東亜ペイント事件_最高裁判決

 前回の同事案に関する第1審判決に続き、今回は、会社側が控訴、上告したことによって下された最高裁判決です。当初の労働契約において、「勤務場所を大阪とする旨の合意がなされた」という労働者Yの主張は認められなかったものの、X社の転勤命令は、人事権を濫用した権利の濫用であって無効、Yが本件転勤命令に従わなかったことを理由になされた解雇も無効というべきとする大阪地裁判決及びこれを支持する控訴審判決を受けて、これを不服とするX社が上告し、昭和61年に上告審判決が最高裁第二小法廷において下されます。

 この判決において最高裁は、配転・転勤命令が権利の濫用にあたるか否かの判断基準として、(1)業務上の必要性の存否 (2)業務上の必要性がある場合でも 当該転勤命令が他の不当な動機・目的がないか、もしくは労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等特段の事情の存否を上げました。

 本最高裁判決で示された会社の配転・転勤命令が権利の濫用に当たるか否かの判断基準は、その後判例規範として大きな影響を及ぼし、労働者が会社の転勤命令の無効を主張するためには、当該判断基準の業務上の必要性がなかったこと、不当な動機があったこと、又は不利益の程度が通常甘受すべき程度を超えていることを立証しなければならなくなりました。これは、我が国において雇用関係が終身雇用制であり、英米などに比べて会社の解雇権が著しく制限されていたこととの引き換えに、いわゆる正社員は、配転・転勤命令には原則として従うという慣行若しくは労使の暗黙の合意のようなものの存在が、社会的な背景としてあったことによるものと思われます。「同一労働・同一賃金の原則」、「働き方の多様化傾向」などが労働政策の俎上に上せられる今日において、当該最高裁判決の意義を再認識しておくことも意味があるのではないかと思料いたす次第です。

(参考)包括的契約が原則
 我が国では「一般に、労働契約は、労働者がその労働力の使用を包括的に使用者に委ねることを内容とするものであり、個々の具体的労働を直接約定すものではないから、使用者は労働者が給付すべき労働の種類、態様、場所等について、これらを決定する権限を有するものであり、従って使用者が業務上の必要から労働者に配置転換なり、転勤を命ずることは原則として許される」(昭和42年7月12日熊本地裁八代支部判決ほか)


1.判決主文

(1)原判決中X社敗訴部分を破棄する。
(2)前項の部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。


2.判決要旨

 X社の労働協約及び就業規則には、会社は業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる旨の定めがあり、現にX社では、全国に十数か所の営業所等を置き、その間において従業員、特に営業担当者の転勤を頻繁に行っており、Yは大学卒業資格の営業担当者としてX社に入社したもので、両者の間で労働契約が成立した際にも勤務地を大阪に限定する合意はなされなかったという事情の下においては、X社は個別的同意なしにYの勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有するものというべきです。

 使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきですが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき(1)業務上の必要性が存しない場合又は(2)業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは(3)労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきです。

 右の業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもって替え難いといった高度の必要性に限定することは相当ではなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤労意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきです。

 本件についてこれをみるに、名古屋営業所の主任の後任者として適当な者を名古屋営業所へ転勤させる必要があったのですから、主任待遇で営業に従事していたYを選び名古屋営業所勤務を命じた本件転勤命令には業務上の必要性が優に存したものということができます。そしてYの家族状況に照らすと、名古屋営業所への転勤がYに与える家庭生活上の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき程度のものというべきです。したがって、原審の認定した事実関係の下においては、本件転勤命令は権利の濫用に当たらないと解するのが相当です。
---(以下略)---

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