第3号被保険者に関する種別変更問題の考察

 本年になってからも、不整合記録問題(「国民年金第3号被保険者の未納問題」)や現厚労相による制度否定的な発言(「第3号被保険者に関する小宮山厚労相の見解」)などで、たびたび社会的に取り上げられることになった国民年金の第3号被保険者制度ですが、小生はこの制度を創設したこと自体が大きな誤りであったと思っている者の一人です。ここでは、もう一度第3号被保険者制度について、その定義などをおさらいし、なぜ第3号から1号への種別変更がなされないまま記録が放置される事態が生じているのかを考えてみます。


1.第3号被保険者とは何か

 以前の記事でも何度か書いてきましたが(「国民年金の被保険者」)、改めて第3号被保険者の定義を以下に記しておきます。

 第3号被保険者とは、「第2号被保険者の配偶者であって、主として第2号被保険者の収入により生計を維持するもの(第2号被保険者である者を除く。以下「被扶養配偶者という)のうち20歳以上60歳未満のもの」を指します。

 次に、小生が使用している教科書にある資格の取得、喪失及び種別変更などについての記述は、以下のようになっております。

(第3号被保険者の届出)
 第3号被保険者は、その資格の取得及び喪失並びに種別の変更に関する事項並びに氏名及び住所の変更に関する事項を当該事実のあった日から14日以内に厚生労働大臣に届け出なければならない。この届出は、厚生労働省令で定める場合を除き、その配偶者である第2号被保険者を使用する事業主、又はその配偶者である第2号被保険者を組合員又は加入者とする・・・(省略)・・・を経由して行うものとする。

(第1号被保険者の届出)
 第1号被保険者は、その資格の取得及び喪失並びに種別の変更に関する事項並びに氏名及び住所の変更に関する事項を当該事実のあった日から14日以内に市町村長に届け出なければならない。

 記録不整合で問題となっているのは、本来第3号被保険者でなくなっているのに、記録がそのままになっている場合です。この場合というのは、第3号被保険者(正確には元第3号被保険者)が種別を変更すると考えると事業所経由のように思えますし、かつて第3号で今現在実質第1号被保険者である者が種別変更届を行うと考えれば、自身で市町村長に届け出るべきということになります。正解は後者で、第3号被保険者から第1号被保険者への種別変更を自ら市町村長に届け出なければならないのは、次のような場合が想定されます。

(1)第2号被保険者たる配偶者が死亡したとき
(2)第2号被保険者たる配偶者と離婚したとき
(3)第3号被保険者がパート又は個人事業などの収入が増えて扶養から外れたとき
(4)第2号被保険者たる配偶者が退職して第1号被保険者になったとき
(5)第2号被保険者たる配偶者が65歳になって、老齢又は退職を支給事由とする年金受給権者になったとき

 (1)から(3)は、配偶者の扶養を外れて第3号被保険者たる要件を満たさなくなった場合、(4)は配偶者が第2号被保険者でなくなった場合、(5)は第2号被保険者が年金受給権者になった場合で、退職せずに勤めを続けていても同様です。

 ちなみに、第3号被保険者自身が就職して第2号被保険者になったときは、就職先の事業主が届出を行います。また、第3号被保険者が60歳に達したときには、自動的に第3号被保険者の資格を喪失しますので、届け出る必要はありません。


2.実務上の問題点

 第3号被保険者から第1号への種別変更については教科書的には前述のとおりですが、現実には、そもそも第3号被保険者の定義が配偶者の第2号被保険者性から判断されるものであるため、非常に分かりにくいものと言わざるを得ません。我々社労士のような専門家からすると考えにくいことかもしれませんが、配偶者の仕事がサラリーマンから自営業者に変わっただけで、本人は専業主婦をそのまま続けていて被扶養配偶者のまま何も変わらないのであれば、自分で国民年金の保険料を納付する必要は依然としてないのだと誤解する人は、必ず出てくるはずです。

 また、配偶者の第2号被保険者性の判別が、微妙で難しい場合があります。「1.(5)第2号被保険者たる配偶者が65歳になって、老齢又は退職を支給事由とする年金受給権者になったとき」、本人が60歳未満であれば、第3号から第1号被保険者への種別変更が必要になりますが、第2号被保険者たる配偶者が何らかの事情で、65歳になっても老齢又は退職を支給事由とする年金受給資格を満たしていない場合、反対解釈からいって、本人は第3号被保険者にとどまるはずです。さらに稀な事例かもしれませんが、第2号被保険者たる配偶者が70歳を過ぎても年金受給資格を満たしていない場合で、高年齢任意加入被保険者となった場合も、公務員の特例継続組合員を第2号被保険者とみなしていることなどから類推して、本人が60歳に到達していない限りにおいて、第3号被保険者であると考えられます。

