第186通常国会で成立した法律

1.第186通常国会で成立した法律案

 今月閉会した第186通常国会で成立した労務管理及び社会保険関係の法律案は、以下のとおりです。

(1)雇用保険法改正案

(2)パート労働法改正案

(3)次世代育成法改正案

(4)労働安全衛生法改正案

(5)過労死防止推進法案
 議員立法


2.第186通常国会で成立しなかった法律案

 また、成立しなかった労務管理及び社会保険関係の法律案は、次のようなものでした。

(1)労働者派遣法改正案 → 廃案
 再提出されることになるだろうと予想されています。

(2)有期労働特別措置法案 → 継続審議

(3)社会保険労務士法 → 継続審議
 議員立法
 特定社労士が個別労働紛争において単独で当事者を代理することができる紛争の目的価額を現行の60万円から120万円に引き上げるほか、裁判所において弁護士とともに出頭し補佐人として陳述できるようにするという内容が含まれていました。

厚生年金基金に関する改正点_2

  以前の記事で「平成25年6月に可決成立した『公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律』の施行により、これまで我が国の企業年金制度の中枢を担ってきた厚生年金基金も、原則廃止の方向に動き出しています。」と書きました(厚生年金基金に関する改正点_2014年4月15日)。今回は、以前の記事で触れられなかった基金が解散した場合に起こると予想されることや企業年金連合会が果たしている役割について、簡単にまとめておきます。


1.厚生年金基金が消滅する3つの場合

 厚生年金基金制度(以下「厚年基金」という)が廃止の方向に動き出しておりますが、厚年基金が消滅するときの型は、大きく分けて2つに、2番目をさらに2つに分けて、全体で3つあると整理しておくと分かりやすいようです。

(1)一番目は、代行返上と呼ばれるものです。この型は、国から預かっている代行部分を国に返還し、加算部分及びプラスα部分など上乗せ部分は残して、確定給付年金(DB)などの企業年金に承継させることが義務付けられています。大企業では既に代行返上を実施し、新しい企業年金制度に移換したところが今日では大多数を占めるようになっています。
20140622_企業年金連合会と代行返上(改正)

(2)次に考えられる型は、厚年基金の解散です。厚年基金が解散すると、これまでは企業年金連合会に移換されることになっていました。企業年金連合会の目的は、中途脱退者の記録及び解散基金の記録をまとめて、受給権者が老齢年金の受給資格を取得したときに、一元的に管理している記録を基に受給権者にまとめて基金支給分の年金を支給することでした。しかし、今年4月から、代行部分に関しては全て国に返済することとなりましたので、企業年金連合会が取り扱うのは、加算部分及びプラスα部分など上乗せ部分だけになってゆきます(厚生年金基金からの年金支給義務の引継)。
20140622_企業年金連合会と解散(改正)

(3)三番目は、(2)の派生系です。すなわち、一旦解散し、残った年金資産を企業年金連合会には移換せず、この資産を元手に新たな企業年金制度を構築するというものです。

 ところで、厚生年金基金及び企業年金連合会について定めた条文は、厚生年金保険法からは既に削除されており、平成25年6月26日の附則によって、「旧厚生年金基金であってこの法律の施行の際現に存するものは、施行日以後も、改正前厚生年金保険法の規定により設立された厚生年金基金としてなお存続するものとする。(附則4条)」として基金の存続が担保されています。また、同附則2条においては、「政府は、この法律の施行の日(以下「施行日」という。)から起算して十年を経過する日までに、存続厚生年金基金が解散し又は他の企業年金制度等に移行し、及び存続連合会が解散するよう検討し、速やかに必要な法制上の措置を講ずるものとする。 2項 政府は、この法律の施行後5年を目途として、この法律の施行の状況を勘案し、この法律により改正された国民年金法の規定に基づく規制の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」として、厚生年金基金及び企業年金連合会についての原則廃止の方針が確認されています。


