世界経済の行方

1.8月に起きたこと

 2011年もあっという間に半分以上過ぎてしまいました。3月11日の東日本大震災以来、日本経済は危機対応の異常事態がずっと続いています。そうこうしているうちに、8月に入って米国の公債発行法案問題及び米国債の格下げ問題に端を発する世界同時株安が勃発し、我が国は仮借のない円高の進行に見舞われることになりました。今週に入って株式市場は日米ともにやや落ち着きを取り戻したかに見えますが、先月末から今月10日までのNYDowの下落幅は1424ドルで、率にして12%程であり、日経平均は795円、8%程の下落でした。欧州株の下げ幅はこれ以上で、ドイツなどは主要指標で1545の下落幅、つまり21%の下落率を記録しています。

 今年に入ってから、「2011年の景気はどうなるか」_1月6日「最近の米国株式の上昇と食糧価格高騰の関係」_2月19日で、米国については我が国のような極端な人口の変動が生じていないことを主な理由として、米国の景気動向は循環的なものであるはずという考え方を紹介したのですが、今回は少し違った視点から見てみたいと思います。


2.Lehman前の世界経済

 前回の金融危機を象徴するLehmanの経営破綻が今から3年前の2008年9月のことです。その前年2007年には、サブプライムローン問題が既に表面化していて米国経済は不穏な状況ではあったのですが、それまで世界経済は、どのような仕組みで回っていたのかを思い出してみたいと思います。その当時すでに言われていたことは、「世界が作り、米国が買う」という構造です。この時期、米国の消費は過剰な伸びを見せ、国内生産だけでは到底賄えず、世界中から輸入する状況でした。日本は、中国など亜細亜に対する輸出を増やしていたと言われていますが、その中身は中国などに対して部品、機械又は設備の類を主に輸出し、それらを使用して生産された最終消費財の多くは中国などから欧米や日本に、とりわけ米国に輸出されていたので、結局は米国に輸出していたとも言えるのです。

 それでは、このような米国における過剰消費を支えていたものは何かということが、次に問題になります。なぜなら、米国は2000年前後からITバブルの崩壊などもあって個人所得が大きく伸びてはいなかったからです。そこで、個人所得の伸びに代わって2000年代前半の個人消費の伸びを支えたものは、住宅価格の上昇でした。米国の活発な個人消費は、住宅に代表される資産価格の上昇に過度に依存した不健全なものであったことが後に分かってきます。そしてこの住宅バブルを金融面で支えていたのが、サブプライムローンを始めとした金融工学により生み出された派生金融商品でした。


3.Lehman以降

 「世界が作り、米国が消費する」という世界経済の構造が崩壊したのが、Lehmanの倒産劇に象徴される金融危機でした。このような経済における負の遺産を背負って登場したObama大統領が取り組まなければならなかった課題の一つは、米国経済の立て直しです。ところで、現在世界のGDPの4分の1以上を占める米国のGDPですが、その約7割は個人消費が占めています。つまり、当面の米国経済の立て直しとは、住宅バブルの崩壊で傷んだ個人消費を如何に健全かつ迅速に回復させるのかという課題に取り組むことだったということができます。さらに踏み込んでいえば、市場原理主義や金融資本主義を推し進めた結果、貧富の格差が拡大して中産階級が没落していくという問題を早急に「所得の再配分」を行って解決しなければならいと言うことだったと思います。

 Obama大統領の肝いりで推進され、政権最大の実績であると強調される医療保険改革法もこれまで国民皆保険の医療保険制度が存在しなかった米国に強制加入の医療保険制度を導入するというものですから、所得の再分配という狙いがあったものと思われます。しかし、この法案に対する違憲判決が8月12日アトランタ連邦高裁で下されたと伝えられました。違憲とされたのは、2014年から国民に原則として保険加入を義務付け、加入しなければ罰則を設けている条項で、判決は「(義務化する)法案を可決した議会は権限を逸脱した」というものです。記事によれば、同条項は全米26州で係争中であり、アトランタ連邦高裁での違憲判決を受けて連邦最高裁判所での判断を仰ぐのが早まるかもしれないとの見通しもあるようです(Health Law Is Dealt Blow by a Court on Mandate)。こういう報道を見るにつけ、大統領は最大の課題に解決の目途がつけられず、来年の秋に予定される選挙に苦戦を余儀なくされるのではないかとさえ思われるのです。

 米国では、金融危機が顕在化して以降共和党政権の時代から、通貨供給量を圧倒的に増やす金融緩和策を実施して金融危機の再来と経済崩壊を回避しつつ、個人消費、企業投資及び輸出の伸びを促して経済の回復を図ろうとしていたようですが、その成果が見られないうちに8月の小パニックが起こってしまいました。世界経済の4分の1を占める米国経済が依然として脆弱なままであることが判明した以上、今後、どこの地域から何をきっかけに金融危機が勃発してもおかしくはない状況がしばらく継続すると考えておくべきなのだと思います。

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