就業規則の不利益変更_第四銀行事件

就業規則の不利益変更は、就業規則の法的性格でも取り上げましたが、労働判例としてどの教科書にも出てくる判例ですので、「第四銀行事件」を取り上げて復習しておきたいと思います。

第四銀行は、新潟県新潟市に本店を置く、我が国で最も歴史のある銀行で、新潟県に強固な経営基盤を持つ地方銀行です。


1.事案の概要

Xは、昭和28年4月にY銀行に入行し、平成元年11月4日をもって60歳到達により定年退職したが、Y銀行とY銀行労働組合との間では、昭和58年3月30日に、定年を55歳から60歳に延長する代わりに給与等の減額、特別融資制度の新設等を内容とする労働協約を締結していたため、Xの55歳以後の年間賃金は54歳時の6割台に減額となり、従来の55歳から58歳までの賃金総額が新定年制の下での55歳から60歳までの賃金総額と同程度となった。就業規則変更の1年半後に55歳に達するXは、就業規則の不利益変更を無効とし、旧就業規則による賃金水準との差額の支給を請求した。
なお、Y銀行では、従来55歳定年であったが、健康な男子職員については定年後3年間の継続雇用制度が設けられ、定年退職時の賃金が維持される仕組みになっており、男性行員の7ないし8割が58歳まで在職していた。


2.判決要旨

最高裁平成9年2月28日判決の要旨は、以下の通りです。

(1) 新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。

そして、右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。

右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって①労働者が被る不利益の程度、②使用者側の変更の必要性の内容・程度、③変更後の就業規則の内容自体の相当性、④代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、⑤労働組合等との交渉の経緯、⑥他の労働組合又は他の従業員の対応、⑦同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。


(2) これを本件についてみると、定年後在職制度の前記のような運用実態にかんがみれば、勤務に耐える健康状態にある男子行員において、58歳までの定年後在職をすることができることは確実であり、その間54歳時の賃金水準等を下回ることのない労働条件で勤務することができると期待することも合理的ということができる。そうすると、本件定年制の実施に伴う就業規則の変更は、既得の権利を消滅、減少させるというものではないものの、その結果として、右のような合理的な期待に反して、55歳以降の年間賃金が54歳時のそれの63ないし67パーセントとなり、定年後在職制度の下で58歳まで勤務して得られると期待することができた賃金等の額を60歳定年近くまで勤務しなければ得ることができなくなるというのであるから、勤務に耐える健康状態にある男子行員にとっては、実質的にみて労働条件を不利益に変更するに等しいものというべきである。そして、その実質的な不利益は、賃金という労働者にとって重要な労働条件に関するものであるから、本件就業規則の変更は、これを受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合に、その効力を生ずるものと解するのが相当である。

(3) そこで、以下、右変更の合理性につき、前示の諸事情に照らして検討する〈本件就業規則の変更によるXの不利益はかなり大きなものであること、②Yにおいて、定年延長の高度の必要性があったこと、定年延長に伴う人件費の増大等を抑える経営上の必要から、従前の定年である55歳以降の賃金水準等を変更する必要性も高度なものであったこと、円滑な定年延長の導入の必要等から、従前の定年である55歳以降の労働条件のみを修正したこともやむを得ないこと、従前の55歳以降の労働条件は既得の権利とまではいえないこと、③⑦変更後の55歳以降の労働条件の内容は、多くの地方銀行の例とほぼ同様の態様であること、変更後の賃金水準も、他行の賃金水準や社会一般の賃金水準と比較して、かなり高いこと、④定年が延長されたことは、女子行員や健康上支障のある男子行員にとっては、明らかな労働条件の改善であること、健康上支障のない男子行員にとっても、60歳まで安定した雇用が確保されるという利益は、決して小さいものではないこと、福利厚生制度の適用延長や拡充等の措置が採られていること、⑤就業規則の変更は、行員の約90パーセントで組織されている組合との合意を経て労働協約を締結した上で行われたものであること、変更の内容が統一的かつ画一的に処理すべき労働条件に係るものであることを認定した上で、〉

Yにおいて就業規則による一体的な変更を図ることの必要性及び相当性を肯定することができる。~中略~ したがって、本件定年制導入に伴う就業規則の変更は、Xに対しても効力を生ずるものというべきである。


3.解 説

労働契約法と本判決の対象は、以下の通りぴったりと符合します。というより、労働契約法自体が、本判決など過去の判例で積み上げられてきた法理を整理して法制化されたものと考えればよいのでしょう。

(1)「労働者の受ける不利益の程度」とは、「個々の労働者の不利益の程度を考慮する」ということであり、(2)「労働条件の変更の必要性」とは、「使用者にとっての就業規則による労働条件変更の必要性」をいうものである。(3)「変更後の就業規則の内容の相当性」とは、「就業規則の変更の内容全体の相当性をいうものであり、変更後の就業規則の内容面に係る制度変更の一般の状況」が広く含まれるものである。(4)「労働組合等との交渉の状況」とは、「労働組合等事業場の労働者の意思を代表するものとの交渉の経緯、結果等」をいうものである。また、(5)「その他の就業規則の変更に係る事情」には、「代替措置その他関連する他の労働条件の改善事情」、「他の労働組合又は他の従業員の対応」、及び「同種事項に関する我が国社会における一般的状況」が含まれるとされています。

本判決とは、類似の事案で、最高裁が就業規則の合理性を否定した判決としては、「みちのく銀行事件」最高裁平成12年2月28日判決が上げられます。

従前からあった60歳定年制・年功序列賃金について、労組の同意を得て賃金制度が見直され、満55歳以降の基本給凍結、更に特定の労働者が管理職の肩書きを失い、賃金を減額された事例ですが、原告らの賃金の削減率は、従前の標準賃金から期間平均で33%~46%に達しました。この事案では、55歳定年の企業が定年を60歳に延長して賃金水準を低く抑えた第四銀行事件とは異なり、元々60歳定年であったところの55歳から60歳に至る賃金を新たに大幅に抑制した上、労働の減少などの代替措置は特になされた事実が認定されなかったということです。

「一方的に不利益を受ける労働者について不利益性を緩和するなどの経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきであり、それがないままに右労働者に大きな不利益のみを受忍させることには相当性がないものというほかはない。」、「Xらの被る前示の不利益性の程度や内容を勘案すると、賃金面における変更の合理性を判断する際に労組の同意を大きな考慮要素と評価することは相当ではないというべきである。専任職制度の導入に伴う本件就業規則等変更は、それによる賃金に対する影響の面からみれば、Xらのような高年層の行員に対しては、専ら大きな不利益のみを与えるものであって、他の諸事情を勘案しても、変更に同意しないXらに対しこれを法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできない。」

要するに、本事案における不利益変更は、あまりに大きく、諸事情を考慮しても到底合理性のあるものとはいえないと判示しているのです。

コメント

非公開コメント

トラックバック

http://yokoteoffice.blog130.fc2.com/tb.php/31-5f5d503a