連合、「脱時間給」容認撤回を決定

 本日の日本経済新聞電子版は、労働組合を束ねている連合が27日午前、札幌市で中央執行委員会を開き、労働基準法改正案に盛る「脱時間給」制度を容認する方針の撤回を決めたことを報じています。傘下の産業別労働組合の強い反発があったためで、連合が政府、経団連との間で調整していた修正案の政労使合意は見送られることになりました。連合の神津里季生会長は、今月13日に安倍晋三首相と首相官邸で会談した際、年104日以上の休日取得を義務化するなどの法案修正を要請した上で、条件付きの容認に傾いていましたが、傘下の産別組織から想定を超す反発の声が上がり、組織をまとめきれないとの判断が働いたとのことです。

 いわゆる「残業代ゼロ制度」は、残業時間上限月間60時間を定める一連の働き方改革の柱の一つである長時間労働の是正とは相反する可能性をはらんだ仕組みなわけですから、労働組合がこれに原則反対の立場をとるのは当然のことともいえます。労働基準法改正案に盛られる「残業代ゼロ制度」は、「高度プロフェッショナル制度」とも呼ばれ、年収や職種など一定の要件を満たす人を労働基準法による労働時間規制から外す仕組みです。年収要件は、労働基準法に基づく厚労省告示で、年収1075万円以上などとするとされており、当面この要件に該当する者は限定的ですが、漸進的に要件が緩和されるのではないかという懸念が残り、危惧されているのだと思われます。また、最近の政治情勢の流動化も今回の連合の撤回決定に微妙に影響を与えた可能性も考えられます。

20170512_高知旅行@高知城



健保組合の財政悪化問題

 平成37年(2025年)までに「大企業の健康保険組合の4分の1は財政悪化で解散の危機に追い込まれる。」という驚くべき記事が7月15日の日経新聞電子版に掲載されておりました。財政悪化の主な要因は、高齢者医療制度に対する支援金の増加です。特に、平成29年度からは、算定方法が加入者の人数に応じて計算する方法から「収入」を基準とする方式「全面総報酬割」に移行したことにより、大企業の健保組合など大幅増となったところが多いようです。健保組合にして見れば、保険料が協会けんぽを上回るような状況で社員の福利厚生のため健保組合を維持してゆくという意味が薄れ、そのまま解散に追い込まれるのは必然の流れともいえます。世界に冠たる国民皆保険制度を維持してゆくために、発想の大転換を図らないといけない時期に来ているのかもしれません。かといって、全ての国民が安心して医療を受けられないのに、自己責任で片付けるようなどこかの国の制度をなぞるような愚かな行為をしてはなりませんが。


=== 日本経済新聞電子版 平成29年7月15日 ===

 健康保険組合連合会(健保連)がまとめたこんな内部試算が明らかになった。高齢者向け医療費を補填するための「支援金」が急増するのが主因だ。保険料率が加速度的に上昇していく恐れが高く、高齢者の負担適正化やムダ排除など医療費抑制の議論が避けて通れない。

 東北地方のある企業は高齢者医療向け支援金の割り当て増で保険料率が中小企業が主に加入する協会けんぽを上回る10%超まで上昇。「健保組合を維持する意味が無い」。これ以上の支援金負担増には耐えられないと判断し、組合を解散して協会けんぽに加入した。

 大企業の健保組合は約1400あり加入者は約2900万人。保険料は企業と従業員が原則、折半している。現役加入者への医療費だけでなく、65歳以上の高齢者医療費にも多額の保険料を「仕送り」する仕組みが財政をむしばんでいる。健保連によると17年度は全組合の7割で収支が赤字の見通しで、赤字額は合計3000億円超に達する見込みだ。健保連が内々にまとめた試算では、25年度に協会けんぽの保険料率以上となる組合は380と全体の4分の1に上る。同料率は協会けんぽが赤字にならないように設定する「収支均衡保険料率」と呼ぶもので、このラインを越えた健保組合は協会けんぽに移ったほうが料率が下がるため、解散の引き金になりやすい。

