請求権者がいない場合の未支給年金の帰属先

 未支給年金については、以前の記事でも論じました(未支給年金の問題-その1-_2011年8月5日)。その際、国民年金及び厚生年金保険の未支給年金の請求というのは、請求権者が自己の固有の権利として請求するものであり、死亡した受給権者に係る相続税の課税対象にはならないと述べましたが、このことに関連して、次のような事例を考察してみたいと思います。

 老齢基礎年金及び老齢厚生年金の受給権者Aは、今月4月5日に亡くなったとします。生計を同じくする3親等以内の親族はいないが、相続人がいるという場合、故人Aの年金はどうなるのかという問題です。もう少し掘り下げると、Aの年金は、2月分及び3月分の支分権が存命中のそれぞれの月に確定し、これらの支給が4月半ばの後払いであるという理由で、死亡後に支給日が到来するという場合の取扱いです。さらに年金は、死亡月の支分権まで発生していますので、4月分の年金も権利が発生しているものと考えられます。もし、生計を同じくする3親等以内の親族が存在すれば、死亡届を提出すると同時に2月、3月及び4月の未支給年金の請求を行うことになりますが、生計を同じくする3親等以内の親族がいないので、2月、3月及び4月の未支給年金が支給されないことになります。2月及び3月分については、観念的というか民法的には、権利が発生していますので、一旦Aの口座に振り込まれて、相続財産として処理するという考え方は採りません。

 民法的に考えると、既にA存命中に確定している権利が単に支給日未到来という理由で支払われないというのは、筋の通らない話のように感じられます。おそらく、相続の概念からはずされた未支給年金という制度を敢えて創設していることの反射効として、そのような結論にならざるを得ないということなのでしょう。従って、2月分及び3月分の年金が故人の口座が閉鎖される前に支払われてしまった場合、既に年金を受給する権利を失った故人に対する支給となりますから、過払いの年金を返還する手続が行われることになります。

 それでは、Aが亡くなったのが4月5日ではなく、20日だったとするとどうなるでしょうか? この場合には、2月分及び3月分の年金が支給される4月15日には、存命であったわけですから、問題なく年金はAが受給して完結しています。未支給年金となるのは4月分だけでよいことになります。

 なお、未支給年金の請求権者は、平成26年4月から次のように改正され、請求権者の範囲に子の配偶者、伯父(叔父)伯母(叔父)、甥姪なども含まれるようになりました。

 従来(優先順位順):配偶者 → 子 → 父母 → 孫 → 祖父母 → 兄弟姉妹 (優先順位順)

 改正後:配偶者 → 子 → 父母 → 孫 → 祖父母 → 兄弟姉妹 → その他の3親等内の親族 (優先順位順)

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経過的加算のからくり

1.合算対象期間のからくり

 俗に「カラ(=空)期間」と呼ばれている「合算対象期間」ですが、代表的なものとして「昭和36年4月1日から平成3年3月31日までの20歳以上の学生であった期間のうち、国民年金に任意加入しなかった期間」、「昭和36年4月1日から昭和61年3月31日までの被用者年金加入者に扶養される20歳以上60歳未満の配偶者であった期間のうち、国民年金に任意加入しなかった期間」、及び「昭和36年4月1日から日本国籍を有する20歳以上60歳未満の者が海外に居住していて非居住者であった期間」などが挙げられます。

 この4月からの年金の受給資格の判定に重要な影響を及ぼす改正点の一つが、上記の期間のうち国民年金に任意で加入できる期間がある場合で、任意で加入した上で未納期間があるとき、合算対象期間として受給資格期間に算入できることになりました(平成26年4月からの年金制度改正点等_3月10日)。これまでは、「任意で加入したのにもかかわらず被保険者が保険料を納付しなかった期間については、未納期間であるから合算対象期間には含めない」という理屈だったのです。

 ところで、この合算対象期間を勉強していると、「第2号被保険者としての被保険者期間のうち、20歳前の期間及び60歳以後の期間」又は「厚生年金保険(船員保険)の被保険者期間のうち昭和36年4月1日以後の期間で20歳前の期間及び60歳以後の期間」(共済組合の組合員等期間も同様)というのが出てきます。これらが年金額の算定の対象にならない単なる資格期間である合算対象期間とは、一体どういう意味なのか、首をかしげる方も多いかと思われます。


2.経過的加算のからくり

 その意味が明確に分かったのは、数年前に年金特別アドヴァイザーの仕事をするようになってからのことです。ここで、このからくりを理解するためには、いくつかの前提条件を明確に意識しておく必要があります。

