東亜ペイント事件_第一審判決

 久々に労働判例を取り上げます。世間では3月転勤の季節でもあり、東亜ペイント事件の昭和57年大阪地裁判決及び昭和61年の最高裁判決を2回に分けて見てみたいと思います。第一審大阪地裁判決は、原告Yの雇用契約上の地位確認の請求を認めた上でその間の未払い賃金請求及び将来の賃金請求権を認めた、実質Yの全面勝利と言える内容です。

1.事案の概要

 X社は、塗料及び化成品の製造・販売を業とする会社であり、Yは昭和40年4月にX社に入社し、昭和44年から2年3箇月間他社に出向した後、被告神戸営業所に転勤し、昭和48年10月当時同営業所において営業担当の主任の地位にありました。

 X社は、本社、支店のほか、2箇所の工場、10箇所の営業所を有していることから、就業規則や労働協約には業務上の都合により、社員に転勤、配置転換等の異動を命ずることができると定められており、社員は正当な理由なくして異動を拒絶できない旨の規定が存在し、現実に営業マンの出向や転籍等の人事異動が数多く行われていました。

 X社は、瀬戸内海沿岸地方における家庭用塗料の販売を強化するため広島駐在員を置くこととし、広島営業所の主任Aをこれに充てたため、その後任を係長、主任クラスから充てることが必要となり、Yをその後任とすべく昭和48年9月28日、右転勤の内示をしました。しかし、Yはこの転勤を拒否したため、X社は広島営業所には名古屋営業所の主任Bを充て、Yは名古屋営業所に転勤させる内示をして説得したところ、Yはこれも拒否しました。そこでX社は同年10月8日にYを除く50名の定期異動を発令し、Yに対して名古屋営業所に転勤するよう説得を続け、Yの承諾を得られないまま同月30日、Yに対して名古屋営業所への転勤命令を発令しました。しかし、Yはこの命令に従わず、名古屋営業所に赴任しなかったため、X社は転勤命令拒絶を理由に昭和49年1月22日、Yを懲戒解雇しました。

 これに対しYは、本件転勤命令は人事権の濫用として無効であり、これを拒否したことを理由とする本件解雇も無効であるとして、従業員としての地位の確認と賃金の支払いを請求しました。


2.判決主文

(1)Yは、X社の従業員たる地位にあることを確認する。
(2)X社は、Yに対し、金1008万7902円及び内金530万2152円に対する昭和52年11月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)X社は、Yに対し、昭和52年11月1日以降毎月25日限り1箇月当たり金18万3848円を支払え。
(4)Yのその余の請求を棄却する。
(5)訴訟費用はX社の負担とする。
(6)この判決は、主文第2、3項に限り仮に執行することができる。


3.判決の要旨

 YとX社との間で、その労働契約成立時に、その契約内容として、Yの勤務場所を大阪とする旨の合意がなされたことはないというべきです。X社と労働組合との労働協約、X社の就業規則には、業務の都合により社員に転勤、配置転換を命ずることができる旨定められていますから、被告においては、業務上の必要がある限り、従業員の承諾がなくても、これを一方的に転勤させることができますが、一方従業員は正当な理由があれば、右転勤を拒否することができるものというべきです。

 X社においては、昭和48年10月当時、広島営業所の主任Aの後継者として適当な者を転勤させる必要があったところ、X社はYを適任者として広島営業所への転勤を内示しましたが、Yがこれを拒否したのでこれを止め、これに代わって名古屋営業所の主任Bを広島営業所に転勤させたこと、したがってBの後任者として適当な者を転勤させる必要があったのであって、その限度でYを名古屋営業所に転勤させる必要があったといえますが、是非Yでなければならない事情はなかったのであるから、Yを名古屋営業所へ転勤させる必要性はそれ程強いものではなく、場合によってはYに代えて他の従業員を転勤させても足りる状況にあったというべきです。

---(中略)---

 しかして、X社がYを名古屋営業所に転勤させる必要性がそれ程強くなく、Yに代え他の従業員を転勤させることも可能であったのに対し、Yが名古屋営業所に転勤した場合には、その母親、妻、子供と別居を余儀なくされ、相当の犠牲を強いられること、---(中略)---Yには本件転勤命令を拒絶する正当な理由があったものと認めるのが相当です。してみれば、Yが名古屋営業所への転勤を拒絶しているのに、敢えて転勤を命じた本件転勤命令は、X社において、その人事権を濫用した権利の濫用であって、無効というべきです。したがって、Yが本件転勤命令に従わなかったことを理由になされた本件解雇も無効というべきです。

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