採用内定の取消

1.採用内定の法的性質

サブプライムローン不況が長引く日本ですが、いつの間にか人口が3億を超えた移民の国と違い、人口減少が止まらない状況では国全体が潤うような景気回復なんて半永久的に来ないのではないかと思います。という訳で、一時ほどではないにせよ、まだまだ経済的な理由による採用内定の取消がしばしば社会問題になる昨今です。

採用内定の法的性質は、始期付解約権留保付労働契約であるという解釈が判例で確立しています。もちろん、実務では個別具体的に事例を見ていく必要があるのだと思いますが、一般的には、内定通知により会社と内定者との間に労働契約が成立し、その労働契約は始期及び解約権が付されていると考えます。

始期について、民法に規定が有ります。民法第135条「法律行為に始期を付したときは、その法律行為の履行は、期限が到来するまで、これを請求することができない。」とあります。つまり、労働契約は内定があったとみなされる当事者の合意で成立しているが、労働契約から派生する諸々の法律行為の履行の請求はできない状態が内定から実際に就労するまでの時期の状態と考えられます。留保解約権については、試用期間とは何かのところで勉強したものと同様の考え方です。ちなみに、試用期間に比べて更に会社と関係が薄いといえる内定期間についてさえ、労働契約が成立していると考えるわけですから、試用期間「予備契約説」は苦しいということがここからもいえると思います。

この始期について、労働契約の効力そのものに始期が付いていると考える効力始期説及び効力は内定時に発生しているが就労に始期が付されていると考える就労始期説があります。法律家の狂気の世界に一歩足を踏み入れた感じですが、就業規則の適用について、前者では就業規則は適用できないという結論が導かれ、後者では適用できるという結論に結びつき易くなるという違いがあります。

2.採用内定の取消

採用内定の取消は、内定の法的性質に基づき留保解約権行使の適法性の問題になります。適法性の判断基準は、ここでも客観的に合理的で社会通念上相当と是認できる事由が存在するかどうかということになります。判例では、「採用決定後における調査の結果により、当初知ることができず、また知ることができないような事実に照らし内定者を雇用することが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に相当であると認められる」ことという判断基準を立てています。

具体的には、(1)履歴書の虚偽記載、(2)現在の疾病、(3)過去又は現在の犯罪歴などが挙げられます。しかし、採用内定後の会社業績の著しい悪化などを理由に採用内定の取消が果たしてできるのか、上記の判例が言っている留保解約権の趣旨に照らすと若干疑問が生じます。一方で、正社員の整理解雇については、解雇権濫用法理との関係で、整理解雇の4要件(1)人員整理の必要性、(2)解雇回避の努力をなしたこと、(3)被解雇者の選定に合理性があること、(4)解雇手続きが妥当であることを満たすことを条件に認められています。

長引く不況の中、業績悪化による内定の取消は実際に起こってきていることですが、「始期付解雇権留保付労働契約」、「整理解雇の4要件」などキーワードを十分考慮しつつ、慎重に検討されなければならない問題です。法律問題を離れても、普通の若者に十分な就労の機会が与えられないという状況は、嘆かわしいことではないでしょうか。

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