2.企業年金連合会の行方

 現在企業年金連合会に関する条文は、確定給付企業年金法の第11章に設置されています。企業年金連合会のHPによれば、「『公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律』(平成25年法律第63号。以下「改正法」といいます。)が平成26年4月1日に施行されました。改正法施行後(平成26年4月1日以後)についても、企業年金連合会は、存続連合会として存続しますが、確定給付企業年金法に基づく新たな企業年金連合会(新連合会)が設立されたときに存続連合会は解散することとなります。なお、現段階では、新連合会の設立(=存続連合会の解散)の時期は未定ですが、改正法施行後であっても存続連合会が解散するまでの間につきましては、年金の取扱いに変更はありません。」(企業年金連合会が法律改正の施行前(平成26年3月31日まで)に引き継いでいる年金の取扱いについて)となっています。


3.厚年基金制度消滅の影響

 厚年基金は、基金冥利ともいえる受給権者には恩恵のある制度です。厚年基金制度が廃止されると次のような恩恵が消滅するものと思われます(厚生年金基金の代行部分とは何か_2012年6月3日)。

 第一に、基金は加入期間が1箇月以上あれば、基金が担当する基本部分についての支給を行っています。しかし、厚生年金本体では加入期間が25年以上ないと老齢年金を受給する資格がないので、公的年金の加入期間が25年に充たない者などは、原則的に年金の受給権を失ってしまいます。

 第二に、一般的な厚生年金基金では、60歳から65歳までの特別支給の老齢厚生年金について、在老の調整が比較的ゆるく運用されてきたといわれています。この部分は、「支給要件緩和によるプラスアルファー給付」と言われているものですが、各厚生年金基金の規約によってまちまちのようで、支給停止に全く手をつけないような基金は少数派で、少なくとも加入員である間は国同様の調整がかかるというものが最も多いようです。ただし、国の厚生年金からの支給と全く同様の調整をかけている基金も少数派のようです。

 第三に、国からの障害年金又は遺族年金に係る給付との調整は行われず、併給とされているようです。ただし、雇用保険の基本給付及び高年齢雇用継続給付との調整は、きっちりと行う基金が多いようです。

マクロ経済スライドを見直すという記事について

 昨日、6月17日の日経新聞に「公的年金、15年度から給付抑制 物価下落でも減額」という記事が掲載されておりました。読んでみても、やや意味不明な記事です。要は、決定済みですが未だ実施されていないマクロ経済スライドという年金額決定方式を一段と年金受給者にとって厳しいものにするということのようです。

=== 日経新聞電子版 6月17日 ===

 厚生労働省は公的年金の給付水準を物価動向にかかわらず毎年度抑制する仕組みを2015年度に導入する方針だ。いまの制度では物価の上昇率が低い場合は給付を十分抑制できないが、少子高齢化の進展に合わせて必ず給付を抑える。すでに年金を受給している高齢者にも負担を分かち合ってもらい、年金制度の持続性を高める。

 少子高齢化にあわせて毎年の年金給付額を抑えるマクロ経済スライドと呼ぶ制度を見直す。15年の通常国会への関連法案提出を目指す。現在のルールではデフレ下では年金を削減できず、物価の伸びが低い場合も、前年度の支給水準を割り込む水準まで減らすことはできない。年金は物価水準に連動して毎年度の給付水準が調整されるが、物価下落以外の理由で名目ベースの年金額が前年度より目減りすることを避けているためだ。

 今後は物価や賃金の動向に関係なく、名目で減額になる場合でも毎年度0.9%分を削減する方針だ。この削減率は平均余命の伸びや現役世代の加入者の減少率からはじくので、将来さらに拡大する可能性もある。改革後は、例えば物価の伸びが0.5%にとどまった場合、翌年度の年金は物価上昇率から削減率0.9%を差し引き、前年度より0.4%少ない額を支給する。物価がマイナス0.2%のデフレ状況なら、翌年度の年金は1.1%減る。

 マクロ経済スライドは04年の年金制度改革で導入した。15年度は消費増税の影響で物価が大幅に上昇しているので、現行制度のままでも年金は抑制される。ただ、将来デフレや物価上昇率が低くなった局面では給付を抑えられないので、今のうちに改革を急ぐ方針だ。
(以下省略)
20140617_年金抑制の仕組(日経電子版)
=== 引用終わり ===

