年金受給資格期間の10年短縮法案が今国会で成立か

 社会保障と税の一体改革の一環で、消費税を10%まで引き上げ、この増税による税収増を財源に受給資格期間を10年に短縮することが、平成24年8月に公布された「年金機能強化法」により既に法定されておりました。しかし、本年6月1日に消費税再増税を平成31年10月まで2年半延期することが発表されました。消費税が10%まで上げられないということは、受給資格期間短縮も延期されるということを意味しているはずでした。ところが、安倍晋三首相は、7月参院選の勝利を受けて自民党本部で記者会見した際、デフレ脱却に向け「内需を下支えできる総合的かつ大胆な経済対策を実施したい」と表明すると同時に、年金の受給資格を得るのに必要な保険料の納付期間を来年度から短縮する意向を示していました(年金受給資格を10年に_7月15日)。

 現在開会されている第192回臨時国会において、政府は、年金受給に必要な保険料支払期間を25年から10年に短縮する年金機能強化法改正案を閣議決定し、衆院に提出しました。改正案は、施行日を平成29年(2017年)8月1日としており、26日に開会した臨時国会で成立すれば、平成29年9月分から支給され、最初の受け取りは10月になると考えられます。自分がこれに該当するのではないかという方は今からご自分の年金記録を調査しておくのに早すぎるということはないでしょう。浅草社労士もよろこんでご相談に応じますので、ご照会のお電話、メールをお待ちしております。

=== 読売新聞電子版 9月26日 ===

 政府は26日、年金受給に必要な保険料支払期間を25年から10年に短縮する年金機能強化法改正案を閣議決定し、衆院に提出した。改正案は、施行日を2017年8月1日としており、26日に開会した臨時国会で成立すれば、17年9月分から支給され、最初の受け取りは10月になる。

 厚生労働省によると、改正案の成立・施行で初めて基礎年金(国民年金)を受け取ることができる人は約40万人で、厚生年金も含めると対象者は約64万人の見込み。支給額は、保険料の納付期間が40年で月額6万5008円。納付期間が25年の場合、支給額は同4万630円となり、10年だけ納付したケースでは同1万6252円となる。

 財源は年度途中からの支給となる17年度は約260億円、18年度以降は年度あたり約650億円が必要と推計されている。厚労省は、財源として低所得者向けの「簡素な給付措置」に充てていた予算で対応する方針だ。

=== 転載 終わり (下線は浅草社労士) ===

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豊田自動車の「主査」制度とは

 技術コンサルタントの湯之上隆氏は、かつて世界市場を制覇した日本の半導体産業が衰退した原因を様々な角度から分析し、将来につながる提言をされています。日立製作所の技術者だった湯之上氏は、我が国の半導体産業が衰退した一番の原因が経営能力の欠如に行き着くと考えておられるようです。すなわち、企業が競争に勝てるか負けるかは、正確に経営判断ができる人材がいるかいないか、究極的にはこの点にかかってくるということです。この論点について、現時点で世界一の自動車メーカーをGMやVWなどと争っている豊田自動車との比較で次のように解説しておられました。

 今日半導体産業は、高度に専門的に進化しており、我が国の電氣産業界においても、その道の専門家はいくらでもいて、他国に引けを取ることはないのです。しかし、量産体制の500余りにわたる工程のうち、専門家である技術者はその一部しか知り得ません。設計、プロセス開発、量産の全体像が過不足なく分かっている人材は、日立に限らずどのメーカーを見ても皆無だったということに湯之上氏は氣付いたそうです。この結果、電氣産業では、経営者が半導体の原価、市場、競合他社の動向などがどうなっているか、十分にわかっていない状況のまま経営が行われていたといいます。

 一方、自動車業界はどうかというと、自動車は製品自体が3万点にのぼる部品から成り立つ複雑な工業製品であり、当然半導体産業に見られたのと同じく専門化が進んでいます。しかし、衰退した半導体産業と異なる重要な仕組みが存在すると湯之上氏は指摘しています。それは、細分化され、高度に専門化している自動車生産及び販売の全体を束ねている「主査」という役割の存在です。主査は、車のすべての技術及び部品を把握しているばかりでなく、市場動向、顧客の状況、競合他社動向、原価情報などのすべてに精通し、専門家集団を束ねて彼らを自由自在に操る文字通り司令塔の役割を果たしています。豊田自動車における主査制度は、1953年に当時常務だった豊田英二氏が、戦闘機の開発の方法論を参考に導入した制度と言われています。だとすると、優れた人材育成制度であることは、既に60年以上の歴史によって実証されているとも言えます。 

