政府 長時間労働の歯止めに動き出す

 肉体労働など労働は奴隷に任せるという考え方をとった古代ギリシャは言うに及ばず、どちらかといえば労働は苦役であるという意識が濃厚な欧米社会に対して、我が国では欧米に匹敵するような奴隷制度自体存在せず、労働は美徳という考え方が古くから根付いていたように思われます。とはいえ、日本人の労働時間の長さやデフレ下の労働強化の流れは、一部の会社などでは度を越えているという認識が次第に強くなっているようです。24日の日本経済紙電子版によれば、政府が長時間労働に歯止めをかけるための指導を強めていくこと、具体的には1箇月の残業が100時間に達した場合に行う労働基準監督署の立ち入り調査について、基準を月80時間まで引き下げ、労働基準法違反があれば是正勧告などの措置をとることが報じられています。

=== 日本経済新聞電子版 平成28年3月24日 ===

 (長時間労働に歯止めをかけるための指導強化措置は)、政府が25日に開く一億総活躍国民会議で、長時間労働抑制の具体策として示す。5月にまとめる「ニッポン一億総活躍プラン」の働き方改革の柱の一つとして盛り込み、年内にも指導を強める。20万超の事業所が対象になる見通しだ。 立ち入り調査の対象となるのは、80時間を超える残業をしている従業員が1人でもいると疑われる企業。実際は労基署の監督官の数が限られるため従業員による通報などを通じて悪質な企業を把握し、重点調査する。

 これまでは従業員の残業が月100時間を超えると心臓疾患などのリスクが高まるとの医学的な根拠に基づき企業を立ち入り調査してきた。今後は基準を厳しくし、80時間を超える残業があった企業を立ち入り調査の対象とする。これだけの時間の残業が何カ月も続くと、やはり心臓疾患などにつながるとの見方からだ。調査の結果、違法な時間外労働や残業代の未払いなどの労働基準法違反が見つかった場合は是正勧告し、企業に違反行為を改めるよう求める。違反がなくても勤務時間を極力短くするため労働時間の記録など対策を徹底するよう指導する。法律違反が見つかり、労基署が是正勧告しても改善しない企業は労基法違反で書類送検する。2015年には靴の販売店「ABCマート」を運営するエービーシー・マートが書類送検された例がある。

 15年の労働力調査によると全国の常勤労働者の数は約5000万人。このうち100時間超の残業をしている人は少なくとも約110万人いる。80時間以上の人は約300万人で、今回の指導強化で調査対象となる働き手は2.7倍になる。各労基署の陣容にもよるが、今後立ち入り調査の件数は増える見通し。厚労省によると、全国の労基署による14年の定期的な立ち入り調査は12万9881件。このうち7割で何らかの法違反がみつかった。最も多かったのが違法残業など労働時間に関する違反だ。

 労基法では労働時間を原則1日8時間と定めている。企業が従業員に残業を命じる場合、労働時間の超過理由を事前に明示した「36協定」を労使で結ばなければならない。厚生労働省は協定を結んだ場合でも、残業時間は月45時間までにするよう求めている。ただ「36協定」の特別条項付協定を結べば、月45時間以上の残業は可能だ。専門家からは「労働時間を際限なく延ばすことができてしまう」との声があがっており、指導を強めることにした。法改正による規制強化などは見送る

=== 引用 終わり (カッコ内・太字・下線は浅草社労士) ===

 記事の中にある1箇月当たりの時間外労働時間に関する制限を簡単にまとめておくと、

1.労働基準法  通常の制限:45時間  5割の割増賃金:60時間

2.安全衛生法  医師による面接義務化:100時間  面接努力義務:80時間

3.労働者災害補償保険法  精神障害発病の関連性を直ちに認定:160時間
                   精神障害発病の関連性で「中」程度の負荷:80時間

201603_河津桜@上野公園

プチ鎖国の勧め

 月刊社労士の最新号に「人口減少社会における労働政策の課題」という記事が掲載されておりました。記事の出だしの部分を引用すると「現在の雇用情勢は、着実に改善が進んでおり、昨年12月の完全失業率は3.3%、有効求人倍率は1.27倍となっている。完全失業率は平成9年以来19年ぶり、有効求人倍率は平成4年以来24年ぶりの高い水準となっている。(中略)有効求人倍率が1倍を超えたのは、過去50年間に今回を含めて4回(高度成長期、バブル期、リーマン・ショック前、今回の4回)あるが、過去3回と異なるのは、今回は本格的な人口減少社会になってから初めて初めて迎えた1倍台だということである。」といっています。出ました人口減少社会という感じですが、この論稿では非正規雇用対策や労働力の効率的な移動について論じているのであって、外国人労働者に関しての記述はありません。

