海外進出に関する2つの異なる見方

 今年はシナ経済の失速が顕在化するにつれ、世界経済が大きな影響を受けた年でした。年率7%を優に超えていたGDP統計はそもそも鉛筆をなめて作られた数字で信用できず、首相自身が鉄道交通量と電力消費量の推移をみて景況判断していると伝えられ、最近では信用できるのは唯一輸出額だけであるとさえささやかれる始末です。そんな国際情勢が続く中、最近読んだ本や雑誌の中に2つの対照的な見解を発見することができました。一つは、証券アナリストジャーナル誌の9月号で、アジアにおける資産運用を主題にした第6回国際セミナーの講演録とパネルディスカッションを特集していました。もう一つは、2009年に初版が上梓された伊那食品工業という会社の会長をされておられる塚越寛氏の「年輪経営」の中の「社会主義には信用という概念がない」という一節です。

 証券アナリストジャーナルでは、佐藤秀樹氏の講演「グローバル資産運用会社のアジアに対する経営戦略」を紹介しているのですが、とにかく亜細亜礼賛なのです。たとえば、次のような指摘です。「コア市場は日本・豪州からインドを含むアジアに移る。富裕層の人口と資産の伸び率は中国、インド、インドネシアで著しい。中国では保険会社の運用外部委託が解禁され、ジョイントベンチャーや100%外資会社制度の準備が進んでいる。」しかし、この講師も規制の問題は明確に意識しており、「中国では事前にどれだけ詳しく調べても、規制の細目がどのように適用されるのか分からないところがあり、この傾向は将来、改善される見込みはない」と認めています。このセミナーが開催された後に発生した上海株式市場の暴落で、当局は半数以上の株式を取引停止とすること、大手投資家に半年間売買を禁止することなどの禁じ手とも言える措置を採ったのは周知の事実です。面白いことに、これらのことを踏まえて、ジャーナル誌が「資産運用会社の中国進出計画を評価するためには、撤退や拡大などのオプションを加えたリアル・オプション・アプローチが必要になるということだろう。」と結論付けていることです。ハイリスク・アンド・ハイリターンを求めるのか、事前に把握することすら困難なリスクにもひるまない、まさにグローバル投資家の鏡のような机上論で結んでいるのです。

 こういった見解に対して、伊那食品工業の塚越寛会長は、今から6年も前に上梓された著書「年輪経営」で全く異なることを仰っておられます。ところで、伊那食品工業と塚越会長とはどんな会社でどんな経営者なのか、塚越氏は著書の中で次のように述べておられます。

 「経営にとって『本来あるべき姿』とは、『社員を幸せにするような会社をつくり、それを通じて社会に貢献する』ことです。売上げも利益も、それを実現するための手段に過ぎません。会社を家庭だと考えれば、分かりやすいでしょう。社員は家族です。食べ物が少なくなったからといって、家族の誰かを追い出して、残りの者でたべるということはあり得ません。会社も同じことです。家族の幸せを願うように、社員の幸せを願う経営が大切なのです。また、そう願うことで、会社経営にどんどん好循環がうまれてきます。」(4頁)

 では、その塚越会長がシナ進出についてどう著作の中で述べておられるのでしょうか。塚越会長の見解は単純で唯物論の社会主義国には「信用」という概念が育ちにくく、「信用」という概念がない国には進出できないというものです。

 「しかし、私は中国への進出は見合わせています。まず、脱硫装置もないようなボイラーが平気で操業しているという環境軽視の問題があります。ただ、それよりも大きな理由は、社会主義国には『信用』という概念が感じられなかったことです。私は中国のほかソビエト(現ロシア)、北朝鮮、ブルガリア、ベトナムなど幾つもの社会主義国を訪れたことがあります。もちろん、商売ができないかと考えてのことです。しかし、どの社会主義国でも、商品は『ただの商品というモノ』としてしか扱われていない印象を受けました。唯物論の国だからでしょうか。」(116頁)

 本が上梓された2009年といえば、リーマンショック直後であり、我が国は強烈な円高に痛めつけられる一方、シナ経済がいち早く立ち直りを見せた時期でもあり、大陸への進出熱は今と比べてもずっと高かったと記憶されます。そんな時代潮流に逆行するかのように自らの体験と直感を重視された塚越会長の対応は、今となっては慧眼としか言い表しようがありません。

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