黒企業重点調査結果

1.厚生労働省のブラック企業取組み報告書

 厚生労働省は、今月17日、9月に重点的に実施した若者の「使い捨て」が疑われる企業等への取組に関する報告書「若者の「使い捨て」が疑われる企業等への重点監督の実施状況」を公表しました。今年の流行語大賞は惜しくも逃したようですが、「ブラック企業」は、中学生や高校生でさえ普通に使うようになっている模様で、相当程度人口に膾炙する言葉になっているのは疑う余地のないところです。

 平成25年9月を「過重労働重点監督月間」とし、若者の「使い捨て」が疑われる企業等に対して集中的に実施した「過重労働重点監督」の結果は次の通りです。

(1)重点監督の実施事業場:5111事業場

(2)違反状況:何らかの労働基準関係法令違反があった事業場 4189事業場(全体の82.0%)
((1)のうち、法令違反があり、是正勧告書を交付した事業場)
 ① 違法な時間外労働があったもの 2241事業場(43.8%)
 ② 賃金不払残業があったもの 1221事業場(23.9%)
 ③ 過重労働による健康障害防止措置が実施されていなかったもの 71事業場(1.4%)

(3)健康障害防止に係る指導状況((1)のうち、健康障害防止のため、指導票を交付した事業場):
 過重労働による健康障害防止措置が不十分なもの 1120事業場(21.9%)
 労働時間の把握方法が不適正なもの 1208事業場(23.6%)

(4)重点監督において把握した実態
 重点監督時に把握した1箇月の時間外及び休日労働時間が最長の者の実績:
 80時間超 1230事業場(24.1%) うち100時間超 730事業場(14.3%)

 厚生労働省は、重点監督及び申告監督において是正勧告等を行った、違反及び問題等について、以下のような事例を主なものとして挙げています。

(1)長時間労働等により精神障害を発症したとする労災請求があった事業場で、その後も、月80時間を超える時間外労働が認められた事例
(2)社員の7割に及ぶ係長職以上の者を管理監督者として取り扱い、割増賃金を支払っていなかった事例
(3)営業成績等により、基本給を減額していた事例
(4)月100時間を超える時間外労働が行われていたにもかかわらず、健康確保措置が講じられていなかった事例
(5)無料電話相談を契機とする監督指導時に、36協定で定めた上限時間を超え、月100時間を超える時間外労働が行われていた事例
(6)労働時間が適正に把握できておらず、また、算入すべき手当を算入せずに割増賃金の単価を低く設定していた事例
(7)賃金が、約1年にわたる長期間支払われていなかったことについて指導したが、是正されない事例

 なお、違反・問題等が認められた事業場に対しては、既に是正勧告書等を交付、是正に向けた指導を行われており、是正がなされていない事業場については、引き続き、是正の確認を行われることになります。それでもなお、法違反を是正しない事業場については、企業名等の公表及び送検も行われるようです。


2.ブラック企業(以下「黒企業」と表記)はなくなるか

 黒企業が社会問題化してくる要因としては、様々なことが考えられると思います。しかし、何よりも先に挙げなくてはならないことは、1997年ないし98年に始まったデフレ経済と長期間続いた不況です。この間、企業業績が輸出企業等を中心に上向いたことはありましたが、ほとんどの期間、GDPは横ばいか減少を続け、物価は下がりましたが賃金も下がる傾向がずっと続いていました。こうした景気動向の下では、民間企業は新規採用を抑え、雇用が極めて悪化します。ここに、労働市場は買い手市場と化し、黒企業が存在できる余地が生じてしまったと考えます。また、これまで労働条件が比較的良かった企業においても、業績低迷が続けば、合理化を実施し、新規採用を抑えざるを得ず、残った従業員の負担が増えて、黒企業化するところもあったことでしょう。

 2番目に、思い付く理由は、いわゆる日本的経営の衰退です。第1に挙げた理由と密接に関連していることですが、日本企業は、終身雇用、年功序列、及び職能制度賃金などに象徴されていた経営様式を徐々に米国流の合理主義的経営に移行してゆきます。中小企業では、必ずしも終身雇用、年功序列、及び職能賃金が大企業のように実施されていたとはいえないかもしれませんが、世の中の流れとして、家族主義的な日本的経営を否定して成果主義を導入し、人をコストと考える合理主義的経営がもてはやされた一時期があったことはまちがいないでしょう。

 2008年のリーマン・ショックを境に、今日では米国流の合理主義的経営を無批判に賞賛し、採りいれようとする企業は、かなり少くなったのではないでしょうか。苛烈な成果主義も、日本人の国民性には明らかに適合せず、一部の例外を除いて相当程度の修正が余儀なくされているのが現状でしょう。

 だとすれば、黒企業問題を抜本的に解決するのに必要な条件は、取締り強化も大切ではありますが、やはり、デフレ経済からの脱却と景気回復であることは自明のことです。景気が回復し、企業家の投資意欲が改善されれば、雇用情勢が劇的に変わってきます。ここで初めて若者が黒企業を見限って転職する機会が開けてくるからです。先ごろの雇用統計で全国平均の求人倍率がついに1倍となったことが発表されていましたが、黒企業が生存できにくくなる状況が、兆しではありますが、随所に見えてきていることは確かなのでしょう。

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公的年金、物価連動国債購入へ

 20日、ロイター通信は、「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が物価連動国債への投資に乗り出す。デフレ脱却を見据え、将来の金利上昇に備えるのが狙い。GPIFは『来年4月から少なくとも年間数千億円規模で投資する』としている。」と伝えています(GPIF、来年4月から物価連動国債を購入=厚労省)。