 とはいえ、人口減少社会の課題克服のために、昨今決まり文句のように唱和されているのが、グローバル化の推進ということです。その心は、「少子化・高齢化が進行し、人口減少社会が現実のものとなった今、国内市場は縮小していかざるを得ないのであって、企業は世界市場に打ってでなくては成長できない。」ということだろうと推定できます。グローバル化ということの定義は、人それぞれかもしれませんが、要は、「人、物、金、そして情報」の国境を可能な限り低くして、最終的にはなくしてしまおうということでしょう。以下、この順番で論じていきます。

 第一に、「人」です。1国のGDPは、人口と生産性に左右されますから、人口減少社会は、経済・社会にとって、明らかに負の効果をもたらすと考えられます。そこで、安易に外国人労働者の受け入れや移民政策を唱えたがる短慮な人たちが散見されます。労働市場が逼迫しつつある状況で、外国人労働者に関しては経済界が最も前のめりになっている印象を受けます。我が国は、いろいろと問題も指摘されている「外国人実習生制度」によって外国人労働者受け入れの方向に既に1歩踏み出しているといえます。

 しかし、自国民が敬遠する単純労働につかせるため、経済移民政策をこれまで行ってきた欧州で今何が起こっているか、我々日本国民はしっかりと認識しておく必要があります。古来、我が国は、外国人に対して国を全く閉ざしていたわけではありませんが、原則として渡来人は帰化という形で日本人と同化して参りました。ですから、我が国に永住することを決めた人々がいつまでも母国の言葉や風習を維持したまま、国の中に国を作るような動きは、基本的には最近まで皆無だったといってよいと思います。ところが、欧州で起こっている移民問題は、主に単純労働の担い手として流入した経済移民たちが一向に移住先に同化できず、国の中に国をつくってしまっているということから生じる、治安の悪化、社会保障費の増大などのありとあらゆる問題です。そもそも、社会保障制度とは、国民国家における同胞に対する連帯感から、困っている同胞のために税金や社会保障費を負担するのは当然のことだという潜在的な意識によって成り立つ仕組みです。欧州で同胞とはかけ離れた経済移民のために社会保障費を浪費するなと訴える政党が急速にその支持を伸ばしているのは、考えてみれば当たり前のことです。

 さらに、労働政策としての外国人労働者の受け入れは、日本人労働者の賃金を引き下げる最大の要因になってきます。日本人労働者全体の賃金の伸びが、誤った労働政策で抑えられ、結果的に消費の低迷が続けば、日本経済にとって非常にまずいことになります。目先の低賃金労働者を求める経営者にとっては、願ったりかなったりということですが、こういった労働者に日本人労働者に匹敵する技能や高い士気及び倫理観が期待できないことは火を見るより明らかであり、将来に大きな禍根を残す可能性について、経営者たるもの吟味しておく必要があります。

 第二に、「物」ですが、経済効率性を追求しすぎるあまり、安全保障についての配慮が忘れ去られてしまっては、やはり将来に禍根を残すといわざるを得ません。安全保障に直接的につながる産業は、政府が介入して保護するべきでしょう。農業、医療、通信、電力産業などは、その代表格といえます。物及びサーヴィスの広範な分野について、関税をなしにすることを目指すTPPは、国家の安全保障にとって、非常に危険な多国間協定であり、こういった動きに対しては、踏みとどまって静観するというのが正しい姿勢のように思われます。

 第三に、「金」、すなわち「金融」、「投資」のグローバル化の問題です。これも安全保障の問題が関係してくるかと思われますが、極端な例を挙げると、我が国を代表する大手銀行や家電産業が外資に買われてしまって、外国人投資家の利益最大化を最優先に業務が遂行されるようなことになったら、どのようなことが予想されるでしょうか。地場の大手銀行が外資に買収される事態は、亜細亜の国々ではすでに起こっていることですし、家電産業については、我が国でも既に起こっているのです。松下幸之助が唱えたパナソニックの綱領には「産業人たるの本分に徹し、社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与せんことを期す」とあります。また、出光佐三の出光興産は、経営の原点として「出光は、創業以来、『人間尊重』という考えを事業を通じて実践し、広く社会で期待され信頼される企業となることをめざしています。」とあります。日本企業が曲がりなりにも持ち続けてきた企業経営における崇高な理念は、企業をあたかも「物」のように売買するグローバル社会の中で維持していけるものなのか、大いなる疑問符を付けざるを得ないのです。

