裁量労働制拡大をめぐる最近の動向

1.企画型裁量労働制の拡大

 9月26日の日本経済新聞は、最近の裁量労働制に関する議論の動向について、次のように伝えています。

「厚生労働省は労働規制の緩和の一環として、働く時間を労働者が柔軟に設定できる「裁量労働制」を拡大する方針を固めた。企業で業務の企画・立案、調査などを担う社員に幅広く適用できるよう対象を広げ、手続きも簡略化する方向だ。長時間労働が広がると警戒する声も根強いが、個人のワークライフバランスの改善につながる利点もある。27日から労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の分科会で議論を始め、2015年の通常国会に労働基準法の改正案を提出することを目指す。

 裁量労働制は実際の労働時間とは関係なく、一定時間働いたと事前にみなして賃金を計算する。深夜早朝や休日の手当は発生する。コピーライターや弁護士など専門職が対象の「専門業務型」と、経営企画や調査・財務担当者向けの「企画業務型」の2種類がある。厚労省は裾野が広いものの、適用率が低い企画業務型の対象を広げる。」

 同紙によれば、政府内で一部の地域又は会社に限定して完全に労働時間規制の適用を除外する「ホワイトカラーエグゼンプション」の導入を求める動きもあったようですが、厚生労働省は経済界の要望が強い裁量労働制の緩和を進め、全国一律での導入拡大を狙うということで、経済特区構想に便乗した「ホワイトカラーエグゼンプション」の導入の動きなどは、ひとまず後退したようです。


2.裁量労働制とは何か

 労働基準法の教科書によれば、まず「みなし労働時間制」という概念があります。そもそも鉱工業に従事する労働者を主に想定して設計されている労働基準法ですが、第3次産業の拡大又は技術革新の進展などに伴い、営業活動、記事の取材活動など事業場外で労働するために使用者の具体的な指揮監督が困難な業務、又は、研究開発、放送番組の企画など業務の性質上その業務の具体的な遂行について労働者の裁量に委ねる必要があるために使用者の具体的な指示になじまず、通常の方法による労働時間の算定が適切でない業務が増えてきているという実態があります。「みなし労働時間制」は、このような社会の変化に対応するために設けられた制度といわれています。

 「みなし労働時間制」は大きく分けると2種類です。第1に、正確な労働時間の算定が不可能又は著しく困難なために設けられている「事業場外労働に関するみなし労働時間制」が挙げられます。第2に、労働者の裁量に委ねられるべき業務で、労働時間を算定すること自体が不適切と考えられる業務が挙げられます。これが、裁量労働制に分類される業務であり、(1)専門業務型裁量労働制、及び、(2)企画業務型裁量労働制の2種類が想定されています。

(1)専門業務型裁量労働制

 「使用者が、労使協定により、専門業務型裁量労働制の対象となる業務のうち労働者を就かせることとする業務、当該業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間及びその他一定の事項を定めた場合において、労働者を当該業務に就かせたときは、労使協定で定める時間労働したものとみなす。」というのが、専門業務型裁量労働制です。

 「専門業務型裁量労働制の対象となる業務」とは、厚生労働省令で定める以下の業務とされます。
 ①新商品、新技術の研究開発、人文科学、自然科学に関する研究業務
 ②情報処理システムの分析又は設計業務
 ③新聞、出版事業における記事の取材及び編集、放送番組の制作の取材及び編集
 ④衣服、室内装飾、工業製品、広告等のデザイン考案
 ⑤その他厚生労働大臣の指定する業務→コピーライター、システムコンサルタント、インテリアコーディネーター、ゲーム用ソフト開発、証券アナリスト、金融商品開発、大学教授、公認会計士及び弁護士などの士業

 労使協定では、上記の業務のうち、労働者に就かせることとする業務を特定し、当該労働者の労働時間として算定される時間を決め、対象業務の遂行の手段及び時間配分につき当該労働者に大幅な裁量を認めると同時に、対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置及び苦情処理に関する措置を定め、使用者は、当該労使協定を所轄労働基準監督署長に届け出なければならないとされています。

(2)企画業務型裁量労働制

 企画業務型裁量労働制は、事業の運営に関する企画、立案等の業務を自らの裁量で遂行するホワイトカラーを対象にしたもので、平成12年4月1日から施行された裁量労働制です。

 「労使委員会が設置された事業場において、当該委員会がその委員の5分の4以上の多数による議決により対象業務、対象労働者の範囲、対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間その他の一定の事項に関する決議をし、かつ、当該決議を所轄労働基準監督署長に届け出た場合において、対象労働者の範囲に属する労働者を対象業務に就かせたときは、当該労働者は、決議により定めた時間労働したものとみなす。」

 対象となる業務とは、「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であつて、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」とされています。

 その上で、労使委員会では、対象業務を明確に定めた上で、適切に遂行するための知識、経験等を有するという条件で選定される労働者の範囲、労働時間として算定される時間、当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置、労働者からの苦情の処理に関する措置、対象労働者を対象業務に就かせる際の当該労働者の同意を得なければならないこと等を決議し、かつ決議の有効期間を定めなければなりません。さらに、使用者は、決議が行われた日から起算して最長半年ごとに対象労働者の労働時間の状況並びに当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置の実施状況を所轄労働基準監督署長に報告することになっています。


3.今回改正の対象となっている制度

 新聞報道等によれば、今回厚生労働省が目論んでいると思われる改正点は、裾野が広いものの、適用率が2012年現在で常用労働者の0.3%にとどまっている企画業務型の対象を広げることです。まず対象業務を国が告示で細かく決める仕組みを見直し、企業ごとに労使で決められるようにします。例えば、現在は「個別の営業活動」は対象外とされていますが、顧客の需要調査及び分析も手掛ける営業担当者は営業企画として対象に含められるようにするようです。また、導入時の手続きも個々の事業所が申請する方式から、企業単位で届け出るようにする方向が示されています。さらに、経済界は制度導入を決める際に必要な労使委員会での決議要件(現行5分の4以上の多数決議)の緩和を求めており、今後の検討項目となる見通しです。

 企画業務型裁量労働制からさらに一歩踏み込んだのが、「ホワイトカラーエグゼンプション」という仕組みです。年収が一定以上の社員を対象に、1日及び1週間あたりの労働時間の制約を完全に取り外してしまう制度といわれています。米国などで導入事例があり、米国での対象者は約2000万人。日本円換算で年収約1000万円以上が対象層とされます。ホワイトカラーエグゼンプションの導入については、第1次安倍政権時の2007年にも同制度を盛り込んだ労働基準法改正案が厚生労働省によってまとめられたましたが、野党及び世論の猛反発を受け、法案提出を断念した経緯があります。企業の運用次第では、残業代なしで労働者に長時間労働を強いることになりかねないとの懸念も根強くあり、同制度の導入については、今のところ目立った動きは見られないようです。

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