 「厚生労働省は公的年金の給付水準を物価動向にかかわらず毎年度抑制する仕組みを2015年度に導入する方針だ。いまの制度では物価の上昇率が低い場合は給付を十分抑制できないが、少子高齢化の進展に合わせて必ず給付を抑える。」という記述ですが、2013年10月及び2014年4月に実施され、さらに2015年4月に予定される年金額特例水準の引下げ実施で、平成12年から14年の景気後退期に生じた-1.7%の物価下落がその後の物価上昇によって相殺されるまで、マクロ経済スライドを含む原則的な年金額の改定方法の実施を延期することとされていた暫定措置的状況が解消されます。

 つまり、2015年に本来の年金給付額の決定に使うと一旦決められたマクロ経済スライドが例外的な状況下でその実施が停止されていましたが、その例外的な状況が解消されたため、本来の決定方法がいよいよ実施されるということをいっているようにも読める(特例水準の年金額解消の先にあるもの_2013年10月17日)のですが、どうもそれだけにとどまらないということのようなのです。これまで実施されてこなかったマクロ経済スライドが実施されるのではなく、「マクロ経済スライドと呼ぶ制度を見直す。15年の通常国会への関連法案提出を目指す。」という下りです。

 さらに、「現在のルールではデフレ下では年金を削減できず、物価の伸びが低い場合も、前年度の支給水準を割り込む水準まで減らすことはできない。年金は物価水準に連動して毎年度の給付水準が調整されるが、物価下落以外の理由で名目ベースの年金額が前年度より目減りすることを避けているためだ。」と書かれておりますが、これは事実と異なります。ここ数年、昨年10月及び本年4月の特例水準の年金額解消のための引下げ以外に前年の消費者物価の下落にほぼ連動して年金の引下げが実施されています。マクロ経済スライドは、この消費者物価及び名目賃金の動きに加えて、労働力人口(被保険者数)の減少及び平均余命の伸びをも考慮に入れて、平成35年度末まで年金額の上昇を抑制するという代物です。つまり、賃金及び物価の上昇率(まともに経済成長している国では普通毎年上昇するものなので)を労働力人口の減少及び平均余命の伸びで値切る仕組みですから、これが実施される運びとなれば、自然に年金支給額は抑制されることになり、年金受給者にとっては厳しい仕組みです。

 「今後は物価や賃金の動向に関係なく、名目で減額になる場合でも毎年度0.9%分を削減する方針だ。」という記述から、今後マクロ経済スライドを適用すると毎年度これくらいの厳しい負の下駄が履かせられ、これを厳格に適用するということのようです。しかし、マクロ経済スライドの実施は、「平成35年度末まで」の時限措置ということが今のところの決定事項なのですが、-0.9%の下駄は、現役世代の賃金の50%前後若しくは下回る程度まで実施されることになるのでしょうか。世代間格差の解消は重要な課題と認識しているものですが、こんなことをすれば、さすがに公的年金制度自体の存在意義が問われることになると思います。

いわゆる「残業代ゼロ制度」、識者の見解

 いわゆる「残業代ゼロ制度」(=成果だけに応じた給与制度=スマートワーク構想)について、様々な意見が聞かれるようになっております。リベラル系経済評論家の1人と目される森永卓郎氏が、制度に対する反対意見をラジオで述べられていたので、紹介します。

 森永氏は、労働時間に対して賃金を支払う現行制度にも、その例外として、裁量労働制やフレックス制が既に存在することを指摘した上で、今回の導入時には年収1千万円を超えるような高度の専門職に限るなど相当に制限的な労働規制緩和だとしても、制度導入の真の狙いは、合法的に残業代を払わない制度を導入し、時間無制限で労働させることを可能にすることにあると見ています。