 さらに、戦後一貫して我が国が世界平和の本尊として崇め奉ってきた国連の実態がいかなるものであったのか、ここ数年かなり白日の下にさらされてきています。今年になって出された国連女子差別撤廃委員会の最終見解などは、日韓合意を「被害者を中心に据えたアプローチを採用していない」などと批判し、元慰安婦への金銭賠償や公式謝罪を含む「完全かつ効果的な賠償」を求めるなど、ひどいものであったばかりでなく、我が国の皇室の在り方についてまで内政干渉する意図さえあった非常識極まりない内容が草案段階で存在したことが明らかになっています。

 以上のような点を認識致せば、我が国の進むべき道は、いまだに喧しく唱えられるグローバル化、世界市場に打って出るなどといったものでは決してないことがわかります。そもそも、「世界市場に打って出る」、「亜細亜の成長を取り込む」とは、他国の成長を横から分け入って奪い取るといった発想が見え隠れする卑しいものである可能性すらあります。我が国の取るべき道は、世界情勢に関する情報はしっかりと入手分析できる体制を整えた上で、人、物、金の動きはしっかりと制御するプチ鎖国なのではないかと管見をめぐらす昨今です。

201603_河津桜@上野公園

トヨタ自動車カンパニー制へ移行

 以前に取り上げた豊田自動車がカンパニー制へ移行についての詳しい記事が今朝の日本経済新聞電子版に掲載されておりました。会社を「小型車」、「高級車」など車のタイプに基づくBusiness Unit(BU)に敢えて分離し、各BUごとに社長をおいて経営を任せるというカンパニー制の導入は、生え抜きで経営能力のある人材を育成していく仕組み作りがその真の目的であろうと思われます。しかし、各BUの社長には原則、専務役員を充てるというのはかなり保守的な印象を受けますし、また、人事、経理、調達などは共通部門として本社に残すようです。トヨタ流の漸進的なやり方で大きな改革を成し遂げようということかもしれません。また、一見、本社社長の負担軽減のようにも思えるカンパニー制ですが、この仕組みが上手く機能するためには、経営トップである社長の器と制度を定着させるまでの指導力が成否を左右する仕組みでもあります。かつてのSONYなど、中途半端なカンパニー制を採用して失敗した事例もあります。豊田自動車は手堅く、確実に、必要な改革にハンドルを切るが、決して急ハンドルは切らないということなのでしょう。

=== 日本経済新聞電子版 平成28年3月3日 ===

 トヨタ自動車は2日、社内カンパニー制を4月に導入すると発表した。「小型車」「高級車」など車のタイプに基づくカンパニーを設け、各カンパニーのトップが製品企画から生産まで責任を負う。意思決定のスピードを速めながら次世代の経営者を育てる狙い。プレジデント(社長)を「量産」し、ポスト1000万台時代の持続的な成長につなげる。

 4月18日付の組織改正で「製品企画」や「車両系生産技術・製造」など機能別の本部を解消し、小型車、乗用車、CV(商用車・ミニバン)の3カンパニーに再編する。レクサスは既に移行しており、トヨタの全車両の企画から生産までを4カンパニーが担当する。

 先進技術開発など3分野もそれぞれ新設・改組するカンパニーが担う。2013年に設けた「第1トヨタ」(先進国)「第2トヨタ」(新興国)は営業組織として存続。プレジデントを頂点とする9つの組織が主要な事業領域をカバーする。

 プレジデントには原則、専務役員を充て「経営者」として経験を積ませる。商用車カンパニーのプレジデントに就く増井敬二専務役員は生産子会社のトヨタ車体の社長を兼ねるなどグループ一体運営を目指す。副社長は2人減の4人とし1992年以降で最少となる。

 自動車業界では年間販売台数「1000万台の壁」が指摘される。米ゼネラル・モーターズ(GM)は大台を目指していた2009年に経営破綻。独フォルクスワーゲン(VW)はディーゼル車の排ガス不正問題を起こした。2年続けて達成したトヨタも「強固な機能別組織は当社の強みだったが最近は調整に時間がかかる」(幹部)。組織の規模を小さくし、問題の解消を目指す。課題もある。新組織についてある取引先幹部は「窓口が4つに分かれたら手間が増す」と指摘する。地域が軸の大規模再編から3年での見直しに「組織に手を入れると内向きにエネルギーを使う」(グループ会社首脳)と否定的な声もある。豊田章男社長は「組織再編そのものが解決策ではなく仕事の進め方を変えるきっかけ」という。社内カンパニー制導入で各カンパニーが部分最適を求めたり、かえって社内調整が増えたりした例もある。問題の芽を摘みつつ新たな成長モデル構築が求められる。

=== 転載 終わり (下線は浅草社労士) ===