2011年の景気はどうなるか

 作家の村上龍氏が主催しているJMMと言うメルマガを購読してしています。毎週村上氏が日本経済に関する特定の質問を投げかけ、これに経済の専門家や市場関係者が答えると言うものです。

 質問1144は、「2011年が、2010年よりも、日本経済にとってよい年になるという指標、兆候のようなものは、何かあるのでしょうか。」と言うものでした。これに対するJPモルガン証券日本株ストラテジスト 北野一氏の回答は、本Blogでもたびたび取り上げた「デフレの正体」藻谷浩介著にも言及した印象深いものでした。全文は以下の通りで、今我が国及び世界の経済に何が起こり、潮流になりつつあるのか参考にしたいと思います。

=== JMM月曜版から引用 ===

 三つあると思います。まずは、「賃金本」の流行です。「賃金本」とは、『デフレの正体』(藻谷浩介、角川ONEテーマ21)、『デフレ反転の成長戦略』(山田久、東洋経済新報社)、『人口減少時代の大都市経済』(松谷明彦、東洋経済新報社)といったデフレ克服には、賃上げが重要だと主張する本のことです。私が、勝手にそう呼んでおります。これまでの「デフレ本」といえば、日銀の無策を責め、高橋是清は偉かったという類の本が目につきました。2010年は、こうしたリフレ派よりも前述の賃金派の主張が支持を得始めた転換点であったと思います。

 「賃金本」は、要するに分配を変えろと言っているわけです。企業は、株主だけを満足させるのではなく、すべての関係者を満足させねばならない。すなわち、利益ではなく付加価値の極大化を目標にすべきであり、そのためには賃金を上げねばならないと言っております。過去10数年間、企業は利益をあげるために、手っ取り早く賃金などのコストを削ってきました。この「合成の誤謬」の結果、日本経済が縮小してしまった。今度は、「誤謬の合成」をやってみようよという話です。こうした「賃金本」の活躍は、1990年代前半の「ROE本」の台頭の対極にある動きだとも言えるでしょう。

 当時、バブルの生成および崩壊を反省した日本人は、米国型の資本主義に範を求めます。その中核が株主至上主義であったと言えるでしょう。ROE、すなわち株主資本利益率が重要な経営指標として注目されるようになりました。『ROE革命』(渡辺茂、東経)という本が話題になったのは1994年でした。企業が創造した付加価値を株主に手厚く分配すべきというのが「ROE本」、いや労働者だというのが「賃金本」です。「賃金本」の活躍は、この意味で時代を画する動きだと思います。

 ところで、日本を苦しめているデフレの要因には構造的な要因と循環的な要因があると思います。過去20年間の日米のインフレ率格差(米国対日本)は、ほぼ2.5%で安定しております。一方、1990年代の米国のインフレ率の平均は3.2%、2000年代は2.1%でした。前者では、日本のインフレ率はかろうじてプラスになりますが、後者ではマイナスに沈みます。この安定した2.5%の格差をもたらしているのが構造要因、米国のインフレ率の低下の背景にあるのが循環要因です。「賃金本」は、構造要因の解決に向けての一歩として位置付けることが可能だと思います。

 一方、二つ目の兆しとして取り上げたいのは、債券バブルの崩壊です。2010年には、米国の日本化懸念から、米長期金利が2%台前半まで低下しました。私は、こうした金利の低下(債券相場の上昇)を債券バブルだと考えております。それが、いよいよはじけたのではないか、と思わせるのが年末にかけての金利上昇です。米長期金利は3.5%近くまで上昇しました。

 ここでの論点は、米国の経済成長率が日本のように下方屈折するのか、それとも一時的に下振れているだけで、元の水準に戻るのかということです。リーマンショック以降、ニューノーマル論という格好で、米国の成長率の下方屈折を唱える人が増えました。特に、日本人はそう考えがちであったと思います。実際、2010年5月から、邦銀は大量に米国債を買いました。彼らは、資産バブルの崩壊→金融危機→経済の長期低迷→デフレという日本が歩んできた道を米国も歩み始めたと考えたのでしょう。ただ、詳しい話は省略しますが、日本の成長率の下方屈折は、単純にバブル崩壊だけで説明できるものではありません。週休二日への移行に伴う労働時間の急減も、成長率の下方屈折を説明する要因として有力です。これは、1990年代の日本には起こりましたが、欧米で同じことは起こりません。

 一方、米国でむしろバブルと呼べるのは2000年に向けてのITバブルでしょう。今とは逆に、ニューエコノミーを多くの人が信じておりました。米国の成長率は上方屈折したと。そのやりすぎの反動が、2000年代の停滞「米国の失われた10年」であり、その陰の極が、2010年の債券バブルでしょう。債券バブルの崩壊は、ITバブル(ニューエコノミー)に始まり、債券バブル(ニューノーマル)に至る、一つの時代の終焉を意味していると思います。この2000年代に米国のインフレ率は、1990年代に比べて1%低下しました。この1%が日本のインフレ率を水面下に押し下げました。今、米国のインフレ率は循環的な意味で底を打ちつつあるように思います。それは、日本のデフレ脱却に向けてポジティブな変化です。

 三番目は、菅政権の支持率低下です。菅政権は、ギリシャ危機を受けてパニックになった偏差値エリートがつくった政権だと考えております。ギリシャの二の舞にならないように、とにかく消費税を上げる。日中戦争を終結させたかったのに、ナチスドイツの快進撃をみて、「バスに乗り遅れるな」と太平洋戦争にのめり込んでいった戦前の過ちを彷彿とさせるような出来事でした。消費税の上げはパニックになって決めるようなものではないでしょう。参院選で菅政権を否定した国民の方が落ち着いていたと言えます。

 もっとも、日本の財政運営がこのままで良いわけではなく、2011年は腰を据えて、社会保障と税制の一体改革に取り組んで頂きたいと思います。「老後の不安を解消するためには、ある程度の負担には応じる」というコンセンサスがあるように見受けられますが、これはもう一度考え直した方が良いでしょう。現在の社会保障制度を前提にするなら、「ある程度」の負担などで済むはずがないからです。社会保障制度の改革を先行せずに、安易に負担で妥協すると、「子泣き爺」を背負うことになりますよ。背負ったら最後、その重みで、将来世代が崩壊します。菅政権の支持率低下は、ある意味で朗報です。もう失うものもないのですから、中高年齢層に既得権を手放すように説得して頂きたいものです。強い社会保障とは、世代内で自立できる社会保障だと再定義して頂きたいと思います。その上で、それに見合った税制を考えてください。

 以上、日本が良くなる三つの兆しは、(1)「賃金本」の活躍、(2)債券バブルの崩壊、(3)菅政権の支持率低下、です。

=== 引用終わり ===

 太字と下線は小生が勝手につけたものです。何度か読んで、北野氏が言う「過去20年間の日米のインフレ率格差(米国対日本)は、ほぼ2.5%で安定しております。」さえ崩れてきているのではないかという疑問も残るのではないかと思いました。「また、もう失うものもないのですから、中高年齢層に既得権を手放すように説得して頂きたいものです。」というのは、残念ながら北野氏の希望で終わりそうな気がします。

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