非伝統的な金融政策「量的緩和」について

1.量的緩和政策の位置付け

 我が国の経済の現状は、ここ数年、特に2008年秋のリーマン・ショック以降、デフレ経済に陥っていることに異論のある人は少ないと思います。デフレは、需要が供給を大幅に下回っている需要不足の状態と言う理解で良いと考えますが、この状態を脱するためには、政府が公共投資を増やし、中央銀行は金融を緩和する政策が不可欠です。

 中央銀行がなし得る金融緩和政策は、通常「政策金利」と呼ばれる短期金融市場金利を調整するもので、金利政策と同義でした。しかし、リーマン・ショック後ほとんどの先進国にあっては、政策金利は実質ゼロにまで引き下げられており、我が国の場合には、リーマン・ショックに先行してバブル崩壊後に採用されたゼロ金利政策が、常態と化している現実があります。

 ゼロ金利政策が実施されている状況下で、なお一層の金融緩和効果を促す政策を非伝統的(unconventional)な金融政策と呼ぶのだそうです。「非正規(irregular)」のと呼んだ方が良いのではということはさておき、この非伝統的な金融政策の本質は、池尾和人慶応大学経済学部教授によれば、「中央銀行のバランスシート自体を活用する方法である。その意味では、非伝統的な金融政策は『バランスシート政策』だと言え、一律に『量的緩和(Quantitative Easing)』と呼ばれることが少なくない」というものです。「証券アナリストジャーナル 2011年12月号」に池尾教授がこれまでに行われてきた主な量的緩和政策について書いておられるものを、覚書程度にまとめてみました。


2.日本銀行の量的緩和政策

 日銀は、2001年3月19日から06年3月9日まで実施した「純粋量的緩和」と呼べるものがあります。これは、金融政策の目標を政策金利から「準備預金残高」に変更する内容を含むものであり、準備預金残高の増加を図る際の買いオペの対象は、伝統的な金融政策と同一の短期の安全資産とするというものでした。

 日銀の量的緩和政策について、池尾教授は、「短期の安全資産(短期国債)と交換に準備預金を供給するといった措置、即ち純粋の量的緩和を行ったとしても、全くの『似た者同士』を交換しているだけに過ぎず、特段の効果は見込めないということになる。・・・日本銀行の実際の量的緩和に多少の効果があった分は、人々の期待に与えた影響(時間軸効果を補強した)と、準備預金残高の目標を引き上げる過程で、その実現のためには買いオペの対象資産を広げざるを得なかったことから来ているとみられる」と述べておられます。


3.米連邦準備理事会(FRB)の量的緩和政策

 米連邦準備理事会(FRB)は、2008年11月から10年3月まで、FRB自身が「信用緩和(Credit Easing)」と呼ぶ、量的緩和政策を実施しました。この政策は、買いオペの対象を短期の安全資産から証券化商品を始めとしたリスク資産に変更するもので、世間では一般にQE1と称されています。この信用緩和を実施するに際して、FRBはリスク資産を購入する一方で、短期国債の売却も行ってはいましたが、リスク資産の購入額の方がはるかに大きく、その結果として準備預金残高の増加を伴っていたので、この政策は「信用緩和」政策であると同時に「量的緩和」政策であったとされています。

 さらに、FRBは、2010年8月から11年6月にかけて長期国債大量買取りを実施しています。これが、「量的緩和第2弾(QE2)」と呼ばれるものです。

 FRBが採った金融政策は、量的拡大自体をその第一義の目標とするものではなく、QE1の目標は、リスク資産の利回りの引き下げであり、QE2の際のそれは、長期金利の引き下げでした。

 政策金利が実質ゼロになっていても、リスク資産の利回りや長期金利までもがゼロになっているのでない限り、そこに金融緩和余地があるという考え方です。

 QE1は、リーマン・ショック後の金融危機で米国の信用市場が機能不全に陥っていた状況下において実施されました。この時期は、投資家が一斉に危険回避に走る中、多くの金融機関が流動性確保のために資産の大量処分の必要性に迫られ、資産価格が実態と思われる水準を超えて下落(利回りは高騰)する負の螺旋階段状態だったため、リスク資産の利回りの引き下げを第一義に置いた措置は、適切な措置であったと評価できます。

 一方、QE2は、長期金利の低下とそれに伴う株価の上昇及び自国通貨安を促すことを主眼とした措置であり、ゼロ金利下で短期国債と準備預金が完全代替物になっている状況下では、発行済み短期国債の満期構造を変更するに過ぎず、効果は極めて限定的だったと池尾教授は総括されています。しかし、その後の現象としての米国株の上昇及びドル安円高を見る限り、ここまで一定の効果はあったと思われます。

2011_@成田山 002A

コメント

非公開コメント

トラックバック

http://yokoteoffice.blog130.fc2.com/tb.php/207-ee6d293b