子の行為と親の賠償責任

 労働法絡みの不法行為でよく俎上に上せられるのが民法715条の使用者責任です。この条項は、民法の例外である無過失責任を認めたものとされていますが、その根拠として挙げられるのが、報償責任の法理といわれるもので、これは、「利益を得ているものが、その過程で他人に与えた損失をその利益から補填し均衡をとる。」という理屈です。また、危険責任の法理という考え方もその根底にあるといわれていますが、これは、「危険を伴う活動により利益を得ている者は、その危険により発生した他人への損害について、過失の有無にかかわらず責任を負うべきである」という考え方です。

 その一つ前の条文が、民法714条で、今回採り上げられる責任無能力者等の監督義務者等の責任について規定しています。その第1項は、「前2条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」というものです。

 いまから11年前、学校の校庭でサッカーをしていた小学6年生の男児(当時11歳)が蹴ったボールが道路に飛び出し、それをよけようとした男性(80代)が転倒して、約1年半後に死亡するという事件がありました。その男性の遺族が少年の両親に対して損害賠償を求めた裁判で、最高裁第一小法廷(山浦善樹裁判長)は4月9日、監督義務違反があったとして両親に賠償を命じた2審の高裁判決を破棄し、遺族側の請求を棄却する判決を下しました。個別具体的な事件の状況は当事者にしか分からないものですが、一般論としては、子の行った行為に故意や過失は認められるとは思えないので(1、2審は、子の過失を認めた上で、親に監督義務責任が有りとした)、ここで親の賠償責任を認めるとすると714条は、715条に近いかそれ以上の無過失責任を認めることになり、世間一般の常識に反する結論を導くことになりかねないと思われます。

 とはいえ、少なくとも当該事件の第1審と2審の高裁判決では、親の責任を認める判断を下していたわけで、最高裁は、高裁判決を覆す逆転判決を敢えて行ったということになります。以下、弁護士ドットコムからの転載です。記事を読むと、やはり少年に過失があったことを前提に、両親が「監督義務」を怠っていなかったかが争点になっていたようです。しかし、そもそも少年の過失を認定することに無理があった事例のように思えてなりません。ただ、ここは、個別具体的な事件の詳細を見た上での裁判官による事実認定と判断を信頼するしかないのでしょう。

=== 弁護士ドットコム ===

「監督義務者としての義務を怠らなかった」
 裁判で最大の争点となったのは、サッカーボールを道路に蹴り出してしまった少年の両親が、子どもの「監督義務」を怠っていたといえるどうかだ。この点について、最高裁は判決文で次のように指摘した。

 「ゴールに向けたフリーキックの練習は、通常は人身に危険が及ぶような行為であるとはいえない。また、親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は、ある程度一般的なものとならざるを得ない」このように述べたうえで、「通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によって、たまたま人身に損害を生じさせた場合は、当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り、子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない」と判断基準を示した。

 そして、今回の少年の両親について「危険な行為に及ばないよう日頃から(少年に)通常のしつけをしていたというのであり、(少年の)本件における行為について具体的に予見可能であったなどの特別な事情があったこともうかがわれない」として、子どもの「監督義務者としての義務を怠らなかった」と判断したのだ。

少年の両親の代理人「画期的な判断だ」
 事故が起きたのは2004年2月。愛媛県今治市の小学校の校庭で、放課後にサッカーをしていた少年がゴールに向かってボールを蹴ったところ、ゴール後方のフェンス等を越え、道路に転がり出てしまった。そこに通りかかったオートバイに乗った男性が、ボールをよけようとして転倒。事故直後に男性は認知症の症状が出て、約1年半後に肺炎で死亡した。

 遺族は2007年、約5000万円の損害賠償を求めて提訴。1、2審は少年の行為に過失があったと認めたうえで、両親が少年の監督義務を怠っていたとして、1審は約1500万円、2審は約1100万円の賠償を命じていた。しかし最高裁は、両親に賠償責任はないとする「逆転判決」を下した。

 最高裁判決を受け、少年の両親の代理人を務めた大石武宏弁護士らが東京・霞ヶ関の司法記者クラブで会見を開き、次のように語った。

 「これまで未成年の行為について、親が監督責任を免れるのはほぼ困難とされてきた。今回の判決は、子どもの行為の性質や危険性に着目して、個別具体的に判断すべきとしている。今後の裁判実務において、大きな影響がある画期的な判断だと考えています」

少年の父親「これから先も苦しみ、悩みを持ち続ける」
 しかし、1審と2審で敗訴した被告が、最高裁で「逆転勝訴」を獲得するケースは極めてまれだ。最高裁に上告すべきかどうかについては、少年側の弁護団のなかでもさまざまな意見が出たという。「親の監督責任を免れることのハードルの高さは、法律実務についている以上、十分に認識してきた」(大石弁護士)。それでも上告に踏み切ったのは、次のような思いがあったからだった。

 「事実だけをとらえ、法律論を離れて一般社会の目線でみたときに、これで親の責任が問われるのだろうか、と。そこで、最高裁の判断を仰ごうと考えた。子どもの行為といっても、さまざまだ。喧嘩をしてナイフを持ち出して相手をケガさせた場合もあれば、非常に危険なスピードで乗り物を運転をして誰かをケガさせた場合もある。また、本件のように、平日の放課後、小学校のグラウンドで、そこに設置されたゴールに向かって蹴ったという『日常よくある行為』もある。過失と違法性が認められる行為という点では同じだとしても、(親の監督責任についても)同列に考えてもよいのか、と考えた」
(以下省略 下線は浅草社労士)

=== 引用 終わり ===

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