セクシャル・ハラスメント_福岡セクハラ事件

1.事案の概要

 女性編集者Xは、昭和60年12月に雑誌社Y社に入社、入社後間もない時期から雑誌編集等の事務において重要な役割を果たすようになり、1年ほど経った頃には中心的な役割を担うようになっていました。Xの上司Y2は、編集業務におけるXの役割が重要になる一方で、Y社の幹部から業績不振の責任を問われるなど、厳しい立場に立たされることになりました。

 このような中でY2は、約2年間にわたり、Xの異性関係が派手であるなど、Xの社会的評価にとって不利益な発言を繰り返していました。昭和62年8月、Y社建て直しのためにA専務が入社し、Y社の立て直しの一環としてY2を業務の中心に据えることとしましたが、Y2のXに対する不利益な発言は続き、XとY2の関係は業務に支障をきたすほどに悪化して行きました。このため、Y2はA専務と相談の上、昭和63年3月、Xに対して、Xと取引先の男性との間に問題が見られるといった指摘をして、Xに退職するよう求めました。

 こうした動きを受けて、A専務は、Y2とX間の話し合いによる解決が図れない場合には、XかY2を退社させる方針を固め、同年5月、まずXに妥協の余地を打診しました。しかし、XがあくまでもY2の謝罪を求めたため、A専務はXに対して退社してもらうことになる旨を述べたことに対して、Xは退社の意思を表明する一方で、Y2の行為やY社の対応は違法であるとして、損害賠償を求めて訴えを提起しました。


2.判決要旨

 Y2が、Y社の職場又はY社の社外ではあるが職場に関連する場において、X又は職場の関係者に対し、Xの個人的な性生活や性向を窺わせる事項について発言を行い、その結果、Xを職場に居づらくさせる状況を作り出し、しかも、右状況の出現について意図していたか、又は少なくとも予見していた場合には、それは、Xの人格を損なってその感情を害し、Xにとって働きやすい職場環境のなかで働く利益を害するものであるから、Y2はXに対して民法709条の不法行為責任を負うものと解するべきことは明白です。

 Y2のXに対する一連の行為はXの職場の上司としての立場からの職務の一環又はこれに関連するものとしてなされたもので、その対象者も、X本人のほかは、Y2の上司、部下にあたる社員やアルバイト学生又はY社の取引先の社員であるから、右一連の行為は、Y社の「事業の執行に付き」行われたものと認められ、Y社はY2の使用者としての不法行為責任を負うことを免れません。

 使用者は、被用者との関係において社会通念上伴う義務として、被用者が労務に服する過程で生命及び健康を害しないよう職場環境等につき配慮すべき注意義務を負うが、そのほかにも、労務遂行に関連して被用者の人格的尊厳を侵しその労務提供に重大な支障を来たす事由が発生することを防ぎ、又はこれに適切に対処して、職場が被用者にとって働きやすい環境を保つよう配慮する注意義務もあると解されるところ、被用者を選任監督する立場にある者が右注意義務を怠った場合には、右の立場にある者に被用者に対する不法行為が成立することがあり、使用者も民法715条により不法行為責任を負うことがあると解すべきです。

 A専務の行為についても、職場環境を調整するよう配慮する義務を怠り、また、憲法や関係法令上雇用関係において男女を平等に取り扱うべきであるにもかかわらず、主として女性であるXの譲歩、犠牲において職場関係を調整しようとした点において不法行為性が認められるから、Y社は、右不法行為についても、使用者責任を負うというべきです。

 Y2→709条 不法行為 人格を損ない、働きやすい職場の中で働く利益を害した
 A専務→709条 不法行為 職場環境配慮義務違反
 Y社→715条 使用者責任 Y2及びA専務


3.セクシャル・ハラスメント

 男女雇用機会均等法では、平成19年(2007年)改正で、第2節「事業主の講ずべき措置」、第11条において、セクハラの定義及び事業主の講じなければならない措置について、次のように定めています。

 第11条  事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

 また、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」が定められました(平成18年厚生労働省告示第615号。以下、「指針」という。「セクハラ及びパワハラに関する法律参照」)。


4.セクハラと使用者責任

 セクハラが民法上の不法行為と認定された場合、会社については715条の使用者責任が問われることになります。今回取り上げた、福岡地裁平成4年4月16判決によれば、「使用者は、被用者との関係において社会通念上伴う義務として、被用者が労務に服する過程で生命及び健康を害しないよう職場環境等につき配慮すべき注意義務(安全配慮義務)を負うが、そのほかにも、労務遂行に関連して被用者の人格的尊厳を侵しその労務提供に重大な支障を来す事由が発生することを防ぎ、又はこれに適切に対処して、職場が被用者にとって働きやすい環境を保つよう配慮する注意義務(職場環境配慮義務)もあると解されるところ、被用者を選任監督する立場にある者が右注意義務を怠った場合には、右の立場にある者に被用者に対する不法行為が成立することがあり、使用者も民法715条により不法行為責任を負うことがある」という理論構成をとっています。

 しかし、会社は、労働契約を締結した労働者に対して、職場環境配慮義務を負うと考えるならば(労働契約法第5条に規定されている「安全配慮義務」の延長線上に「職場環境配慮義務」があるとするならば)、セクハラ行為が職場内に発生した場合には、これを是正する義務を負っていると考えられますから、この義務を果たしていないと認められる場合、不法行為の使用者責任と同時に債務不履行責任が問われることになるとも考えられます。

 契約関係があって損害を受けた場合には、債務不履行及び不法行為の両方が成立すると考えられる場合があります。債務不履行による損害賠償と不法行為による損害賠償の違いは、主に(1)挙証責任、及び(2)消滅時効において表れます。
(1)債務不履行:債務者の責に帰すべき事由は、債務者に立証する責任があります。
   不法行為:被害者(債権者)に加害者(債務者)の故意又は過失を立証する責任があります。
(2)債務不履行:債権成立の時から10年
   不法行為:損害及び加害者を知ってから3年、又は発生から20年

 民法709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 民法715条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

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