整理解雇_ナショナル・ウエストミンスター銀行事件

 今年は、行き過ぎた円高水準がほとんど是正されないまま定着した観があり、日の丸家電などは業績の悪化に苦しみ続けました。円高不況を背景に、日の丸家電のリストラの記事が目についた氣がします。調べて見ると、1月 NECが国内7000人、海外3000人の削減、台湾企業との提携に動いたシャープが5000人の早期退職募集、4月 SONYが1万人の人員削減を発表、7月 半導体のルネサスが国内工場18拠点のうち8拠点で売却や閉鎖を検討、10月末の早期退職制度で5000人超の人員を削減すると発表など、総崩れの様相です。

 このような現状では、整理解雇が今後も問題になってくるものと思われます。そこで、整理解雇の4基準などが争点となったウエスト・ミンスター銀行事件(東京地裁平成12年1月21日決定)を採り上げ、解説を試みてみたいと思います。


1.事案の概要

 Xは、昭和56年8月、英国系銀行のY銀行東京支店に入行し、平成9年3月当時には、Y銀行アシスタント・マネージャーとして、専ら貿易金融業務の事務を担当していました。平成9年3月、Y銀行は経営方針転換により、貿易金融業務からの撤退を決断、同年6月末をもってその統括部門であるGTBS(グローバル・トレード・バンキング・サービス)部門の閉鎖を決定しました。

 同部門の閉鎖により、Xの担当業務が消滅するため、Y銀行は、Xを従来の地位を保持させたまま配転させうるポジションがないことを理由に、Xに対し一定額の金銭の支給及び再就職活動の支援を内容とする退職条件を提示し、雇用契約の合意解約を申し入れました。しかし、Xはこれを拒否し、Y銀行での雇用の継続を望んだため、Y銀行は、関連会社への職務転換(提示された賃金額は市場価格では最高額)を提案しましたが、Xがこれも受け入れなかったため、平成9年9月1日に同月末日をもって普通解雇する旨の意思表示を行いました。また、Y銀行はXに対し、再就職までの就職会社の斡旋サービスを受けるための金銭的援助を行うことが約束した上、退職勧奨時に提示した額に更に上乗せした額の退職金を振込んでいました。

 これに対してXは、本件解雇は解雇権を濫用したものであり、無効であるとして、地位保全及び賃金の仮払いを求めて仮処分の申し立てを行いました。平成10年度の賃金の仮払いを求めた第1次仮処分、平成11年度の賃金の仮払いを求めた第2次仮処分の申立においては、いずれもXの申立が認められYの解雇が無効であるとの決定がなされました。その上で、平成12年度の賃金仮払いを求めて提起されたのが本事案です。


2.解 説

(1)判決要旨

 Y銀行の行ったXに対する本件解雇は解雇権濫用とはいえない。

 「(GTBS部門閉鎖の決定は、リストラクチャリングの一環であるところ、)このような事業戦略にかかわる経営判断は、高度に専門的なものであるから、基本的に、企業の意思決定機関における決定を尊重すべきものである。」

 「リストラクチャリングのを実施する過程においては、...余剰人員の削減が俎上に上ることは、経営が現に危機的状態に陥っているかどうかにかかわらず、リストラクチャリングの目的からすれば、必然ともいえる。」

 「(他方、)余剰人員の削減対象として雇用契約の終了を余儀なくされる労働者にとっては、再就職までの当面の生活の維持に重大な支障を来すことは必定であり、特に、景気が低迷している昨今の経済状況、また、従来日本企業の特徴とされた終身雇用制が崩れつつあるとはいえ、雇用の流動性を前提とした社会基盤が整備されているとは言い難い今日の社会状況に照らせば、再就職にも相当の困難が伴うことが明らかであるから、余剰人員を他の分野で活用することが企業経営上合理的であると考えられる限り極力雇用の維持を図るべきで、これを他の分野で有効に活用することができないなど、雇用契約を解消することについて合理的な理由があると認められる場合であっても、当該労働者の当面の生活維持及び再就職の便宜のために、相応の配慮を行うとともに、雇用契約を解消せざるを得なくなった事情について当該労働者の納得を得るための説明を行うなど、誠意をもった対応をすることが求められるものというべきである。

 (上記のような観点から)以下、本件解雇が解雇権の濫用に当たるか否かを検討する。

 「いわゆる整理解雇の四要件は、整理解雇の範疇に属すると考えられる解雇について解雇権の濫用に当たるかどうかを判断する際の考慮要素を類型化したものであって、各々の要件が存在しなければ法律効果が発生しないという意味での法律要件ではなく、解雇権濫用の判断は、本来事案ごとの個別具体的な事情を総合考慮して行うほかないものである。」

 「Y銀行としては、Xとの雇用契約を従前の賃金水準を維持したまま他のポジションに配転させることができなかったのであるから、Xとの雇用契約を継続することは、現実的には、不可能であったということができ、したがって、Xとの雇用契約を解消することには、合理的な理由があるものと認められる。」

