老齢基礎年金の繰下げをする際の注意点

 年金の繰上げ及び繰下げについてその基本的な仕組みについては、既に記事にまとめています(「老齢基礎年金の繰上げ・繰下げ」参照)。老齢厚生年金の支給開始時期が段階的に65歳にに引き上げられることもあり、老齢基礎年金を繰上げたいという要請は強く、制度の必要性は高いのだと思われます。しかし、繰下げについては、実際どうなのでしょう。こういう制度を複雑化して攪乱する割に、必要性が高いとは思えない制度は、廃止の方向で検討されるべきだと思うのです。

 とはいえ、今回繰下げについての注意点をまとめておきたいと思います。


1.繰下げはどの時点でできるのか

 基礎年金の繰下げ手続きとは、そもそもどのようなものだったのでしょうか。国民年金法は、28条1項で次のように規定しています。「老齢基礎年金の受給権を有する者であつて66歳に達する前に当該老齢基礎年金を請求していなかつたものは、厚生労働大臣に当該老齢基礎年金の支給繰下げの申出をすることができる。」、つまり、少なくとも65歳到達からの1年間は、老齢基礎年金の裁定請求をしないで待機しなければならないということです。そして、1年が経過して66歳を過ぎた段階で初めて支給繰下げの「申出」をします。これは、65歳で既に年金の受給権は発生しているので、通常ならば裁定請求をして65歳からの年金を遡って受け取れるところ、支給繰下げを行って増額された年金を受け取るという変則的な受給方法を選択するので、改めて申出が必要ということです。支給繰下げの申出をした場合、年金がいつから支給されることになるかというと、当該申出のあった日の属する月の翌月からになります。

 また、増額した年金額は、増額率1000分の7を年金の受給権を取得した日の属する月から申出を行った日の属する月の前月までの月数(60月が上限)を乗じた額を本来の年金額に加算することによって導き出します。ここで注意しなければならないことは、5年以上繰下げをして(通常は70歳を過ぎて)、年金のことをすっかり忘れているなどで申出を怠っていると、少なくとも2つの不利益を被るということです。その一つは、5年以上経過すると、あとは何年繰下げをしても、年金額は増額されないということです。もう一つは、繰下げをした場合の年金支給開始が、申出のあった日の属する月の翌月からですので、例えば65歳から老齢基礎年金の受給権を取得したものが71歳の誕生日に申出をした場合、70歳まで5年間繰下げをしたのと同じ額の年金を1年遅れて受給することになります。つまり、1年分の年金を放棄したことになるのです。


2.繰下げができる場合できない場合

 さらに、28条1項但し書きは、次のように規定します。「ただし、その者が65歳に達したときに、他の年金給付(付加年金を除く。以下この条において同じ。)若しくは被用者年金各法による年金たる給付(老齢又は退職を支給事由とするものを除く。以下この条において同じ。)の受給権者であつたとき、又は65歳に達した日から66歳に達した日までの間において他の年金給付若しくは被用者年金各法による年金たる給付の受給権者となつたときは、この限りでない。」、要するに、「65歳に達したとき、又は65歳から66歳に達した日までの間」で障害基礎年金、遺族基礎年金、傷害厚生年金、又は遺族厚生年金などを受給している場合には、老齢基礎年金の繰下げはできないと言っているのです。この規定をもう少々事例を分けて考察してみると次のようになります。

(1)障害基礎年金、遺族基礎年金、傷害厚生年金、又は遺族厚生年金などを65歳前に受給開始していたが、65歳前に失権していた。
(2)障害基礎年金、遺族基礎年金、傷害厚生年金、又は遺族厚生年金などを65歳前に受給開始していて、65歳を過ぎて受給していたが、66歳前(申出前)に失権していた。
(3)障害基礎年金、遺族基礎年金、傷害厚生年金、又は遺族厚生年金などを65歳以後に受給開始していて、66歳前(申出前)に失権していた。
(4)障害基礎年金、遺族基礎年金、傷害厚生年金、又は遺族厚生年金などを66歳以後に受給開始している。

 (1)は、障害基礎年金、遺族基礎年金、傷害厚生年金、又は遺族厚生年金などを受給していたとはみなされないので、繰下げは全く問題なくできます。(2)及び(3)がまさにこの但し書きが想定している場合で、繰下げを申し出ることはできません。失権になっておらず、障害基礎年金、遺族基礎年金、傷害厚生年金、又は遺族厚生年金などを受給中の場合も、もちろん繰下げはできません。

 問題は(4)です。ここでも、28条2項が次のように規定しています。「66歳に達した日後に他の年金給付若しくは被用者年金各法による年金たる給付の受給権者となつた者が、他の年金給付若しくは被用者年金各法による年金たる給付を支給すべき事由が生じた日(以下この項において「受給権者となつた日」という。)以後前項の申出をしたときは、次項の規定を適用する場合を除き、受給権者となつた日において、前項の申出があつたものとみなす。」、つまり、障害基礎年金、遺族基礎年金、傷害厚生年金、又は遺族厚生年金などの受給権の発生に制約は受けつつも限定的に繰下げが認められるということです。現実的には、(4)のような状況において次の3つの選択が可能です。

A.支給繰下げの申出を行い、他の受給権を取得したときから増額された老齢基礎年金を受給する。
B.支給繰下げの申出を行わず、65歳から他の受給権を取得したときまでの本来受け取るべきであった老齢基礎年金を遡及請求(一括受給)し、他の受給権を取得した日以後は増額されない本来の老齢基礎年金を受給する。
C.他の受給権が発生した年金を受給する。

 ここでの注意が必要なのは、Aの場合で、28条2項が「受給権者となつた日において、前項の申出があつたものとみなす」といっているのは、あくまでも増額される月数計算のことであって、実際にその増額された年金が支給される開始月のことを言っているのではないということです。支給開始月については、実際の「申出のあった日の属する月の翌月から」という原則が適用されることになります。


3.振替加算など

 言うまでもないことですが、大正15年4月2日から昭和41年4月1日生まれまでに支給される振替加算は、本体の老齢基礎年金に加算される年金です。従って、本体たる老齢基礎年金を繰下げてしまえば、その期間中振替加算は支給されません。また、増額もされませんので、実質的には繰下げ期間中振替加算の受給を放棄したことになります。同様のことは、振替加算と対になる加給年金についてもいえて、加給年金が付く老齢厚生年金を繰下げると、加給年金は支給されず、かつ増額されこともありません。

2012_@東京上野浅草周辺 003A

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