グローバル・リスクを考える

1.グローバル・リスクの現状

 評論家中野剛志氏の「日本防衛論」を読んでみました。デフレからの脱却を掲げる第2次安倍政権が発足して以来、超円高が是正過程に入り、株価も上昇して景気回復の期待が高まっています。しかし、ここで世界に目を向けると、欧州における共通通貨の失敗、覇権国米国の長期後退傾向の顕在化など、世界恐慌を引き起こしかねない危機要因に満ちていることを中野氏は指摘しています。グローバル・リスクについて氏の主張の要点は次のようなものです。

(1)資本主義は本質的に不安定であり、放置すれば崩壊する。その崩壊を抑止するためには、財政金融政策を実施する国家の存在が不可欠である。また、グローバル資本主義も資本主義の延長線上にあるのだから本質的に不安定であり、その崩壊を抑止する装置が必要である。そして、その装置こそが覇権国家の存在であった。

(2)資本主義とは、主権国家による財政金融政策と、覇権国家による国際供給財の供給という、2重の安定装置がなければ崩壊してしまう脆弱な経済システムである。しかし、1970年代から80年代にかけて、覇権国家米国の衰退が始まり、安定化装置の一つに綻びが生じた。そして、80年代に入って、各国政府は、新自由主義の教義に則って、政府によるケインズ的な政策というもう一つの安定化装置までをも解除してしまった。

(3)1970年代、先進国は景気後退下でのインフレ進行、すなわちスタグフレーションに悩まされたが、今日では、スクリューフレーションという現象に突き当たっている。スクリューフレーションとは、一般物価は上昇し、消費者の負担になっている一方で、賃金上昇が抑えられた結果、中産階級が没落していく現象である。スクリューフレーションの原因は、グローバル化、技術進歩、非正規雇用の普及である。グローバル化による海外の低賃金労働力との競争の激化、技術進歩や労働市場の流動化によって、労働力コストの削減圧力はかつてなく強まり、経済成長や企業収益の拡大にもかかわらず、実質賃金が上昇しなくなった。

(4)地政学的変動が引き起こすエネルギー価格の高騰を抑制するためのエネルギー安全保障、気候変動による食糧価格の高騰を抑制するための食糧安全保障、地殻変動を想定した耐震化などの防災といった政策発動及び中低所得者層の貧困化に対して、より直接的に所得格差を是正する社会政策も求められる。こうした各種のリスク対策を総動員するには財政支出の拡大を伴う。しかし、この財政支出は、需要を創出し、デフレの原因である需要不足を解消すると同時に、世界的な経済ショックから国内経済を守る緩衝としての内需となるのである。


2.新自由主義成長モデルの成立とグローバル・リスク

 中野氏は、今日の世界経済危機、特にユーロ危機、米国の景気後退、新興国の構造不況の問題を取り上げ、米国における新自由主義成長モデルの問題及び中国経済の構造的欠陥について次のように述べています。
 
(1)ユーロ危機の直接的なきっかけとなったのは、2008年9月に起きたリーマン・ショックである。リーマン・ショックを引き起こした淵源は、1980年代以降の「新自由主義成長モデル」と呼ぶべき経済システムの成立まで遡る。1980年以前のアメリカの経済政策は、完全雇用を目的としていた。また、経済システムは、生産性の向上とともに賃金が上昇し、それによって総需要が拡大して雇用を生むという好循環によって経済成長を成し遂げていた。

(2)1980年以降は、「新自由主義成長モデル」が成立した。「新自由主義成長モデル」における経済政策では、グローバル化の促進、小さな政府、労働市場の柔軟化を掲げ、また、完全雇用よりも低インフレを優先するものであった。「新自由主義成長モデル」においては、賃金上昇の代わりに金融のイノヴェーションと規制緩和によって生み出される負債の増大と資産価格の持続的上昇が、需要の成長をもたらすことになった。賃金はほとんど上昇しなくなったが、グローバル化の促進によって安価な輸入品が流入したので、低賃金も消費者にとってはそれほど苦にならなかった。一方で、格差の拡大によって、富裕者向け贅沢品が消費の大きな割合を占めるようになった。そして、その結果、製造業の衰退、貿易収支の悪化、格差の拡大がもたらされた。

(3)日本が世界第2位の経済大国となった1968年、日本の対GDP比家計最終消費支出は53.7%もあり、輸出依存度は10.1%に過ぎなかったのに対して、中国のそれらは2010年当時で35%及び27%程度である。日本では、高度成長の過程で格差は縮小し、政治は安定し、行政も信頼されていたので、70年代の石油危機や世界不況にも対処でき、安定成長へと移行することができた。だが、現在の中国は、リーマン・ショック後の積極的な財政金融政策が功を奏して、いち早くV字回復を果たしたものの、その結果不動産バブルを発生させてしまい、それが崩壊している。GDPこそ世界第2位の地位を確保したとはいえ、高度成長期の日本のような好条件は一切備わっていない。

(4)21世紀となった現代は、経済は成長しなくなり、画期的なイノヴェーションが起きなくなった。エネルギー価格は、需要の停滞にもかかわらず高止まりし、食糧や水資源も不足しつつある。交通インフラや電力インフラが老朽化・脆弱化しているのに放置されている。知識、情報、サーヴィス、文化の時代が来るはずであったのに、エネルギー、食糧、水といった必需品や、社会インフラのような基本的な財の不足に悩まされる時代になってしまっている。グローバル化は終わり、新興国は経済的にも政治的にも不安定化している。日本の周辺では領土を巡る緊張が高まり、資源を巡る国際紛争が激化し、ナショナリズムが高揚している。
 我々が長い間、当然のものと考えていた20世紀後半までの世界は、覇権国家によって得られていたものに過ぎなかった。覇権国家が消滅すれば、これまでの世界も失われる。19世紀の英国、そしえ20世紀の米国という2つの覇権国家が実現したグローバルな政治経済秩序が、米国の覇権の消滅とともに、200年の寿命を終えたのである。その兆候が、我々が直面している数々のグローバル・リスクなのだ。

(5)グローバル・リスクの顕在化に備え、日本は第一に、国防、エネルギー、食糧そして大規模地震対策という4つの安全保障を優先して強化すべきである。第二に、外的な経済ショックに備えるため、できる限り早期にデフレ不況から脱却し、内需による成長を実現することである。最後に、政府が総合安全保障戦略を実現するための長期的な「計画」を策定し、公共投資を着実に実行していくことが重要である。

  

コメント

非公開コメント

トラックバック

http://yokoteoffice.blog130.fc2.com/tb.php/296-9a22f7e6