 「Y銀行は、平成9年4月のXに対する雇用契約の合意解約の申し入れに際し、就業規則所定の退職金約800万円に対して特別退職金等約2,330万円余の支給を約束し、同年9月の解雇通告に際し約335万円を上乗せし、同年10月には退職金名目で1,870万円余をXの銀行口座に振り込んでいるが、これはXの年収が1,052万円余であることに照らし、相当の配慮を示した金額である。さらに、Y銀行はXの再就職が決まるまでの間の就職斡旋会社のための費用を無期限で支払うことを約束しており、Y銀行はXの当面の生活維持及び再就職の便宜のために相応の配慮をしたものと評価できる。」

 「また、Y銀行は、関連会社の経理部におけるクラークのポジションを年収650万円でXに提案したが、当時、同ポジションには年収450万円の契約社員が十分に満足のいく仕事をしていたところ、退職予定のない同人を解雇してまでXにポジションを与えるべく提案をしたものであり、これに加えて、賃金減少分の補助として退職後1年間について200万円を加算して支給するとの提案もしたこと、加えて、Y銀行は、X及び組合との間で、Xの処遇について全7回、3箇月余りにわたって団交を行い、雇用契約を解消せざるを得ない事情について繰り返し説明を行ったこと、その他前記認定の本件解雇に至る経緯からすると、Y銀行は、でき得る限り誠意をもってXに対応したものといえる。」

 「(以上のとおり、)Xとの雇用契約を解消することには合理的な理由があり、Y銀行は、債権者の当面の生活維持及び再就職の便宜のために相応の配慮を行い、かつ雇用契約を解消せざるを得ない理由についても債権者に繰り返し説明するなど、誠意をもった対応をしていること等の諸事情を併せ考慮すれば、未だ本件解雇をもって解雇権の濫用であるとはいえない。」

(2)整理解雇の4基準

 整理解雇とは、経営上の問題を抱えた企業において、一定数の労働者を削減するために行われる解雇であって、その原因が使用者側にある解雇とされています。そのため、解雇権濫用法理を成文法化した労働契約法16条の適用を受けますが、整理解雇の場合、その有効性を4つの基準で判断する独自の枠組みが判例によって形成されてきました。有効性を判断するための4基準とは、次の通りです。
 
 ①人員削減の必要性があること
 ②解雇回避の努力を尽くしたこと
 ③被解雇者の人選基準と人選の合理性
 ④組合及び被解雇者との十分な協議をしたこと


 整理解雇の4基準にについては、4基準の1つでも欠けたら当該整理解雇は解雇権濫用に引っかかるとする4要件説と、全ての要件を充たさければ法律効果が発生しないという意味での法律要件ではなく、解雇権濫用の判断は、事案ごとの個別具体的な事情を総合的に考慮していく際の要素に過ぎないとする4要素説に分かれ、本判決は後者の立場を鮮明にしています。

(3)人員削減の必要性

 人員削減の必要性というとき、その必要性の程度が問題になってきます。人員削減の必要性とは、「人員削減が企業の合理的運営上やむを得ない必要性に基づくものであると認められること」とされています。つまり、倒産が目の前に迫っているというほどの高度の必要性まで要求しているわけではないのですが、かといって、経営不振でさえない企業が単に戦略上の必要性を理由として整理解雇を行うことまで認めているわけではないのです。多くの判例は、企業の財政状況が赤字状態ならば、人員整理の必要性を肯定しています。

(4)解雇回避努力

 人員削減の必要性が認められても、解雇以外の措置(配転・出向、希望退職者の募集等)で対処できれば、整理解雇の必要は否定され得ることになります。希望退職者の募集に関しては、加算される退職金の額等が従業員を任意の退職へと誘導ために十分な好条件が盛込まれていない場合、解雇回避努力が尽くされたと認められないときがあります。また、希望退職者募集の不実施は、相当な理由がない限り、解雇回避努力義務に反することになります。

(5)人選の合理性

 人選の合理性は、被解雇者を選定するための整理基準の内容及びその適用について検討されます。整理基準の内容では、経営上の必要性の面から、各労働者の能力や勤務成績等が基準となります。また、整理解雇が実施されることで労働者が受ける不利益の程度の面からは、各労働者の家族状況、年齢、勤続年数及び転職の難易度などが基準となりえます。判例は、基準が抽象的、曖昧で明確性に欠ける場合、人選基準の合理性を否定しています。また、基準自体合理性を有していても、基準の適用に客観性や公平性を欠いていれば、人選の合理性が否定されることになります。

(6)組合及び被解雇者との十分な協議

 判例によると、使用者は、労働協約に解雇協議・同意条項が規定されていなくても、信義則上、特段の事情が無い限り、労働組合又は労働者に対し、当該整理解雇について説明を行い、協議すべき義務を負うとされています。協議に際して説明すべきとされる事項は、①経営状況等の人員削減の必要性、②整理解雇の規模及び時期、③解雇回避措置の内容、④被解雇者の選定基準、⑤退職金の特別加算額等の退職の条件、⑥再就職支援措置等の内容、などです。

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