副業・兼業解禁論の是非

 東京都社会保険労務士会の会報12月号で、副業・兼業の論点について特集が組まれておりました。安倍内閣は平成28年9月27日、第1回「働き方改革実現会議」を開催し、その中で働き方改革の中身を示す課題として9項目を提示しました。その中で、第5番目に掲げられているのが、「テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方」についてです。ちなみに、「同一労働・同一賃金など非正規雇用の処遇改善」が第1番目の項目です。安倍総理は、10月24日に開催された第2回の「働き方改革実現会議」において、副業・兼業を「オープンイノベーションや企業の手段として有効」であり、企業にこれを認めるよう促すと述べたそうです。

 一方で、中小企業庁による2014年調査によれば、副業・兼業を容認する企業は3.8%に過ぎず、浅草社労士の感触でも大方の企業は、従業員の副業・兼業には否定的立場に立ち、少なくとも在籍したまま他社に雇用されるようなことは、出向などの例外を除き認めていないのが一般です。浅草社労士は、正社員が在籍したまま他社などに雇用される副業・兼業には否定的です。一方、自営など他社に雇用されない副業ならば、本人が進んでやっていることである限り、原則として会社がとやかく言えることではないだろうと考えています。

 さて、就業規則で副業・兼業を禁じていない場合、労働関係法規は副業・兼業をどう考えているかという点です。労働基準法第38条1項は、兼業の場合の労働時間に関して「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用に関しては通算する。」としており、事業主が異なる場合の扱いについては、通達において「事業場を異にする場合とは事業主を異にする場合を含む」とされています。また、労災保険では、第7条2項2号において、就業の場所から他の就業場所への移動も通勤であるとしています。これらの規定から、労働法体系は、公務員の場合とは異なり、副業・兼業の存在を前提としているという結論が導かれます。

 それでは、就業規則で副業・兼業を禁じている場合、その有効性が判例などによってどのように解釈されてきたかという点をまとめると次のようになると思われます。すなわち、「労働者の兼業を禁止したり許可制にする就業規則の規定や個別の合意については、やむを得ない事由がある場合を除き、無効とすることが適当である。ここで、やむを得ない事由としては、①兼業が不正な競業に当たる場合、②営業秘密の不正な使用・開示を伴う場合、③労働者の働き過ぎによって人の生命又は健康を害する恐れがある場合、④兼業の態様が使用者の社会的信用を傷つける場合等が含まれることとすべきである。」つまり、就業規則で副業・兼業を禁止しても、訴訟になれば「やむを得ない事由」ありと判断されない限り、原則は無効であるということです。

 しかし、ここで社員が在籍したまま他社などに雇用される副業・兼業の場合、特に正社員など週40時間程度の勤務形態をとっている社員の場合には、様々な労務管理上の技術的問題が生じてくるのではないかと危惧します。まず、労基法上の労働時間ですが、昼休みの1時間を挟んで9時から18時まで勤務している社員がその後兼業で別の事業主の下勤務しているとすると、この兼業時間はすべて時間外の割増賃金を支払う必要が出てきます。しかし、このような労働時間を通算して管理することが実務的に可能なのか、可能だとして、一体誰が割増賃金を支払うのか、困難な問題が生じます。

 労災の適用についても、上記の例で、本業の事業所の仕事が終わり、兼業先に向かう途上及び兼業先からの帰途に被った負傷については兼業先の会社に関連した通勤災害とみなされ、給付基礎日額は兼業先の賃金を基にして算定されることになっています。通勤災害とされて、労災の適用があるだけましですが、住居から本業の事業所に向かう途中の通勤災害とは給付基礎日額に思いがけない差が生じることになるのです。

 雇用保険については、労災保険とは異なり、「主たる賃金を受ける一つの事業主の下でのみ被保険者となる。」ので、被保険者となっている会社でのみ雇用保険に加入することになり、権利義務関係は比較的すっきりしているのですが、それでも、いざ失業給付を受けるときに、兼業からの収入やそもそも兼業で雇用されていることをどう解釈するかなど、複雑な問題が生じることがあるようです。

 そもそも、副業・兼業の勧めというのは、週40時間程度働く一般の勤労者を想定すると、必然的に働き方の課題9項目の第3項目、「時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正」とは折り合いのつかない可能性が高い課題といえます。こう考えると、副業・兼業が進められる対象労働者というのは、現状短時間で勤務している者などごく限られた特殊な場合だけとなってくるのではないでしょうか。とはいえ、いわゆるデフレ経済がほぼ20年も続いた結果、2以上の複数事業所で働かざるを得ない労働者は相当数おられるようで、マクロ経済的には一刻も早いデフレからの脱却と実質賃金の引き上げが課題ですが、ミクロ的には、こういった方々も健康を損なわないで働いてゆけるような労働法体系の整備と解釈が必要な時期にきていることを感じてしまいます。

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