定年後の再雇用で賃金格差は違法か2_二審判決で逆転

 浅草社労士は、厳格な意味での「同一労働・同一賃金」の考え方は、文化の違う欧米流の猿真似なので反対であるとする立場を何度かこのブログでも表明してきました。その理由は、これから何十年も会社に貢献することが期待される若者と数年後に定年に達する年齢の老人が同時に入社して同じ仕事をするという場合を想定すると、同じことをする点だけに注目して同じ賃金を支払うということがありえないことだということに尽きます。また、同じような状況でも、この老人が長年会社に貢献してこられた功労者で、今は身体の衰えから今年入社の若者と同じことをしているという場合などには、また、別の配慮があって良いと考えるのが普通の日本的な発想です。「同一労働」というのは、単に目に見える今そこで行われている現象だけを見るものではなく、その中に様々な要素が含まれるものでなければならないように思えます。前述の若者と老人の例の他、正社員と非正規や地域限定正社員などの例でも、たとい今現在同じ労働を現象的には行っていたとしても、正社員の方は業務命令一つで全国どこにでも転勤していかなければならないとか、将来かなり異なる業務に取り組まなければならないなどといった賃金にプレミアムをつけるべき条件が付加されているとも考えられるのです。米国流の「ポスト」というのも、単純な同一労働というよりは、このような要素がある程度は織り込まれた概念だと思われます。

 政府は、正社員と非正規労働者の間に理不尽な賃金格差が生じてしまっている現状を是正するために「同一労働・同一賃金」の原則を方便として使っていこうとしているように見えます。しかし、政府の方針に迎合するかのような訳の分からない判決が出されてはたまったものではありません。平成28年5月13日東京地裁判決がその第二審となる高裁判決でひっくり返されています。定年後に同じ会社に期限付きの嘱託社員として再雇用された男性3人が、定年前と同じ仕事内容なのに賃金が下げられたのは労働契約法(有期労働者への不合理な労働条件の禁止)違反だとして、会社側に適切な賃金の支払いを求めた訴訟の控訴審判決が11月2日、東京高裁で下されています。二審判決は、原告側の主張を認めた一審判決を取り消し、会社側の勝訴となる内容になりました。

=== 産経新聞電子版 11月2日 ===
 
 定年後に同じ会社に期限付きの嘱託社員として再雇用された男性3人が、定年前と同じ仕事内容なのに賃金が下げられたのは労働契約法(有期労働者への不合理な労働条件の禁止)違反だとして、会社側に適切な賃金の支払いを求めた訴訟の控訴審判決が2日、東京高裁であった。杉原則彦裁判長は「定年後の給与減額は社会的に広く行われ、容認されている。企業の人件費を抑え、若年層の安定雇用の実現などを考慮すれば一定の合理性がある」と指摘。原告側勝訴とした1審東京地裁判決を取り消し、賃金減額は妥当だと判断した。原告側弁護団によると、定年後の労働者の賃金額の妥当性をめぐる訴訟は初。今年5月の1審判決が「定年前と同じ仕事をしていれば、賃金の減額は違法だ」との判断を示したことで、企業などから注目が集まっていた。

 判決などによると、3人は横浜市の運送会社で正社員の運転手として働き、平成26年に定年退職。その後、1年間などの嘱託契約を結んだが、正社員時代と同じ仕事をしながら給与や賞与が下げられ、年収は約3割減った。労働契約法20条は有期労働者の賃金について、「仕事内容や責任の度合い、転勤の範囲、その他の事情を考慮し、正社員の賃金と比べて不合理であってはならない」と規定。争点は、定年前と同じ仕事をしていた原告3人の賃金減額は、総合的に考慮して合理的といえるかどうか-だった。

 1審判決は「会社の経営状況は悪くなく、賃金を抑える合理性はなかった」「再雇用が年金受給開始までのつなぎだとしても、嘱託社員の賃金を下げる理由にはならない」などと指摘。原告側の主張を全面的に認め、会社側にそれぞれ約100万~200万円を支払うよう命じた。しかし東京高裁は「同じ労働条件であっても、定年後の賃金減額は社会一般で広く行われており、そのことは社会的に容認されている」と指摘した。

 その上で、(1)企業の人件費の無制限な増大を回避し、若年層を含めた労働者全体の安定的雇用を実現する必要がある(2)60歳以降に賃金が低下した場合に補填(ほてん)する制度(高年齢雇用継続給付など)がある(3)定年後の再雇用は、いったん退職金を支給した上で新規の雇用関係を締結するという特殊な性質がある-などの点を考慮し、「賃金減額には一定の合理性がある」とした。

 判決後に会見した原告側は「現状追認型の判決で、到底納得できない」とし、上告する意向を示した。

=== 転載終わり 下線は浅草社労士 ===

 二審判決の結論は、全く妥当なもので、一審判決が述べている「再雇用が年金受給開始までのつなぎだとしても、嘱託社員の賃金を下げる理由にはならない」という点をニュアンスとしては否定しています。そして、「まさに年金受給開始までのつなぎではないか」というように解しているといえます。その理解は、そもそも国が年金支給開始年齢を繰り下げたことにより生じた60歳以降の無収入期間を企業の負担で何とかしのいでもらうものという継続雇用制度の実態と合致しています。また、マクロ的な労働政策の視点からの「企業の人件費の無制限な増大を回避し、若年層を含めた労働者全体の安定的雇用を実現する必要がある」との主張にも高い説得性があり、最高裁判決でこの結論が変わることはないものと予想されます。

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