財政検証の報道を受けて

 今年、平成26年(2014年)は、厚生労働省が法律で5年に1度行うことになっている、およそ100年間にわたる公的年金の財政状況の見通し、「財政検証」を行う年に当たり、その結果が昨日公表されました。NHKの昨晩の報道によれば、次のような内容です。

=== NHK News WEB ===

年金の給付 経済順調なら50%維持

 厚生労働省は、およそ100年間にわたる公的年金の財政状況の見通しを公表し、経済が順調に成長すれば、政府が約束している現役世代の平均収入の50%以上の給付水準をかろうじて維持できるものの、経済が成長しない場合は、最悪で35%程度まで落ち込むこともありうるとしています。厚生労働省は、今回の結果を踏まえ、制度改正を検討することにしており、給付水準を抑制する措置の拡大や保険料の拠出期間の延長などが議論される見通しです。

 厚生労働大臣の諮問機関である社保審=社会保障審議会の年金部会が開かれ、厚生労働省は、法律で5年に1度行うことになっている、およそ100年間にわたる公的年金の財政状況の見通し、「財政検証」の結果を公表しました。政府は、現役世代の平均収入に対して、夫婦2人のモデル世帯が受け取る年金額を示す「所得代替率」が、将来にわたって50%を上回ることを法律で約束しており、今年度は、現役世代の平均収入が34万8000円なのに対し、モデル世帯の年金額は満額で21万8000円で「所得代替率」は62.7%でした。

 そして今回の「財政検証」では、中長期の経済成長率が1.4%の場合からマイナス0.4%の場合まで8つのケースで検証しました。このうち経済が順調に成長するとした5つのケースでは、モデル世帯が受け取る年金額の「所得代替率」が現在の62.7%から、およそ30年後に51.0%から50.6%までの範囲に下がるものの、その後、2110年度まで一定になり、かろうじて50%を維持できるとしています。一方、経済が成長しないとした3つのケースでは、およそ25年後に「所得代替率」が50%を割り込み、2110年度までの間に、45.7%から、最悪で35%程度の範囲まで下がり、政府が約束を達成するのは難しいという結果となりました。

 さらに今回は、「オプション試算」として、年金額を一定の割合で強制的に抑制する措置を拡大した場合、国民年金の保険料の拠出期間を40年間から45年間に延長した場合、それに、一定以上の収入のある短時間労働者を国民年金から厚生年金に移した場合などの検証も行い、いずれも今の制度より「所得代替率」が改善するという結果になりました。今回の結果を受けて厚生労働省は、年金制度をより安定的に運営していくための制度改正を検討することにしており、ことし夏以降、社保審の年金部会で、「オプション試算」の結果も参考に議論が進められる見通しです。

「所得代替率」とは
 「所得代替率」は、働いている現役世代の平均の手取り収入に対し、夫婦2人のモデル世帯の年金額がどの程度の割合になるかを表したもので、年金の給付水準を示す指標です。モデル世帯は、夫が平均的な収入を得るサラリーマンとして、40年間働いて厚生年金の保険料を納め、妻が40年間、専業主婦だった場合を想定しています。政府は、働いている現役世代の半分以上の収入があれば、高齢者の夫婦が一定程度の生活水準を維持できるとしていて、将来にわたって、50%以上の「所得代替率」を確保することを法律で約束しています。

日本の公的年金制度
( 省 略 ) 

積立金の運用方針見直しへ
 今回の「財政検証」で、今後の年金給付に必要な金額の見通しなどが示されたことを受けて、120兆円を超える公的年金の積立金を運用する、「GPIF=年金積立金管理運用独立行政法人」は運用方針を見直すことにしています。「GPIF」の去年12月末現在の運用状況は、国内債券が55%、国内株式が17%、外国株式が15%、外国債券が11%となっており、国債などの国内債券に偏っているのではないかという指摘が出ています。こうしたなか、政府の有識者会議は、去年11月、収益性をより高めるため、積立金の多くを国債に投資している今の運用方針を見直して、リスクのある金融商品にも投資することなどを求める報告書をまとめました。また、ことし4月には、GPIFで業務の監視や積立金の運用方針の策定などに当たる「運用委員」に新たに7人が任命され、運用方針の見直しを求めた政府の有識者会議のメンバー3人も含まれました。

 ただ、株式やリスクのある金融商品への投資については、運用で失敗した際の年金財政への影響を懸念する声も出ています。GPIFは、今後、新たな「運用委員」の下で来年4月からの運用方針を、年内にも策定することにしていて、株式の運用比率がどの程度になるかなどについて、国内外の市場関係者らの注目が集まっています。

=== 引用終わり(下線は筆者) ===

 この報道の読み方として、第一に押さえておくべきは、想定の上限成長率で成長したとしても、所得代替率が現行の62.7%から50%をかろうじて上回る程度に低下するという点です。これは、賦課方式を採用している我が国の年金制度で、少子高齢化が進行する状況ではやむを得ないことなのでしょう。かといって公的年金において積立方式を中心に制度を組み替えることには、世代間の負担の組替えや高いインフレ率に対する対応などの困難な問題が伴っています。

 それにしても、長期的な平均値の成長率とはいえ、我が国の成長率の見積もりは上限で1.4%程度なのでしょうか。楽観論は禁物ですが、正しい金融政策及び財政政策を採ることでより高い成長率を維持していくことは可能であるような感じがいたします。バブル崩壊以降に推し進めた金融緩和不足による結果的な円高政策、超円高が誘発した製造業の海外移転による国内空洞化政策などは、国内の成長力を引き下げる結果をもたらしました。現在進んでいるように見える、脱原発及び再生エネルギー買取制度による電力料金の大幅引上げ、LNGの大量輸入なども短期、おそらくは中期的にも成長力を大きく削ぐ政策となっていることでしょう。このような低成長につながる主張に与しておいて、年金を始めとする社会保障を充実させろというのは、つじつまの合わない考え方だと思われます。また、手枷足枷をはめられた条件で競争することによって、日本の技術革新が進み、競争力のある新たな国産技術やエネルギーが生み出されるのだというのは、それこそ楽観に過ぎるように思えるのです。

 第二に、国内経済の成長力を維持していくことと同時に考えなければならないことは、年金の元手として積み立てている年金資産の運用力を高めることです。この点について、今回の財政検証の結果を踏まえ、8月頃までに年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が資産構成比率が定められた基本ポートフォリオを見直すという見方が広がっています。現行では、国内債60%、国内株12%、外債11%、外株12%、短期資産5%(2013年末時点の実勢は国内債が55.2%と06年度の設立以降で最低となる一方、国内株は17.2%と07年12月末以来の高水準を記録、外債は10.6%、外株は15.2%だった)ですが、安倍総理はデフレからの脱却を経済政策の第一の目標と明言し、日本銀行の黒田東彦総裁が2%の物価目標を掲げる中、国内債の大量保有は金利上昇で評価損を被る恐れのあることから、比率引下げと収益向上のためのリスク資産の拡大を検討することが急務となっていると判断すべきでしょう(GPIFの資産構成見直しへ弾み、厚労省検証で年金財政見通しが判明)。

 また、NHKの記事で「オプション試算」として言及されている、(1)年金額を一定の割合で強制的に抑制する措置を拡大した場合といっているのは、いわゆるマクロ経済スライドのことだと思われます。(2)国民年金の保険料の拠出期間を40年間から45年間に延長した場合、(3)一定以上の収入のある短時間労働者を国民年金から厚生年金に移した場合、というのは、既に試案が報道されたり、一部法制化が進められている事柄です。

20140604_財政検証結果

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