(1)何といっても合算対象期間とは、あくまでも国民年金の話であるということ、従って、対象期間は20歳以上60歳未満の期間ということが原則であり、大前提です。

(2)ここから、国民年金(基礎年金)の満額は20歳から60歳までの40年間という上限があり、個別の年金額は原則として20歳から60歳までの間の納付期間を40年間(480月)で除し、その数値を満額に乗じて求めることになります。

(3)国民年金とは別系統の厚生年金保険では、加入期間は20歳前にも存在し、60歳以後70歳まであります。ただし、厚生年金の被保険者が2号被保険者となるのは、20歳前の期間から開始しますが、上限は原則として65歳までです。その理由は、国民年金において被保険者であると同時に年金受給者とはなり得ないからです。

(4)厚生年金保険の構成要素には、定額部分と報酬比例部分があり、定額部分には40年(480月)という上限が設定されています。また、20歳から60歳までの期間で定額部分に相当する保険料は、大部分基礎年金に流用されます。

 こうした大前提から必然的に導かれる「経過的加算」に関する結論は、次のようになります。

(1)大卒者の場合、60歳で定年退職して以後、厚生年金保険に係る会社等で働かなかったとき、基礎年金は大学時代に納付又は卒業後追納した分及び厚生年金保険の保険料を納付した期間の分ですが、厚生年金定額部分の年金額は、基礎年金の計算の方法と若干異なり、1箇月当たり1円程度大目に差額が生じるので、厚生年金保険の保険料を納付した期間についてはこの差額が「経過的加算」となり、厚生年金保険の年金額を構成する一部になります。

(2)高卒者及び大卒者でも60歳到達以後も厚生年金被保険者であった場合、当然のことながら、1で触れた合算対象期間が発生します。しかし、20歳から60歳までの期間は基礎年金に流用されると書きました。そうすると、高卒者の場合が分かりやすいのですが、18歳から60歳まで途切れなく同じ会社で働き、厚生年金保険の被保険者として保険料を納めているとき、20歳から60歳までの保険料は、基礎年金を構成する要素となり、月当たり1円程度の定額部分と基礎年金との差額が「経過的加算」となります。18歳から20歳前までの厚生年金被保険者としての定額部分はどうなるのかというと、残念ながら定額部分の上限は480月ですので、20歳から60歳の基礎年金に流用された部分で既に上限に達していると考えるのです。

(3)それでは、大卒者が65歳まで厚生年金保険の被保険者であった場合はどうなるかです。この大卒者は、23歳到達で初めて厚生年金保険の被保険者となり、大学時代は国民年金の学生特例を利用して保険料を納付していなかったと仮定します。そうするとこの人の基礎年金は、厚生年金保険38年間分で支給されるはずです。また基礎年金は全て厚生年金保険料によりまかなわれていますので、この期間の月当たり1円程度の定額部分と基礎年金との差額が「経過的加算」となります。さらに、60歳から62歳までの3年間分の定額部分が「経過的加算」に加えられます。なぜなら、この人の厚生年金定額部分は、基礎年金に流用されるのが23歳から60歳までの37年間にすぎず、定額部分の上限に達するまでの3年分が残っているからです。

 ここから分かるとおり、合算対象期間とされる「第2号被保険者としての被保険者期間のうち、20歳前の期間及び60歳以後の期間」又は「厚生年金保険(船員保険)の被保険者期間のうち昭和36年4月1日以後の期間で20歳前の期間及び60歳以後の期間」(共済組合の組合員等期間も同様)は、国民年金の納付期間としての基礎年金の支給対象期間にはなりませんが、基礎年金とは別口で480月の上限が設定されているものの厚生年金として支給の対象になっているということです(国民年金の被保険者の種類と年金額_2010年10月30日)。ただし、480月という上限がありますので、それを超えた期間については報酬比例部分のみ増えていく程度になってしまいます。

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厚生年金基金に関する改正点

 平成25年6月に可決成立した「公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」の施行により、これまで我が国の企業年金制度の中枢を担ってきた厚生年金基金も、原則廃止の方向に動き出しています。同法の施行による厚生年金基金制度の主な改正点をまとめておきます。


1.基金新設を平成26年4月以降認めない

 基金新設を認めないことに加え、基金の解散又は中途脱退による代行部分の企業年金連合会への移換も停止されます。従って、今後基金から企業年金連合会へ移換できるのは、加算部分及びプラスアルファー部分だけということになります