 そのように制度導入に関して疑いを持って見ている理由は、派遣労働者制度の導入とその規制緩和方向への改正の歴史を見ているからです。すなわち、労働者派遣制度は、当初、例えば同時通訳などの高度な専門職に限るとして導入されました。これが1986年のことです。しかし、1999年には、労働者派遣は原則自由化され、一部の業務について例外的に禁止されるという形に規制緩和されました。それでも、製造業については、派遣労働者を使用することが禁止されていましたが、2004年に小泉政権下、製造業への労働者派遣が解禁されてしまいます。森永氏は、残業代ゼロ制度も労働者派遣法と同じような運命をたどるのではないかと危惧されているのです。制度に転換するためには、労使の合意及び本人の同意が必要という要件も、結局は使用者側の意向が通るのではないかと見ておられるようです。

 森永氏によれば、現在、先進国の中で比較的長時間労働をしているのは、我が国を除くと英米の2箇国であり、米国の制度であるWhite Collar Exemptionが手本になっているのではないかとの見解を述べています。そして、このような成果のみで賃金を決定する方式を採用すると、その成果を評価する上司が相当に強い権限を握るようになり、結局米国で起きていることは、徹底した成果給賃金の会社において、現象的には次の3者だけが高い賃金を得られるようになるというのです。

(1)上司に上手く取り入る人
(2)同僚の足を引張るのが上手い人
(3)同僚の手柄を横取りするのが上手い人

 成果主義の悪いところに焦点を当てすぎていて、少々極端な見方のような氣もします。しかし、確かにWall Streetなどでは、直属の上司の権限が絶大な感じで、この点は我が国など比較にならないということは事実のようです。残業代ゼロ制度については、しばらくの間様々な賛否両論の意見が出されると思われます。ただ、時間によらない柔軟で時代の変化に即した制度を導入したいというならば、まず、既存の裁量労働制を試してみて、もし使えないならば、その原因を洗い出し、本当に改善すべき変更点が存在するならば、改正案を出して行くというような地に足の着いた方法論を採るのが筋ではないかと思うのです。

財政検証結果発表とGPIF運用見直し

 5年に1度の財政検証の結果について記事(「財政検証の報道を受けて」)を投稿しましたが、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の基本ポートフォリオを見直しを早めるという報道が流れておりました。財政検証の結果公表を受けてのことと思われます。

=== Reuter 6月6日 ===

安倍首相、GPIF運用見直しの「前倒し指示」=政府筋

 安倍晋三首相が年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の資産運用見直しを前倒しするよう田村憲久厚生労働相に指示していたことがわかった。政府筋が明らかにした。これまでは年末に構成割合を決める方向だったが、今秋までを想定し、資産130兆円の「脱国債」に向けた姿を描く

 田村厚労相が6日の閣議後会見で明らかにする。厚労省が3日の社会保障審議会年金部会で示した公的年金の財政検証では、現役世代の手取り収入に対する厚生年金の給付水準(所得代替率)は次の検証時期となる2019年度までは目安の50%を維持できる見通し。

 これは賃金上昇率に最大1.7%を加えた運用利回りを確保すれば対応できる前提になっており、GPIFはこれらを踏まえて比率見直しの検討作業を急ぐ。

=== 引用終わり(下線及び太字は筆者) ===

 これは、大方の金融市場関係者の受止め方を踏襲した内容で、既に織り込まれつつあったことを公式に確認したということのようです。現在の公的年金制度を維持していくために考えなければならないことは、第一に持続的な経済成長を実現することですが、年金の元手として積み立てている年金資産の運用力を高めることも重要です。この点について、今回の財政検証の結果を踏まえ、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が資産構成比率が定められた基本ポートフォリオを見直すことは絶対に必要というコンセンサスができたということなのでしょう。

 現行では、国内債60%、国内株12%、外債11%、外株12%、短期資産5%となっています。ただし、アベノミクスによる株価の上昇及び米国株の好調等で、2013年末時点の実勢は国内債が55.2%と06年度の設立以降で最低となる一方、国内株は17.2%と07年12月末以来の高水準を記録、外債は10.6%、外株は15.2%という比率になっていました。安倍総理はデフレからの脱却を経済政策の第一の目標と明言し、日本銀行の黒田東彦総裁が2%の物価目標を掲げる中、国内債の大量保有は金利上昇で評価損を被る恐れのあることから、その比率引下げと収益向上のためのリスク資産の拡大を検討することは、我が国の経済政策とも方向性合致する筋の通った議論ということがいえます。