組織戦略の考え方

 「マズローの欲求段階説」異論_7月21日でも紹介した沼上幹氏の「組織戦略の考え方」を読んでみました。勉強不足のせいかやや消化不良気味なのは否めませんが、考えさせられる点が多々ありました。


1.事業部制と職能制

 「第3章 組織デザインは万能薬ではない」で、代表的な組織構造として、事業部制を挙げ、これに対する組織として職能制組織が取り上げられております。事業部とは、英語のDivisionのことであり、Divisionとはそもそも軍隊用語で「師団」を意味することからもわかるように、自前の工場を有し、採用人事に至るまで自律的な組織単位を指していました。ところが、日本の事業部制は、必ずしも自律的な1個の組織単位として行動できない中途半端な似非事業部制が多かったために、後にカンパニー制として、改めてこの仕組みを完全なものにする必要が生じたようです。一方、職能制では人事部門が会社全体の人事を司り、製造部門は全ての商品の製造を、営業部門は同じくあらゆる商品の営業を取り扱うという組織構造になっています。

 個別の市場ごとに大幅に権限移譲されている事業部制の良さは、市場の変化により円滑に適応できる可能性が高まることですが、それでは一つの会社にまとまっている必要があるのかという疑問が当然生じてきてしまいます。つまり、事業部間の相乗効果が期待しにくいこと、共通資源の蓄積に難があることなどが欠点とされています。従来の職能制の長所と短所は、事業部制の裏返しになります。そして、事業部制と職能制とを止揚した新たな組織構造がマトリクス組織と呼ばれるものですが、沼上氏の結論は、「マトリクスは何も解決しない」というものです。その理由は、沼上氏によれば、マトリクス組織がうまく機能できるか否かは、(1)職能部門長と事業部長が率直に意見交換を行って対立点の解消ができるか否か、(2)CEOが職能部門長と事業部長との対立点を強権によって解消できるか否か、又は(3)中間管理職が内面的な葛藤処理を健全に行えるタフな人材であるか否か、という条件に依存しているので、結局は「人」次第ということに行きつくからです。


2.組織の中のフリーライダー論

 フリーライダー論とは、ある一定の便宜を享受するについて、何の貢献もしていない者まで含まれてしまうのは企業活動にとって長い目で見ると問題であるという議論です。一旦誰かが創り出してくれさえすれば、それ相応の負担を支払っていない他の者までもが利用できてしまうものを公共財又は集合財と呼びます。例えば、「治安の良さ」のように、税金を沢山払っていようがいまいが、治安の良い国に住むという利益は、その国に住む全ての人があまねく享受できてしまいます。同様に、会社の業績の高さは、その会社の従業員にとって集合財になり得ます。自分が貢献していなくても、他の誰かが頑張っていれば会社の業績が高まり、自分の給料を手にすることが出来ます。自分の所属部門が赤字でも、他の部門がしっかりと稼いでいてくれれば、賞与は低くなるかもしれませんが、少なくとも給料は支払われ続けます。

 戦後、日本企業は大企業を中心に終身雇用制をこれまで組織構造の中心に据えてきました。いわばフリーライダーを生み易い構造ですが、新卒の大量採用及び幹部候補生を早期に絞り込まないことによる競争原理の導入でフリーライダーの大量発生を抑え込んできたと言えます。しかし、終身雇用制が明らかに崩れ出し、経営幹部を早期に選別していく必要性も出てきていると思われる状況下、フリーライダーの問題を如何にして解決していくのか、今後の企業経営にとって大きな課題になっていきそうに思われます。


3.組織腐敗の診断法

 沼上氏は、企業経営者は、組織腐敗のプロセスに常に注意を払い、腐敗の兆候に敏感でなければならないと指摘した上で、「少し腐ってきたな」と思ったら、その時点で組織改革をトップダウンで行う必要があると述べています。何故なら、ボトムアップで改革を遂行しようとすると古いルールが廃棄できずに新しいルールが次から次へと累積する結果になってしまうからです。

 組織腐敗の兆候を察知する診断のための視点として、次のような指摘がなされています。

(1)総務、人事、経理、又は企画などの本社スタッフの議論があまりに手続き論や筋論に傾倒する場合が目につくようになってきた場合、組織腐敗の兆候と考えるべきです。何故なら、規則を基礎にした議論は、基本的には内向きの議論であり、利益を上げることに直接的には結び付いていないからです。また、社内規則に関連した議論が増えてくると、この種の手続き論及び筋論を回避するための裏技が発達してきて、その裏技を開発することが有能であることの証のように錯覚されることに起因する多くの弊害が生じてくるからです。新規事業を立ち上げようというとき、社内正当化プロセスに全体の3割以上の時間を使うような状態になっているならば、事態は深刻と考えなければなりません。そんな状態では、多くの職員が新規事業の企画など馬鹿馬鹿しくて考えなくなってしまうからです。

(2)職員が暇であり、多くの暇な時間が内向きの仕事に振り向けられているということがあった場合も組織腐敗の兆候と考えられます。職員の雑談の質が成功している事業本部が何故成功しているのか、逆にうまくいっていない事業は何故うまくいかないのかなど外向きの議論が多いか、感情論を中心とした内向きの議論が多いのか、という点に着目する必要があります。また、典型的な本社戦略部門又は事業部の商品企画などのスタッフが戦略を実行する現場が想定できない空理空論を比ゆ的な言葉遊びで語るようになったら、それは時間の浪費であり、利益を上げることには何ら結びつかない議論が多くなされているということを意味し、本社スタッフが基本的には暇だということを表しています。利益責任を負わない本社スタッフが言葉遊びを始めたら、思慮を欠いた悲惨な企画が多数創出される可能性が高まり、その悲惨な企画を阻止するために多数の人材の貴重な時間が費やされる結果になる恐れが高まります。

コメント

非公開コメント

トラックバック

http://yokoteoffice.blog130.fc2.com/tb.php/172-9040fb79