AIJ問題

1.企業年金制度とAIJ問題が顕在化させたこと

 我が国の公的年金制度は、よく3階建てと言われています。その3階部分が企業年金と呼ばれるもので、厚生年金基金、税制適格退職年金、確定給付企業年金、及び確定拠出年金(日本版401K)に分けられます。このうち、適格退職年金は、本年3月をもって制度自体が廃止となりますので、残るのは厚生年金基金、確定給付企業年金、及び確定拠出年金ですが、確定拠出年金は、その名の通り、運用責任を従業員自身の自己責任に転嫁する仕組みなので、取りあえず、今回のAIJ問題の帰趨はあまり問題にはなりません。一方、厚生年金基金は、大企業が単独で基金を設立する「単独型」、大企業のグループなどがまとまって設立する「連合型」、同業又は同一地域の中小企業が集まって設立する「総合型」(註1)がありますが、今日多くの大企業は「代行返上」をして確定給付企業年金への移行を済ませており、厚生年金基金として残っているのは、「代行返上」することすらままならない「総合型」ばかりという状況になってしまっています。

 厚生年金基金は、3階建部分といいながら、2階と3階が厚生年金の「代行部分」を通じて混ざり合った中3階を持っている異様な建てまわしになっています。運用の失敗などで積立金が必要額の9割を下回り財政状況が悪化したとして、厚生労働省が監視し、基金財政の健全化を促している指定基金が81基金に上っています(全体で582基金、昨年12月1日現在)。AIJ問題は、このような水面下に潜伏していたもう一つの年金問題である厚生年金基金の運用問題を顕在化させる契機になるのではないかと考えられます。


2.これまでに分かったこと

 AIJ問題とは、投資顧問会社であるAIJ投資顧問(東京都中央区)が運用委託されていた年金資産の9割といわれる大部分を消失させた事件です。厚生労働省によれば、平成22年度末時点で同社と契約のあった企業年金は、84基金、資産総額は約1852億円で、その内、「総合型」の厚生年金基金が73基金と8割強を占めていました。中でも、神奈川県印刷工業厚生年金基金は、56.9%をAIJに委託していたことが明らかになっています。

 AIJ投資顧問は、設立したケイマン籍の3つの私募ファンド(註2)に集めた資金を投じて運用していたようですが、その運用の中身は、金融派生商品、未公開株、証券化商品などといわれているものの、具体的には全く明らかになっていません。

 AIJ投資顧問社長の浅川和彦氏は、野村証券出身、「抜群の成績を残した伝説の営業マン」という人物像が伝えられています。その片腕として商品を企画していたのが、総会屋絡みの証券不祥事で当時の野村証券常務を退任した松木新平氏という人物のようです。さらに、AIJ投資顧問の営業部隊として動いていたのが、旧山一證券関係者らを中心に設立され、その後AIJ傘下に入ったアイティーエム証券であるといわれています。

 奇妙だと思ったのは、企業年金のような公的な資金の運用が、AIJのような運用の実態も不明な投資顧問に一任勘定委託されていたことと、企業年金ならば、その管理は信託銀行などに委託されて遂行されなければならず、実際の有価証券等の売買は、信託銀行が投資顧問会社などの指示に基づいて行っていたはずなのになぜ嘘の運用報告が見抜けなかったのかという点でした。

 第一の疑問点についての回答は、「5:3:3:2規制の撤廃」があげられるのでしょう。「5:3:3:2規制」とは、年金資産の運用における資産配分に関する規制で、1997年12月に撤廃されました。安全性の高い資産5割以上、株式3割以下、外貨建て資産3割以下、不動産等2割以下の数字を取って5:3:3:2規制といわれました。撤廃後は、全ての基金で自己責任に基づく自由な資産配分が可能となりました。厚労省の調査は、昨年度末時点でヘッジファンドなどに総資産の3割超を運用委託していた基金は34基金にのぼり、最も比率の高い基金は総資産の約7割がヘッジファンドなどだったことを明らかにしています。

 そして、登録制に過ぎない投資顧問業者に一任勘定が認められ、企業年金の運用の中身を金融庁がまともに検査さえしなかったのは、「企業年金の運用者」が個人投資家などとは質的に違う投資の玄人「機関投資家」であるという想定に立っていたからです。

 そして、第二の疑問点について言えば、いまだにAIJの運用実態さえよく分からないという事実が物語っているように、金融派生商品やら証券化商品やらの市場性の薄い金融商品に私募ファンドのような器を用いて投資されていると、金融商品管理の玄人である信託銀行であってもブラックボックスの中身まで管理することはできないということです。


3.金融庁、法改正を検討

 こうなってくると、当然の流れとして、規制再強化が俎上に上せられてきます。2月29日朝日新聞電子版は、「金融庁はAIJのような投資運用会社に監査法人などによる外部監査を義務付ける方向で検討に入った。金融庁は株式非上場の投資運用会社、投資ファンド、証券会社に外部監査を義務付ける方向だ。また、投資運用会社が顧客や金融庁にウソの運用実績などを説明したり報告した場合の罰則も強める。そのための金融商品取引法改正も検討する。」と伝えています。

 また、厚労省では、企業年金の資産運用のガイドラインにリスク回避のための分散投資義務が盛られているものの、数値目標までは決められておらず、厚労相が記者会見でガイドラインの見直しに着手する考えを既に表明しています。

(註1)厚生年金基金を設立するための人数要件は、単独型500人、連合型800人、総合型3000人とされています。
(註2)ケイマン私募ファンド ヘッジファンド

2012_@東京上野浅草周辺 004A

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