人を生かす経営

 嘉悦大学大学院教授の黒瀬直宏は、長年中小企業経営の事例研究を専門分野とされ、提言をしてこられた方です。3月17日に放送された、NHKのラジオ番組で「中小企業の人を生かす経営」と題して、次のような事例を紹介されています。中小企業に限らず、日本企業のあり方として、大いに参考になる内容を含んでいるように思われます。

 黒瀬教授がこの日取り上げられたのは長野県の中央タクシーという会社です。このタクシー会社は、地元の顧客が海外旅行に出掛ける際に乗り合いタクシーを出して成田空港までお連れする「空港便」という商品を開発したことでも知られているそうです。

 この会社の特長の一つは、乗務員同士の人間関係が極めて良いことです。経営者は、まず乗務員同士挨拶を励行することから始め、2010年からはハートフル・カードという試みを始めました。これは、従業員に「会社の内外で見聞きした素晴らしいこと、感動したことをこのカードに書いて、社内に貼り出す」ことを奨励する仕組みです。いわゆる「ほめカード」というもので、中小企業ではこのような仕組みを取り入れて従業員の人間関係を改善する試みは珍しくはないようです。しかし、「ほめカード」も従業員がためにするような行動をとるようになっては本末転倒ですし、面倒がる者も中にはいるでしょうから、軌道に乗せるのはそれなりに難しいと思われます。こういう仕組みが定着する土壌を根氣強く作ってゆくことが経営者の腕の見せ所なのかもしれません。

 こうして、従業員満足に尽力した結果は、数字に表れています。同社の離職率は2%で、平均30%といわれるタクシー業界一般の離職率に比べて驚異的な低さになっていると紹介されています。しかも、同社は特定の売上目標を掲げないのですが、売上は同業者平均のおよそ3倍をたたき出すといいます。

 この魔法のような結果は、同社の特長の第二にあげられる、「お客様が先、利益が後」という営業姿勢によるものだと黒瀬氏は分析しています。つまり、従業員満足に成功した同社のタクシー乗務員たちは顧客に喜んでもらおうという氣持ちを強く持つようになるのです。あるとき、この会社の乗務員が電動椅子に掛けている顧客に当たりました。電動椅子は物理的に車に乗せられなかったので、そのとき乗車を断ることもできたのですが、この乗務員は1時間ほどかけて電動椅子を分解して車に乗せ、行先で組み立てることまでして顧客を運んだのでした。効率重視、利益重視の観点からは明らかに無駄なことのように見えますが、こうした姿勢を同社の多くの従業員が共通して持っているため、結果として同社のファンといえるような顧客が次第に増えてゆき、もはや顧客との精神的な共同体のようなものが形成されてしまっているようです。こうなると同業他社が入り込んでくる余地はありません。中小企業経営を成功させる重要な要因として、この「顧客との精神的な共同体的つながり」が挙げられると思います。そして、顧客満足は従業員自身が幸せで、自社を愛している環境からしか生まれ得ない発想だと痛感させられるお話でもありました。

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