リストラなしの「年輪経営」について_その1

1.会社はまず従業員のために存在している

 長野県伊那郡に、株主利益第1主義や成果主義の対極に位置する経営を脈々と続けてきて、創業以来48年連続増収増益を記録している「伊那食品工業株式会社」という会社があります。年商165億円、従業員数約400人の寒天製造業の代表取締役会長 塚越寛氏は、会社創設の半年後に「社長代行」という肩書で社員10数人にすぎなかった同社に入社して以来、同社を率いて育ててこられました。

 塚越氏は、売上げや利益を大きくすることを会社経営の目的とは考えていません。売上げが大きく増えたから会社も成長したと思うことは、「錯覚」であるとさえ言いきっています。

 それでは、塚越氏が考える会社の存在する目的は何かといいますと、それは「会社はまず社員を幸せにするためにあると考えています。売上げを増やすのも、利益を上げるのも、社員を幸せにするための手段にすぎません。」そして、社員を不幸にする最大の事象が、倒産など事業が継続できなくなることですから、大幅な売り上げ増も、利益増も敢えて追求せず、無理をしないで会社を永続させることに傾注した経営のかじ取りを心掛けてこられてきたのです。

 この考えからすると、人件費を削って会社の利益を拡大するのは、本末転倒ということになります。確かに、景気回復基調にあったとされる小泉政権後半でさえ、企業の人件費削減が盛んに行われ、人減らしと労働強化、正社員から派遣社員への切り替えが進行し、企業業績は回復しても、多くの労働者は逆に不幸になったというようなことが起こっていました。


2.伊那食品工業の理念及び10箇条

 伊那食品工業の社是は、「いい会社を作りましょう―たくましく そして やさしく―」です。

 同社は、商売に関して、独特の考え方を持っており、それを貫き通しているところが偉大です。その例として、同社は、「振り出した手形には、自分たちで印紙を貼る。振込手数料は自社で負担する。」ということが挙げられるかと思います。為替手形を利用すれば、手形を受け取った側が印紙代を払うことになり、また、送金手数料を控除して送金することもできますが、コスト削減のためにこういうことは決してしないのだそうです。その理由は、「うちの会社はこのような理不尽なことをやっています」と宣伝するに等しいと考えるからです。

 同社の掲げるいい会社10箇条は、社是の下の行動指針のようなものと思われます。次に掲げる通りです。
(1) 常にいい製品をつくる。
(2) 売れるからといってつくり過ぎない、売り過ぎない。
(3) できるだけ定価販売を心掛け、値引きをしない。
(4) お客様の立場に立ったものづくりとサービスを心がける。
(5) 美しい工場・店舗・庭づくりをする。
(6) 上品なパッケージ、センスのいい広告を行う。
(7) メセナ活動とボランティア等の社会貢献を行う。
(8) 仕入れ先を大切にする。
(9) 経営理念を全員が理解し、企業イメージを高める。
(10)以上のことを実行し、継続する。
 

3.売り過ぎない 仕入先を変えない

 (2)の「売れるからといってつくり過ぎない、売り過ぎない。」とは、何を言っているのかというと、身の丈に合わない商売はしないということです。同社でもあるときヒット商品が出て、大手スーパーから全国展開の商談を持ちかけられたことがあったようです。しかし、塚越氏はやりたいという社内の多数意見を抑えて、この商談を断る決断を下しています。その理由は、全国展開を行うとすれば、臨時に人を雇い、慌てて設備投資も行わなければならず、思ったような品質管理ができなくなる事態を想定したからでした。また、特定の流通チャンネルだけが大きくなってしまえば、どうしてもそこに頼りがちになり、均衡のとれた経営が難しくなる虞が高いことも想定したようです。

 (8)の「仕入れ先を大切にする。」というのは、(3)の定価販売とも関連しているのですが、少しでも安い仕入先を探して、仕入れ先を次々に入れ替えるようなことは絶対にしないというのです。一旦取引を始めた仕入先を大切に扱えば、相手の仕入先もこちらを大切に扱ってくれるという理屈です。取引を始める前に、お互いの信頼関係を築くことを重視し、「あの会社は甘いから、ひとつ儲けてやれ」というような会社とは、最初から取引しないのです。継続的な信頼関係を重視する以上、仕入先に原価を割り込むような値付けを要求することなど論外ということになります。


コメント

非公開コメント

トラックバック

http://yokoteoffice.blog130.fc2.com/tb.php/190-4fce2388