未支給年金の問題-その2-

4.未支給年金は本当に相続財産ではないのか

 平成7年年11月7日最高裁第三小法廷判決は、国民年金法19条1項(未支給年金)の規定について「相続とは別の立場から一定の遺族に対して未支給の年金給付を認めたものであり、死亡した受給権者が有していた年金給付に係る請求権が同条の規定を離れて別途相続の対象となるものではないとことはあきらかである。」と解して、未支給年金の相続財産性を否定しました。そのため、未支給年金請求権は相続税の対象にはならず、その課税関係は未支給の年金給付の支給を受けた遺族の一時所得として処理されることについては、「3.未支給年金と課税」のところで既に述べたとおりです。

 しかし、ここで問題になるのが、未支給年金の規定に定められた受給権者が死亡した当時にその者と生計を同じくする遺族がいなかったために、未支給年金の請求権者はいないが、相続人は存在するという場合です。今日の核家族化が進んだ我が国では、このような場合の方がむしろ多いのではないかと推測されます。その場合には、国民年金法19条及び厚生年金保険法37条などは、民法相続法の例外規定であるので先にこちらが適用されるのが当然としても、適用できない場合には、原則に戻って民法相続法が適用されると考えるのが自然なのではないかとも考えられます。

 例えば8月15日に支給する6月及び7月分の年金について、7月中に受給権者本人が亡くなったという理由で年金支分権が消滅したと言えるのかということを論理的に考えてみたいのですが、その前に遺族基礎年金を受給している子が18歳到達前に婚姻して受給権が消滅する別の事例を検討してみます。この場合には、婚姻による受給権の消滅が7月中だとしても、この者は当然のことながら6月及び7月分の遺族基礎年金を失権後に受給することになります。遺族基礎年金の例で、なぜ失権後であっても年金が支給されるのかといえば、6月及び7月の年金請求権ないしは支分権が既に発生していたからです。同様の解釈は、死亡失権の場合であっても有効であり、未支給年金の規定は生計を同じくする特定の遺族が存在する場合にこれらの救済を迅速に行うための相続法に対する例外規定以上のものではなく、未支給年金に関する規定がおかれたことにより、受給権者の死亡失権以前に既に発生している支分権たる年金請求権が無効になるとは到底考えられません。


5.現状の問題点

 しかしながら現状は、前述の未支給年金に関する最高裁判決等にもある通り、未支給年金についても年金の一身専属性を強調し、遺産相続の対象にはならないという考え方であり、実務上もそのように扱われています。しかし、この点については既に述べたとおり、論理的な不自然さが残るばかりでなく、他の制度との不整合が指摘されています。

 神奈川県社労士会の遠藤貞昭先生は「もう一つの消えた年金」(月刊社会保険労務士2010年12月号)の中で、労災保険の場合、未支給の保険給付の請求権者がいないときには、相続人が未支給保険給付の請求権者となることができる旨の通達が出ていることを指摘されています。また、国家公務員共済及び地方公務員共済では、未支給給付があってこれを支給すべき遺族がいない場合には、死亡した受給権者の相続人に支給する旨が法定されていることを挙げて、これも一種の官民格差ではないかと述べられています。

未支給の保険給付に関する通達(昭和41年1月31日基発73号)
1.未支給給付に関する規定は、その限りで相続に関する民法の規定を排除するものであるが、未支給給付の請求権者がない場合には、保険給付の本来の死亡した受給権者の相続人がその未支給給付の請求権者となる。
2.「未支給の保険給付」とは、支給事由が生じた保険給付であって、請求されていないもの並びに請求はあったがまだ支給決定がないもの及び支給決定はあったがまだ支払われていないものをいう。
3.「生計を同じくする」とは、一個の生計順位の構成員であるということであるから、生計を維持されていることを要せず、また、必ずしも同居していることを要しないが、生計を維持されている場合には、生計を同じくしているものと推定して差し支えない。


国家公務員法 給付通則
(遺族の順位)
第43条 給付を受けるべき遺族の順位は、次の各号の順序とする。
(1)配偶及び子
(2)父母
(3)孫
(4)祖父母
2項、3項 (省 略)

(同順位者が2人以上ある場合の給付)
第44条 前条の規定により給付を受けるべき遺族に同順位者が2人以上あるときは、その給付は、その人数によつて等分して支給する。

(支払未済の給付の受給者の特例)
第45条 受給権者が死亡した場合において、その者が支給を受けることができた給付でその支払を受けなかつたものがあるときは、前2条の規定に準じて、これをその者の遺族(弔慰金又は遺族共済年金については、これらの給付に係る組合員であつた者の他の遺族)に支給し、支給すべき遺族がないときは、当該死亡した者の相続人に支給する。
2 前項の規定による給付を受けるべき同順位者が2人以上あるときは、その全額をその一人に支給することができるものとし、この場合において、その一人にした支給は、全員に対してしたものとみなす。

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