支払うなど格差是正を目指す。
(2)正規非正規間の格差を設定するのに、「将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」という主観的・抽象的説明では足りず(以下省略)。


2.同一価値労働・同一賃金と職務評価

 我が国の同一労働・同一賃金をめぐる議論をこのように解説した上で、遠藤教授は国際的な動きに言及されます。すなわち、国際標準では、「同一価値労働・同一賃金」およびこれを実践するための職務給という考え方です。「同一価値労働・同一賃金」というのは、同一労働では、同一事業所内に正規と非正規が存在するときにしか使えない概念ですが、同一価値ならば業界内とかより広い概念で使える程度の意味合いのようで、「同一労働」を広義に解釈すれば大した問題ではないように思えましたが、職務給の方は、現在の日本人の働き方に対する考え方に大きな影響を及ぼしてくるかもしれません。

 職務給とは、まず職務評価というものを行います。これは、個々の労働者の仕事の達成度合いの評価などではなく、あくまで仕事そのものに価格をつけるような作業です。そして、「こういう仕事をやってくれたら、これだけの額を支払うよ」という契約の下に支払われる給与で、教授によれば、国際標準ではこちらが主流になっているそうです。一方、我が国の伝統的な賃金制度は、年功給と職能給の組合せによる人を雇ってから仕事を割り振る属人基準の賃金制度であったといえます。しかし、我が国でも(1)時間単位給、(2)役割給などは、職務給ないしは職務給まがいの賃金制度ともいえます。

 職務給が世界標準であるというのは、1951年にILO100号「同一価値労働・同一報酬」条約がILO総会で採択され、この条約では労働の価値は職務を基準にすること、職務の価値は職務評価によって決めることが推奨されたこと、欧米諸国で職務給の考え方が広まっていることなどによります。我が国は、1976年にILO100号条約に批准し、今日に至っています。


3.今後の見通し

 平成28年の統計によれば、非正規労働者の割合は37.5%を占めています。もはや、非正規労働者の賃金水準を引き上げて正規との格差を是正することは喫緊の課題の一つといえます。なぜなら、我が国の人口減少の問題は晩婚化やそもそも婚姻率が減少してきていることであり、その根本的な原因は若者の貧困化にあると考えられるからです。ですから、同一労働・同一賃金の考え方を方便として賃金格差の是正に利用しようという安倍首相の政策は、結果さえ伴えば正しい政策といえると思います。

 しかし、浅草社労士がここで敢えて問題にしたいことは、ILOが何を言おうが「国際標準が必ずしも常に正しいいのか?」ということです。国際標準の職務給制度の模範生ともいえる欧州の経済は、難民移民問題の影響もありますが、好調とは到底言えない状況です。また、そもそも奴隷労働の歴史があり、労働を苦役と考える欧米と奴隷労働など皆無に等しく、労働を尊ぶ伝統を育んできた我が国とでは、労働に対する価値観が全く異なるといっても言い過ぎではありません。確かに、我が国でも、共働きの増加や高齢化による介護需要の激増など、従来の長期雇用と無制限の転勤・配転を前提にした仕組みを維持してゆくのは困難な状況になってきていることは認められます。とはいえ、中長期的に事業を成長させ、イノベーションを起こす力を蓄積するためには、長期雇用がより望ましいに決まっています。90年初頭のバブル崩壊以降、日本的経営を捨てて、米国流経営を採り入れたことは、明確な誤りであったのではないでしょうか。90年代、そして2000年代、政府の経済政策の失敗がその主な要因であるとはいえ、国の生み出す付加価値の合計であるGDPがほとんど成長していないこと、特に1997年以降、我が国は全くといっていいほど成長していません。こんな状況で、また、国際標準だという掛け声の下、新たなことをやっても上手くいくとは到底考えられないのです。

 長期雇用の効用を見直したうえでこれを維持し、賃金水準の決定は経営者の主観的裁量による部分を残しておくことは必ずしも悪いことではないと思います。ただ、賃金水準の客観性を高めることは意味があることで、職務給の考え方から学ぶのはその点です。具体的には、経営者が求める仕事の内容を精査して項目を明確にし、項目をクリアするごとに賃金を加算していくような仕組みを作ることです。

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