 試算では、25年度には現役世代向けの支出(給付費)が4兆4200億円と15年度と比べて17%増える一方、支援金の伸びはさらに大きく39%に達する。実額では支援金は4兆5400億円まで膨らみ、この段階で組合員向けの医療費を「仕送り」分が逆転する。加入者の負担は増加の一途だ。保険料率は15年度の平均9%から25年度に同11.8%に急上昇する見通し。健保組合では実際の年収ではなく、国が定めた「標準報酬」という収入額に料率をかけて保険料をはじき出す。年収600万円のモデルケースの場合、保険料の自己負担分だけでもこの間におよそ8万1千円増えることになる。

 医療費の約6割は65歳以上の高齢者が使う。推計では医療費が25年度にかけ年3.7%ずつ増えると仮定。ここ数年の傾向からすると高めの数字だが、伸び率を3.2%とした中位推計でも25年度には支援金が医療費を逆転する。支援金の計算方法は「総報酬割」という仕組みに今年度から全面的に切り替わった。加入者の人数に応じて計算していたが、新方式では算定の基準が「収入」に変わり、収入の高い加入者が多い大企業へのしわ寄せが強まった。すでに出光興産の健保組合が今春に13年ぶりに保険料を引き上げるなど、料率を低めに据え置いてきた組合も軒並み料率を引き上げている。

 協会けんぽには15年度で約1兆3千億円の国庫補助が投入されている。仮に380組合が解散して協会けんぽに合流してくると国の財政負担も1800億円増える計算だ。

=== 転載終わり (下線は浅草社労士) ===

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定額残業手当などの問題整理

 タクシー業界などの時間外手・深夜労働に対する割増賃金の支払い方法は、問題になることがあるようです。東京都社労士会会報7月号の労働判例解説は、国際自動車事件(最高裁第3小法廷判決 平成29年2月28日)を取り上げておりました。この事案では、労働基準法37条の趣旨、割増賃金の算定・支払方法が明示的に判示された点が注目されています。解説を読んだ浅草社労士も、固定残業手当など、変則的な割増賃金の支払いをしている場合の考え方について明確な指針になる判決だったと思い、要点整理をしておくことにしました。しかし、国際自動車の割増賃金及び歩合給を計算する方法というのは、何だかよく分からないものでした。最高裁の判断は、高裁差戻し判決ですので、下記に述べるような基準で違法かどうか高裁で再検討されることになるのでしょう。


(1)労働基準法37条は算定方法まで縛ってはいない

 労働基準法37条とそれを受けた施行規則19条1項は、割増賃金の算定・支払方法について定めていますが、必ずしも法定の算定方法により割増賃金を算出することが義務付けているわけではないと解釈されています。例えば、営業手当を固定残業手当として支払っているとか、基本給、歩合給などの中に割増賃金を含むといったやり方であっても、今回の最高裁判決によれば、必ずしも37条に抵触することにはなりません。判決文によれば、「労働基準法37条等に定められた算定方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、使用者に対し、労働契約における割増賃金お定めを労働基準法37条等に定められた算定方法と同一のものとし、これに基づいて割増賃金を支払うことを義務付けるものとは解されない」 といっています。


(2)変則的な割増賃金の支払いをしている場合の合法性判断基準

 営業手当を固定残業手当として支払っているとか、基本給、歩合給などの中に割増賃金を含むといった変則的な方法を採っている場合、労働基準法37条等の算定方法による額以上の割増賃金が支払われているか否かの判断が重要で、その点についても今回の最高裁判決で、「労働契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で、そのような判別をすることができる場合に、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法37条等に定められた方法により算出した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきであ」ると明示的に述べられています。

 そして、「上記割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算出した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負う」とも述べています。また、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かの裁判所における判断は、仄聞するにより厳しいものになってきているということのようですので、注意が必要です。

(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条  使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
2  前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
3  使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。
4  使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
5  第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。


20170511_高知旅行@龍馬空港