退職給付会計の基礎知識

1.退職給付会計の導入及びその影響

 退職給付会計は2000年4月に導入され、企業年金制度に大きな影響を与えたとされています。退職一時金に関してそれまで財務諸表に掲載されることになっていた数字は、会社の退職金規程によって計算される決算日に全従業員が退職した場合の必要退職金額(註)を基に法人税法の繰入限度額などから導き出された一定額を退職給与引当金として決算書に計上していました。また、企業年金に関しては、掛金を費用に計上するだけで終わりでした。

 2000年4月1日から、「退職給付に係る会計基準(企業会計審議会:1998年6月16日)」が適用されるになりました。この会計基準によって退職一時金制度も企業年金制度も統一的な方法で退職給付債務を計算し、そこから年金資産を控除した額を貸借対照表上に退職給付引当金として計上することになりました。さらに、退職給付引当金の内訳や計算根拠になった情報も開示することになり、退職給付会計の実態が明らかにされるようになったのです。

 具体的には、退職給付会計の導入により、それまで実態の分からなかった多額の隠れ債務が明らかになったと言われています。第一に、かつて企業年金の債務計算では予定利率を5.5%として割引率として用いていため、5.5%から相当程度低下した適正な金利水準で割引いた債務残高に比べると過小評価になっていたことが明らかになりました。第二に、企業年金の年金資産は簿価で報告されてきましたが、退職給付会計の導入によって時価評価が必要になると、年金資産の評価額が減少している事例が多数を占めることが分かり、問題が顕在化したのです。

 ところで、退職給付会計が導入された2000年前後は景気後退期に当たり、多くの企業で合理化が普通に行われるようになり、終身雇用を前提とした日本的経営が行き詰っていった時代でもあります。その一方で、団塊の世代が定年を迎える2007年問題が意識に上り始めた頃でもあります。2001年10月1日施行の確定拠出年金法及び2002年4月1日施行の確定給付企業年金法によって本格化した新企業年金制度の導入は、退職給付会計の導入及び当時の時代背景を反映したものであったことは明らかでしょう。

(註)退職給与引当金の計算方式としては、(1)将来支給額予測方式、(2)期末要支給額計上方式、(3)現価方式の3方式が規定されていました。(1)は改正後の退職給付引当金に近似の考え方でしたが定着せず、決算日に全員が退職した場合に必要な退職金額を計算する(2)の方式が採用されていました。(3)は、現価といっても現在価値に割引くということではなく、税務基準によって期末要支給額の一定率を計上するということでした(法人税法の退職給与引当金の繰入限度額は、かつて自己都合による期末要支給額の50%とされ、制度廃止時は20%とされていました)。


2.退職給付引当金

 それでは、件の退職給付引当金はどのように貸借対照表に掲載されてくるのかを大づかみに解説して行きます。まず、退職給付引当金とはそもそもどのような引当金かということですが、退職一時金及び厚生年金基金などの企業年金は将来の給付が規約等で決められた方式であらかじめ計算される制度です。企業は将来の給付を支払うために一定の金額の掛金を拠出しますが、運用の結果などで予定通りに年金資産を確保できない場合には追加の掛金を拠出します。このように確定給付制度では将来の支出のための企業負担が決算時に確定しないために、貸借対照表の負債の部に退職給付引当金という負債性の引当金を計上するのです。これに対して、確定拠出型の企業年金や中小企業退職金共済では、企業負担は掛金拠出時に確定して追加的な負担は生じません。従って、このような制度では、掛金を費用計上するだけで、退職給付会計の対象にはなりません。

 退職給付債務は、期末の標準的な金利(割引率)によって現在価値に割引かれます。退職一時金制度についてはこれでよいのですが、企業年金制度については、企業は将来の年金支給に備えて外部の受託機関に掛金を支払います。この掛金は、株式及び債券などで運用され年金資産として積立てられてゆきます。企業年金の貸借対照表は、将来の給付見込み額の現在価値から将来の掛金収入の現在価値を差し引いた額を責任準備金又は数理債務などと呼んでいます(註2)。さらに、この金額から期末の時価で評価された年金資産を控除した差額が過去勤務債務などと呼ばれる積立不足のことになっています。

 この過去勤務債務に退職一時金の給付債務を加えたものが、企業本体の貸借対照表に掲載される退職給付引当金の本質です。企業会計上の技術的な理由で、企業年金会計の過去勤務債務がそのまま退職給付引当金の数字として使われるわけではないのですが、ここでは、退職給付引当金の本質を大雑把に把握しておくことに重点を置いて退職給付引当金=過去勤務債務+退職一時金の給付債務としておきます。

(註2)確定給付企業年金では数理債務のことで、責任準備金は数理債務-特別掛け金収入現価。適格退職年金では、責任準備金を意味していた。
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