労働契約における責任制限法理

 東京都社会保険労務士会の発行する会報1月号に「業務上のミス・ノルマ未達を理由とする労働者に対する損害賠償請求」という表題で労働判例の解説記事が掲載されておりました。記事では、事案としてエーディーディー事件(大阪高裁平成24年7月)が取り上げられ、大阪高裁の下した結論は、会社側が労働者に対して、「労働契約上の債務不履行による損害賠償請求をすることは信義則上許されない」というものでした。

 従業員が業務遂行の過程で会社に損害を与えることは起こり得ることです。その場合に、使用者は従業員に対して損害賠償請求を行うことができるのか、その根拠は何かということです。使用者も従業員に対して当然被った損害の賠償は請求できるのであって、その法的根拠は、民法415条の債務不履行又は同法709条不法行為です。また、715条に定められた使用者責任によって使用者が第三者である被害者からの損害賠償に応じたときには、労働者に対する求償権が生じることになります。ここで注目しなければならないことは、労働関係の特殊性から導き出され、判例によって形成されてきた「責任制限法理」です。この考え方の背景にあるのは、労働関係における労働者保護の思想であり、使用者は労働者を使用することから利益を得ているのだから、当該関係から当然に生じる危険はある程度は負担すべしという「危険責任論」あるいは「報償責任論」と呼ばれるものです。

 責任制限法理によれば、基本的に「業務に通常伴う労働者の過失(軽過失)による損害については、労働者は責任を負わない、また、労働者の故意又は重過失による場合であっても、その責任が諸々の事情を勘案して縮減される場合がある」とされています。ただ、実際に生じた事例、運転手による運転中の事故(最近も関東地方でバスの運転手が突然意識不明となり、深刻な事故が起きたばかり)、会社の機械・設備の破損、旅費などの不正請求、取引上のミス、企業秘密の漏洩などのほか、退職後の競業行為など、どのような場合に、どう適用されるのか、その判断基準が争われることになるのです。

 記事では、過去の判例が取り上げられ、労働者側の事情だけでなく、使用者側の状況についても、過重な労働やノルマを課していなかったか、不正行為や損害発生の防止措置を適切にとっていたか、交通事故に備えて保険に加入していたかなどが、勘案されることが指摘されています。
(1)「刑法の詐欺に該当する犯罪行為であり、懲戒解雇事由に該当するから」として請求額の全額を認めた。
(2)過重な労働環境、会社側がそれに氣ついていながら対策を講じていなかったことから、損害額の4分の1に減額。
(3)上司から目標達成を繰り返し指導され、会社による再発防止策が不十分であったことから2分の1に減額。
(4)会社から目標達成に関する過度の圧力が従業員にかけられていたと認定され、損害の1割に減額。
(5)自動車事故では、会社が対物賠償責任保険及び車両保険に加入していなかったこと、従業員が臨時的常務であったことなどから損害額の4分の1に減額。
(6)車両保険に加入していなかったこと、労働条件及び従業員に対する安全指導、車両整備などに問題があったことなどから損害額の5%に減額。

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