私生活上の非行と懲戒解雇_横浜ゴム事件

 労働契約法15条は、「...当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」と定めています。「客観的に合理的な理由」とは、就業規則該当事由・処分記載の原則とほぼ同義と考えてよいと思います。懲戒処分を行うためには、懲戒に該当する事由と各懲戒該当事由に対応する懲戒の種類及び程度が就業規則に具体的に記載されていなければならず、労働者の行為がその記載されている事由に該当しているかどうかということです。「社会通念上相当であると認められ」るとは、その事由に照らして対応する懲戒の種類及び程度が妥当なものであると判断できるかどうかということです。

 使用者の懲戒権の根拠は「使用者の企業秩序定立・維持権限」に求められるとするならば、一般に使用者の懲戒権は、労働者の私生活上の言動にまでは及ばないと考えられます。しかし、労働者の私生活上の言動であっても企業の社会的評価を毀損するなどの場合には、「使用者の企業秩序定立・維持権限」を行使できると考えられます。それでは、使用者が懲戒権を行使できるほど労働者の私生活上の言動であっても企業の社会的評価を毀損するなどの場合とは、具体的にはいかなる場合が当てはまるのかが問題になります。

 以上の論点を踏まえた上で、私生活上の非行と懲戒解雇の事例、横浜ゴム事件(最高裁昭和45年7月28日)を取り上げます。


1.事案の概要

 X(原告・被控訴人・被上告人)は、Y社(被告・控訴人・上告人)タイヤ工場製造課の作業員として勤務していました。昭和40年8月1日午後11時20分頃、Xは飲酒した上で、他人の居宅の風呂場を押し開け、屋外に履き物を脱ぎ揃えてから同所から屋内に忍び入りましたが、家の者に誰何されたため直ちに屋外に立ち出で、履き物を捨てて逃走したが、まもなく私人に捕まり警察に引き渡されました。Xは住居侵入罪に問われ、罰金2500円の刑に処せられました。

 その後数日を経ないうちに、Xの犯行及び逮捕の事実が噂として広まり、工場近辺の住民及びY社従業員の相当数の者が当該事実を知ることとなります。Y社は、賞罰規則所定の「不正不義の行為を犯し、会社の対面を著しく汚した者」に該当するとして、同年9月17日にXを懲戒解雇しました。XはY社に対して雇用契約上の地位確認を求めて訴訟を提起しましたが、1審及び2審ともにXの請求を認容する判決を下しました。これに対してY社が下級審判決を不服として上告したものです。


2.解 説

(1)判決要旨

 原審の結論を支持し、Y社の上告を棄却。

 右犯行の時刻その他原判示の態様によれば、それは、恥ずべき性質の事柄であって、当時Y社において、企業運営の刷新を図るため、従業員に対し、職場諸規則の厳守、信賞必罰の趣旨を強調していた際であるにもかかわらず、かような犯行が行われ、Xの逮捕の事実が数日を出ないうちに噂となって広まったことをあわせ考えると、Y社が、Xの責任を軽視することができないとして懲戒解雇の措置に出たことに、無理からぬ点がないではない。しかし、翻って、右賞罰規則の規定の趣旨とするところに照らして考えるに、問題となるXの右行為は、会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行われたものであること、Xの受けた刑罰が罰金2500円の程度に止まったこと、Y社におけるXの職務上の地位も蒸熱作業担当の工員ということで指導的なものでないことなど原判示の諸事情を勘案すれば、Xの右行為が、Y社の対面を著しく汚したとまで評価するのは、当たらないというほかはない。

(2)懲戒権の根拠と私生活上の非行

 懲戒処分とは、使用者が「その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し」て科する制裁罰という性格を有するものです。そもそも労働者は企業秩序遵守義務を負い、使用者は企業秩序定立権を有しており、労働者の企業秩序違反行為に対し、懲戒処分を行うことができるとされています。そして、企業の円滑な運営に支障を来たすおそれのある場合には、職場外で為された職務遂行に関係のない労働者の行為も企業秩序違反となるとして、企業秩序概念が私生活領域にも及ぶことを示した最高裁判決があります(関西電力事件、最高裁判決昭和58年9月8日)。

 とはいえ、裁判所の判断には、業務外で為された私生活上の非行について懲戒権が行使された場合には、就業規則にある懲戒規定に限定解釈を加えることにより懲戒事由の該当性を否定したり、又は、諸般の事情を総合判断することにより、処分の相当性を否定するといった厳格で制限的な姿勢が見て取れます。例えば、「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」という懲戒解雇事由の該当性について、「必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、

①当該行為の性質、情状のほか、
②会社の事業の種類・態様・規模、
③会社の経済界に占める地位、経営方針及び
④その従業員の会社における地位・職種等

諸般の事情から総合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない」との一般的基準を設定し、それに基づき具体的な判断を行うとした最高裁判決があります(日本鋼管事件、最高裁判決昭和49年3月15日)。

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