年齢計算に関する不思議

 特別支給の老齢厚生年金などに代表される制度大改正における緩和措置というのが、我が国に限らず広く存在するもので、その結果、制度が複雑になることは避けて通れないことのように思われます。しかし、「最初にシステムを作るときに極力単純にこしらえる」ことがむしろ理想的なのだというのが、浅草社労士の持論なのです。人は思った以上に賢く、特に日本人は世界的にも器用な民族の代表で、複雑なシステムもつじつまを合わせて何とか運用してしまうという特徴が見受けられます。しかし、複雑なシステムにおいては単純なそれに比べて間違いが起こる確率が高くなることは確かで、誰かが間違う仕組みを作っておけば、いつか必ず誰かが間違うのです。

1.年齢計算に関する法律

 我が国の公的年金制度の中にも、特別支給の老齢厚生年金に代表されるような複雑な制度は、枚挙にいとまがないのですが、これはどう考えても間違えるというものの一つが、年齢計算に関するものです。これは、「年齢計算に関する法律」及び「民法」の規定が大本にある話で、国民年金法及び厚生年金保険法などの社会保険制度固有の話ではありません。しかし、年金等において支給開始年齢など年齢計算は避けて通れない事項ですが、この満60歳に到達した日、満65歳に達した日などと表現される日は、世間一般に言われる戸籍上の誕生日ではありません。誕生日の前日になるのです。つまり、4月1日生まれの人が例えば65歳に到達するのは、3月31日という訳です。月単位で計算する場合に、4月1日を4月から計算するのと3月31日から計算するのとでは、1月の差が生じてしまします。このような訳のわからぬことをする理由は、次のような法律によるのです。

 民法138条は、特段の定めがない限り、民法に定められた期間の計算が大原則であることを定め、同法140条によれば、日、週、月又は年によって期間を定める場合、その初日が午前0時を過ぎて始まるときは、その翌日を起算日として期間計算をするのが原則(初日不算入の原則)であるとしています。

 ところが、「年齢計算に関する法律」では、年齢計算の場合には初日不算入の原則を採用しない旨を定めています。つまり、本法は、期間計算に関する特別法に当たるという訳です。また、民法143条の準用によって、年齢計算に関して、日数ではなく週、月又は年により期間(年齢)を数える「暦法的計算方法」を採用することにより、満了日(加齢日)は起算日(初日=出生日)に応当する日(誕生日)の前日であることになります。さらに、民法141条も適用されることから、満了(加齢)する時刻は誕生日前日の終了時(午後12時)となります。

 このような定めになっていることの利点は、2月29日生まれの者の年齢計算の場合にも、民法143条2項ただし書きの規定「最後の月に応答する日がないとき、その月の末日に満了する」により2月28日の満了をもって加齢することになるということが挙げられるのかもしれません。しかし、世間一般の常識に沿った誕生日をもって加齢する方式であっても、143条2項但し書きに相当するような規定を作っておけば、2月29日生まれの人が4年に一度しか年を取らない事態は容易に回避できるでしょう。

 老齢年金の支給は、「これを支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から始め、権利が消滅した日の属する月で終わるものとする」(国民年金法18条、厚生年金保険法36条1項)です。つまり、1日生まれの人だけはその誕生日が属する月から支給され、2日生まれから31日生まれの人は誕生月の翌月から支給されることになります。長い人生、1日又は1箇月くらいどうでもよいではないかと考える方もおられるかもしれません。そういう大雑把な考え方は大好きです。それならば、誰もが間違える可能性がほとんどないと思われる、誕生日当日加齢方式に統一してしまう方が、はるかに世のため人のためになると浅草社労士は考えるのです。選挙権も、婚姻年齢も、未成年か否かの識別も全てこれで行けます。


2.資格喪失日

 もう一つ、よく間違うとも思われるのが厚生年金保険の被保険者資格喪失日です。厚生年金保険の被保険者期間は、原則として被保険者の資格取得月から資格喪失月の前月までを被保険者期間として、月単位で計算します。ただし、同月得喪は1箇月として参入します。

 一方、当然被保険者といわれる通常の厚生年金保険被保険者は、
 (1)死亡したとき
 (2)その事業所又は船舶に使用されなくなったとき
 (3)任意適用事業所の適用取消の認可があったとき
 (4)適用除外の規定に該当するに至ったとき
 その翌日に資格を喪失するとされています。

 また、(5)70歳に到達したときには、その日に(つまり、70歳の誕生日の前日)資格を喪失します。

 そこで、退職日を月末にもってくること、特に定年退職日を誕生月の月末にするというような場合が、世間では一般的によく行われることと思うのですが、このときには、資格喪失日が退職日の翌日、つまり、○月1日となり、被保険者期間の計算上退職月が資格喪失月の前月として被保険者期間に算入され、退職月までの保険料をきっちり納めることになります。一方、月の途中で退職した場合には、退職日とその翌日の資格喪失日が同じ月に属することになり、退職月は被保険者期間に含まれないことになる訳ですから、退職月の保険料は当該会社が納める必要はなくなります。

 さらに、話をややこしくするのは、企業年金である厚生年金基金の加入員資格の問題です。厚生年金保険法125条によれば、「加入員の資格を取得した月にその資格を喪失した者は、その資格を取得した日にさかのぼって、加入員でなかったものとみなす」とされており、基金では同月得喪は1箇月として期間に算入されないことになっているのです。

 気付くたびに挙げていくと、そこいらじゅうに落とし穴が掘られているようにな制度に思えて、首をかしげてしまうは浅草社労士なだけなのでしょうか。

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