厚生年金保険法159条は、1項及び2項で企業年金連合会の業務につき、次のように定めています。

1.連合会は、第160条第5項の規定により老齢年金給付の支給に関する義務を承継している中途脱退者及び解散基金加入員に対し老齢年金給付の支給を行うほか、第160条の2第3項及び第161条第5項の規定により一時金たる給付の支給を行うものとする。
2.連合会は、前項に規定する業務のほか、第147条第4項に規定する残余財産の交付を受け、同項に規定する者について、死亡又は障害を支給理由とする年金たる給付又は一時金たる給付を行うことができる。



2.施行日から5年間の特例措置

 代行割れとなっている基金が厚生労働大臣に対する自主的な申出により解散する「特例解散制度」について、解散申請を施行日から5年以内に行うことを条件に、次のような特例措置が実施されています。

(1)事業所間の連帯債務を負わせることなく、各事業所ごとに債務を確定する分割納付の特例を実施します。この際、利息を固定金利とし、納付期間を最長15年から30年に延長します。

(2)代行割れが見込まれ、自主的に基金解散の申請を行った場合、厚生労働大臣は、基金が事業運営について相当の努力をしたものとして政令で定める要件を満たすときに、社会保障審議会の意見を聴いた上、基金の解散を認可します。この特例解散が認可されると、納付額の最低準備金は、「平成11年9月までは5.5%、平成11年10月以降は厚生年金本体の実績利回りを付利」又は「基金設立時から厚生年金本体の実績利回りを付利」して計算した額のいずれか低い方とします。

(3)解散認可基準について、母体企業の経営悪化等の事由要件を撤廃した上で、代議員の定数の4分の3による議決から3分の2による議決へ緩和されます。

(4)「毎事業年度の決算における純資産額が最低責任準備金に政令で定める率を乗じて得た額を下回る」又は「事業継続が著しく困難なものとして政令で定める要件を満たす」場合には、社会保障審議会の意見を聴いて「清算型基金」に指定します。この指定を受けた基金は、解散に必要な業務が完了するまでの「清算計画」を提出し、承認を受けると議決要件に係らず解散することになります。


3.施行日から5年間経過後の措置

(1)毎年度の決算における純資産額が「最低責任準備金の1.5倍未満」かつ「決算までの加入期間に見合う代行部分及び上乗せ部分の債務(非継続基準による要積立額)未満」の基金については、厚生労働大臣が事業継続困難とみなし、第三者委員会の意見を聴いた上で解散命令を発動できるとしています。

(2)上乗せ資産を確定給付企業年金(DB)へ移行する場合、移行後の積立不足を掛金で埋めることができる期間を延長するとしています。また、解散後、事業所単位で既存の確定給付企業年金(DB)へ移行できる仕組みが創設されます。

(3)上乗せ資産を確定拠出年金(DC)へ移行する場合、厚生年金基金を脱退した事業所の従業員が厚生年金基金から既存の確定拠出年金(DC)へ資産を移換できるようにするとしています。また、解散後、確定拠出年金(DC)へ移行する場合の積立基準が緩和されます。

(4)確定給付企業年金(DB)等の仕組みを活用する場合、退職金についての積立基準の規制を緩和します。

(5)厚生年金基金解散後、事業所単位で中退共へ移行できる仕組みが創設されます。

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    (出典:企業年金連合会HP)
 

平成26年度年金制度改正についての雑感(1)

 平成26年4月は、後から振り返ると我が国の歴史に刻まれる「時」になるのかもしれません。何といっても消費税増税がその全ての要因といってよいと思いますが、消費税の引上げが「税と社会保障の一体改革」という建前の下に断行されたため、社会保障の重要な一角を占める年金制度も、この4月から相当大きく変更されています。

 東京都社会保険労務士会の発行する会報の4月号に、年金制度に詳しい三宅明彦先生が「平成26年度年金制度改正のポイント」と題して寄稿されておられたのを拝読しました。その中で、既に世間でも大分知れ渡ってきたと思われる「遺族基礎年金の父子家庭への支給拡大」について書かれたところは特に興味をひきます。

 遺族基礎年金の受給要件については、これまでも記事で何度か触れていますが(遺族基礎年金及び遺族厚生年金の基礎遺族基礎年金の受給権者)、簡単に復習すると、「夫が死亡した場合に残された遺族が18歳到達年度末日未到達の子(夫の実子又は養子)のある妻又は18歳到達年度末日未到達の子(夫の実子又は養子)であって、夫によって生計を維持されていたこと」ということでした。これが、本年4月から「妻が死亡した場合に残された遺族が18歳到達年度末日未到達の子(妻の実子又は養子)のある夫」にも適用されることになりました。ただし、当然といえば当然ですが、この改正の適用に遡及効は認められていないので、不公平との感じを持たれる方もおられるかもしれません。

