就業規則の法的性格_(秋北バス事件)

1.事案の概要

旅客運送業を営むY社は、当初定年年齢に関する定めを設けていなかったが、昭和30年に就業規則を施行し、定年年齢を満50歳と定めた。ただし、この時は主任以上の役職者への定年年齢の適用はなかった。ところが、Y社は、昭和32年4月1日に就業規則を変更し、主任以上の役職者の定年年齢を満55歳とした。Xは、昭和20年9月にY社に入社し、昭和30年に就業規則が施行された当時既に主任以上の役職であった。Y社は、昭和32年4月1日変更後の就業規則の定年年齢に関する規定に基づき、同年4月25日に既に満55歳に達していた営業所次長であるXに対し、退職を命じる通知を行った。

2.解 説

秋北バス事件(最高裁昭和43年12月25日判決)の論点は、就業規則の法的規範性及び就業規則不利益変更の有効性であります。

最高裁判決は、「多数の労働者を使用する近代企業において、その事業を合理的に運営するには多数の労働契約関係を集合的・統一的に処理する必要があり、この見地から、労働条件についても、統一的かつ画一的に決定する必要が生じる。」従って、「労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範を有するだけではなく、それが合理的な労働条件を定めているものである限り、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っているものということができる。」
としている。さらに、就業規則は法的規範性を有することを根拠に「当該事業所の労働者は、就業規則の存在及び内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものと言うべきである。」

上記の論点に付き、今日では2008年3月1日施行の労働契約法第7条において、労働者に周知された合理的な労働条件が定められている就業規則は労働契約の内容になると謳っており、その法的規範性を改めて確認している。

また、最高裁判決は、第二の論点について「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきであり、...そして、新たな定年制の採用のごときについても、それが労働者にとって不利益な変更といえるかどうかは暫くおき、その理を異にするものではないのである。」

3.不利益変更と合理性

最高裁判決で言うところの「合理的なものである限り」というのは、具体的にはどのような場合をいっているのでしょうか。今日、労働契約法は、第9条で合意によらない就業規則による不利益変更を原則として認めないとしています。しかし、次の第10条において、「就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする」としています。

労働契約法第10条の4要件は、法施行以前の平成9年2月28日最高裁第四銀行事件判決と関連して、次のように解されます。(1)「労働者の受ける不利益の程度」とは、個々の労働者の不利益の程度を考慮する。(2)「労働条件の変更の必要性」とは、使用者にとっての就業規則による労働条件変更の必要性をいうものである。(3)「変更後の就業規則の内容の相当性」とは、就業規則の変更の内容全体の相当性をいうものであり、変更後の就業規則の内容面に係る制度変更の一般の状況が広く含まれるものである。(4)「労働組合等との交渉の状況」とは、労働組合等事業場の労働者の意思を代表するものとの交渉の経緯、結果等をいうものである。また、(5)「その他の就業規則の変更に係る事情」には、「代替措置その他関連する他の労働条件の改善事情」、「他の労働組合又は他の従業員の対応」、及び「同種事項に関する我が国社会における一般的状況」が含まれるとされています。

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