 どうも豊田自動車という会社は、新人が入社してきたときから、地頭の優れた将来の主査候補を探し出し、戦略的に自動車を開発するために必要な素養の全てを身に着けさせるような経験を積ませ、経営のできる人材を育ててきた長い歴史を持っているようなのです。豊田といえば「改善」で、現場力ばかりが強調されてきたきらいはありますが、「改善」の前段階の生産工程全体を把握ということがしっかりとできており、その過程の司令塔となる個人が将来会社を担う経営者として育ってゆくという仕組みが抜かりなく作られていたことが見えてきます。同時に、「言うは易く、行うは難し」、大企業といえども次世代の経営者を内部で育てていくことがいかに困難であるか、シャープや東芝、同じ自動車産業でも三菱と、ごく最近の出来事を想起するだけで少々食傷氣味になるくらいです。ですが、企業経営にあたる者の会社全体を把握する能力が不足していて、単にある特定専門分野での実績だけという状況で、どうして厳しい国際競争に打ち勝つことができるのでしょうか、普通に考えれば誰でも分かることです。普通のことが普通にできないというのは、我々が解決していかねばならない永遠の課題なのかもしれません。

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社会保険の適用拡大について

1.平成28年改正における社会保険適用拡大とは

 平成28年10月、つまり来月から厚生年金保険及び健康保険の適用に関して、短時間労働者に適用する際の要件が緩和され、被保険者の範囲が拡大します。どういうことかと申しますと、これまで短時間労働者への社会保険の適用要件は、昭和55年(1980年)の取扱基準により、(1)1日又は1週間の労働時間がその事業所の一般社員の所定労働時間の4分の3以上であること、(2)1箇月の労働日数がその事業所の一般社員の所定労働日数の4分の3以上であること、の両方を満たすときとされてきました。今回の改正により、前述の4分の3要件を満たさない短時間労働者であっても、以下の要件を全て満たしている場合には、社会保険に加入することが必須となってきます。

 新5要件
(1)全体で500人超の従業員を有する企業であること(=特定適用事業所)
(2)週当たりの所定労働時間が20時間以上(雇用保険と同期)
(3)勤務期間が1年以上と見込まれること
(4)賃金月額8万8千円以上
(5)昼間学生ではないこと(雇用保険と同期)


2.新5要件の留意点

(1)全体で500人超の従業員を有する企業であること(=特定適用事業所)

 特定適用事業所だった企業が、事業縮小等何らかの理由で被保険者の総数で常時500人超とならなくなった場合、原則として引き続き特定適用事業所であるものとみなして取り扱われます。自動的に特定適用事業所でなくなることはありません。

(3)勤務期間が1年以上と見込まれること

 具体的には、期間の定めなき雇用契約の場合、有期雇用契約で1年以上の期間がの定めがある場合、有期雇用で期間が1年未満であっても契約更新あり又は更新される可能性ありと明示されている場合、又は、客観的に見て1年以上の雇用が見込まれると判断することが相当な場合がこれに当たります。客観的に見て1年以上の雇用が見込まれると判断することが相当な場合とは、同様の有期雇用契約で雇用されている者のほとんどが契約更新されて1年以上雇用されているという実績があるときなどです。また、当初は雇用期間が1年以上になると見込まれなかった者が、その後契約更新等で1年以上と見込まれるように状況が変わったときは、その状況変化の時点(更新契約締結日など)から被保険者となります。

(4)賃金月額8万8千円以上

 月額換算した賃金に諸手当等を含めた報酬が8万8千円以上ということですが、この中に臨時に支払われる賃金、賞与などの1月を超える期間ごとに支払われる賃金、時間外手当、休日労働又は深夜労働手当、通勤手当、家族手当などはふくまれないことになっています。また、8万8千円要件は、月額のみで判定し、年収額が106万円以上であるかどうかは判定基準とはなりません。なお、本要件は、あくまで社会保険適用拡大の要件の一つであり、健康保険の被扶養者となるための要件、すなわち年収130万円未満について、何ら変更を加えるものではありません。

(5)昼間学生ではないこと(雇用保険と同期)

 卒業見込みを前提に卒業前に就職し、そのまま同じ事業所に就業予定の学生、休学中の学生、大学の夜間学部及び高校の夜間定時制課程の者などは、一定の生徒又は学生ではないという(5)の要件を満たしていることになります。


3.複数の事業所で雇用されている場合

 複数の事業所で雇用されている場合、これまでは各事業所で4分の3要件を満たしているか否かで社会保険への加入することの適否を判定してきました。10月からは、複数の事業所のうちに特定適用事業所が一つでも存在し、当該特定適用事業所で新5要件を満たす働き方をしているならば、新たに本人が社会保険に加入することになります。これが2箇所以上の特定適用事業所それぞれに当てはまる場合には、複数の事業所で社会保険に加入することになります。さらに、「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を年金事務所等に提出することになります。この場合、年金事務所等は、各事業所で受けた報酬を合算して標準報酬月額を決定し、それぞれの事業所の標準報酬月額で案分して算出した上の保険料額が各事業所に課せられることになります。

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