 この改正で一つ議論になったのが、当初の「国民年金法施行令等の一部を改正する政令案」で示された「死亡者が第3号被保険者であるときは、支給要件である配偶者により生計を維持されていたことには該当しない」という点でした。これについては、全国社労士会連合会も会長名で反対の意見を表明する(「国民年金法施行令等の一部を改正する政令案」に関する会長見解)などの反響があり、第3号被保険者が死亡した場合も他の被保険者と区別をしないことになりました。とはいえ、またもや、第3号被保険者が論議の対象になっていたことがわかります。以前にも述べたとおり、小生は「第3号被保険者」制度は欠陥が多すぎる制度なので廃止すべきだという考えです。決して個人単位の平等主義の徹底や家族主義の伝統を軽視する立場からではなく、あくまで制度として問題が次から次へと出現しすぎのため、制度を維持する公益よりも不便や筋の通らぬことの方が優に上回っているという視点です(第3号被保険者に関する種別変更問題の考察_2011年12月2日)。

 小生の立場とは全く異なるように思えますが、「第3号被保険者制度は廃止すべし」という結論は一致するこんな記事が今朝ほど紹介されておりました。
 公的年金の制度改革を議論する社会保障審議会年金部会の武田洋子委員(三菱総合研究所チーフエコノミスト)

 三宅先生は、今回の遺族基礎年金の受給権者の拡大について、年金制度における男女差解消の方向付けと解釈され、遺族厚生年金の男女差、すなわち、夫が遺族厚生年金を受給するためには妻の死亡時に夫が55歳以上であるという要件も解消されるべきであると主張されています。また、「寡婦年金」、「中高齢の寡婦加算」、「子のいない30歳未満の妻に支給される5年間の有期年金」等の廃止(?)も検討されるべきであるとしています。このような考え方は、個人単位の平等主義を徹底していけば、必然的に俎上に上せられてくる議論です。しかし、そもそも個人単位の平等主義を徹底することが、はたして我が国の歴史や伝統に立脚した価値観に合致していることなのか、現代に生きる国民だけでなく、過去から将来に連なる人々の経世済民につながることなのか、極めて冷静かつ大局に立った判断が求められる懸案のように思えます。

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年金特例水準の解消と厚生年金基金

1.厚生年金基金について

 厚生年金基金とは、歴史的には我が国の代表的な企業年金制度といっても過言ではなく、国が管掌している1階部分の基礎年金、2階部分の厚生年金の上の3階部分を構成する公的性格を有した年金制度として多くの企業等で広く実施されてきました。しかし、平成25年6月に国会で成立した公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律により、本年4月からは新設が禁止され、制度廃止に舵を切ったと認識されています。とはいえ、いまだに多くの年金受給者が厚生年金基金からの年金支給を受けています。厚生年金基金は、本来国が支給する公的年金を基金が代行する特殊な企業年金制度ですので、この4月からの「特例水準の解消」と絡めて、年金額の改定との関係を解説します。


2.厚生年金基金と年金額の改定

 そもそも、厚生年金基金から支給されている代行部分とは、簡単に理解するとすると同基金加入中の報酬比例部分のことですが、ここで重要な点は、国に代わって支給する老齢厚生年金の報酬比例部分のうち賃金の再評価分と物価スライド分を除いた部分ということです。ここから、基金代行分を計算する際の平均標準報酬月額及び平均標準報酬額は、再評価率を乗じていない生の標準報酬月額及び標準報酬額の平均値ということが言えます。さらに、物価スライド率を乗じることもありません。結論として、基金が支給する代行部分の年金額は裁定時に一定額に定まり、かつ、不変です。

 このことを前提に、今回の「特例水準の解消」による年金額の引下げからどのような影響を受けるのかを考えてみましょう。結論は単純で、通常の年の物価スライドによる改定と同様、代行部分からの支給額は裁定時のままで変更されないということです。そして、0.7%引下げの効果が全て国からの支給部分に反映されるように計算します。つまり、報酬比例部分80が基金から支給され、平均報酬額の再評価分及び物価スライドによる上昇分が20だとすると、国から支給される20の部分が大幅に減額され、19.3となるのです。ただ、全体で見ると、80に19.3を加えた99.3となり、0.7%の引下げということになるのです。

 それでは、稀にしかない場合と思われますが、国から支給される部分が全くない、又は0に近い金額であった場合どうなるのかということです。この場合であっても、基金代行部分の年金額が減額されることはありません。「基金が支給する代行部分の年金額は裁定時に一定額に定まり、かつ、不変」という原則の通りです。

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