 このように、全く同じようにサラリーマンの配偶者がいてその被扶養配偶者であっても、配偶者のその時点における第2号被保険者性の如何によって、専門家である社労士でさえ判断に苦しむような場合が想定される第3号被保険者の判定を、全ての国民に対する公的年金に関する教育及び啓蒙活動が十分とは言えない状況下で、恙なく運用していこうと目論むのは、いくら一般の教育水準が高くかつ器用な日本国民相手でも、不可能というものです。

 この問題に関して、月刊社労士2011年9月号の定点観測に神奈川県立保健福祉大学名誉教授の山崎泰彦先生が、「第3号被保険者不整合問題を考える」という小論を寄稿され、次のように述べておられます。「(平成10年からの届出勧奨状の送付、平成17年からの職権による種別変更などの措置にも、情報提供のない健保組合や住所不分明者が漏れている)しかし、それでも実際には、大半の人が当初から種別変更をきちんと行ってきた。夫が退職したときや健保の扶養から外れたときは健保の保険証が無くなるから、誰から教わることもなく、国保に加入するため市町村に届け出る。しかも、多くの市町村では国保と年金の届が複写式で一体化しているし、そうでない市町村においても国保の窓口で年金の届出を勧奨している。・・・(省略)・・・このように、原則として年金と医療保険の適用が連動していることからすれば、不整合問題を有する者が少数にとどまっているのは、ごく自然のことなのである。にもかかわらず、届出を怠り、しかも2年以上の不整合記録期間を有する人(推計で47.5万人)とは、一体どういう人なのか首をかしげざるを得ない。」

 しかし、現実には、国保と年金の届けが一体化されていない自治体はいくらでも存在するはずですし、国保と年金で課が分かれていれば、縦割り行政で連携など絵に描いた餅で、年金と医療保険の適用の連動などしていない役所があるから、50万人近い不整合記録が生じているとも言えるのです。現在、勧奨状を日本年金機構が確実に送付していると思われるのは、協会けんぽに加入している事業所が被保険者の「健康保険被扶養者(異動)届」を提出している場合だけです。これ以外の健保組合の場合などについては、種別変更届の提出を怠っている者を把握することは難しく、行政側の支援によって制度の欠陥を補填することにはやはり無理なのです。

 小生は、年初に厚生労働省が唱えたいわゆる「運用3号」などという不整合記録の解決策は、論外の愚策と断じているものです。しかし、国民年金の第3号被保険者に絡む問題は根深く、制度自体に大きな欠陥があることはもはや火を見るより明らかでしょう。我が国の家族制度や伝統をぶち壊す個人を基底に置いた社会保障制度や税制を推進する立場には与するものでは決してないのですが、第3号被保険者はある意味でやり過ぎです。これだけ大きな欠陥をはらむ制度は、可及的速やかに廃止するべきです。こんな制度を後生大事に維持していくことにどういう意味があるのか考え直してみる時期に来ていると思います。
2011_@成田山 011A

コメント

2015/02/01 日経記事

 厚生労働省は2月から、主婦が納め忘れた年金保険料の追納を受け付ける。夫の退職などで保険料を払う義務が生まれていたのに払っていなかった人が対象。4月から2018年3月まで過去10年分の保険料を納められるようになる。納付分は受け取る年金額に反映するため、無年金や低年金の人が減る。

 主婦の年金未納問題は10年ごろに大量に発覚した。夫が会社員の専業主婦は国民年金の第3号被保険者となり、保険料を納めなくても年金をもらえる。ただ夫が脱サラしたり、離婚したりした場合は、手続きをして60歳まで国民年金の保険料を納める必要がある。この手続きを忘れていた人が今回の追納制度の対象だ。

 国民年金の保険料は月額で約1万5000円。未納分は通常2年分しかさかのぼって納められないが、対象者は最大10年分納められるようになる。未納期間が過去5年なら約90万円を払えれば、満額払ったことになる。

2015年02月01日 14:18 from ヨコテ URL

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