 デフレからの脱却と2%程度のインフレを目標とする政府・日銀の金融政策の動向を受けて、政府の有識者会議が11月20日に甘利明経済再生担当相に提出した最終報告書で、GPIFの公的年金資産の運用に関して、国内債中心で金利上昇に弱い資産構成を見直し、デフレ脱却を前提に金利リスクを管理する必要があるとの提言(GPIF理事長:国内債比率、将来は低下へ)を行っています。今後、GPIFが公的年金資産の運用比率に若干の手直しを施していくことが予想されます。今回は、物価連動国債又はインフレ連動国債とはどのような金融商品なのか、簡単にまとめておきたいと思います。
  

1.ブレークイーブン・インフレ率

 ブレークイーブン・インフレ率(break-even inflation rate)とは、物価が今後どの程度上昇すると一般的に予想されているかを表すインフレ期待(inflationary expectations)を測る代表的な指標です。国債とインフレ連動債との利回りの差を数値化したもので、市場が推測する期待インフレ率を表します。この値がプラスならインフレ、マイナスならデフレを市場が期待していることになると考えます。

 ブレークイーブン・インフレ率 = (国債の利回り - インフレ連動国債の利回り)


2.物価連動債

 英国及び米国などで実際に発行されている物価連動債と固定金利債券との違いは、元本・クーポン(利息)のどちらかないし両方が発行条件に明示されている物価指数による調整を受ける点です。

 通常の長期債券の利率(長期金利)は、実質的に利息が増える分とインフレのリスクヘッジ分に分けられます。一方でインフレ連動債の場合、元本と利率がインフレによって目減りするリスク分が必ず補填されることになっていますので(逆に、デフレによる増加分は控除)、利率は「実質的に利息が増える分」のみになります。したがって、この2種類の債券利率を比較することで市場の期待インフレーション率が分かると考えられています。

 例えば、10年後10000円が返済される零クーポン長期債が5584円で取引されていたとします。この場合、名目金利は年率は6%となります。一方で、10年後の返済額が「インフレ調整現在価値で10000円」であるインフレ連動債、つまり年率1%のインフレが10年間続いたとすると元本が11046円になり、年率2%のインフレであれば、元本が12190円という具合になることが保証された零クーポン債が、7441円で取引されていたとします。この連動債の金利は3%ですから、実質金利は年率3%となります。そして、通常の国債の名目金利6%と実質金利3%の差は3%(実際は除算をすべきところですが、減算でも近似値が出る)となります。ここから、金融市場は10年間の間に年平均3%のインフレが起きると想定していると考えることができるわけです。

 上記の例で、-1%のデフレ期待の状況(デフレ期で名目金利が6%もある状況は、非現実的ではありますが)を見てみることにします。6%-X=-1%となる連動債の市場価格を求めればよいわけですから、5083円、実質金利は7%となります。

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Merry Christmas!

 平成25年(2013年)も残すところあとわずかになりました。今年も様々なことが起こりましたが、1番の朗報は、2020年に東京での五輪開催が決まったことでしょうか? 「好いニュースは一つだけ、2014年よりは好い年だった。」何てことにならないように、来年も氣を引き締めて行きたいと思います。

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年金記録問題の現状

 およそ5000万件の誰のものかわからぬ宙に浮いた年金記録があるということが発覚した、いわゆる年金記録問題が世間を騒がせたのは、平成19年(2007年)2月のことでした。以来、年金特別便及び定期便の送付、社会保険庁から日本年金機構への改組、オンライン上の記録と紙台帳との突合せなど記録解明のための一連の措置が実施されてきました。

 日本経済新聞電子版等の報道によれば、厚生労働省の特別委員会は20日、「消えた年金」5000万件超の記録解明作業の経過について報告書案を公表しました。これは、政府が平成22年度(2010年度)から25年度(2013年度)を記録解明のための集中作業期間と位置付けていて、集中作業期間が今年度を以って終えるのを期に、節目の報告書をとりまとめたというものです。

 特別委が発表した報告書案によると、2013年9月時点で解明できたのは2983万件。うち1738万件は記録の統合が終わり、年金保険料を納付している人が年金を適正に受給できるようになり、1245万件は持ち主の死亡などを確認でき、解明作業に目途がついたとしています。一方、解明できていない記録は、2112万件で全体の4割に及ぶとのことです。このうち、海外に移住しているケースなど「手がかりがいまだつかめていない記録」が927万件。国から郵便などで確認を促したが、回答が無く持ち主が判明していない記録も863万件にのぼったとされ、報告書は、解明作業が限界に近づいているとの認識を示唆しているようです。

 また、これまでに年金記録問題に費やした予算は約4013億円に上り、記録訂正で年金額が回復した人は約269万人、年金の回復額は計1.9兆円になるとのことです。

 年金記録「解明には限界」…回復額は1.9兆円(読売新聞電子版)

 結局この問題は、「由らしむべし。知らしむべからず。」という言い回しに行き着くのだと個人的には思っています。この言葉は、時代劇などに出てくる権力者が、民にはけっして本当のことは伝えず、お上を頼って命令に従わせる状況にしておくのがよいのだという悪い意味の台詞として使われることが多いのですが、本来の意味は、権限のある者が正しい政治なり、経営なりを行ってこの人がやることならば間違いはないだろうと民や社員に信頼してもらうことは可能である。しかし、(いくら情報公開をしたとしても)やることなすことを全ての人に理解してもらうことは不可能だということのようです。つまり、「べし、べからず」は、当然ではなく、可能の意味であるとする読み方です。

 旧社会保険庁は、幾度かの法改正を経て、素人にはとてもわかりづらくなっている国の年金制度を運営するに当たり、全ての被保険者及び年金受給者を「由らしむ」ことができたのに、一部不心得者のずさんな経営と作業によって信頼を失墜し、「由らしむべからず。」の状態を作ってしまいました。年金記録解明の一連の作業は、何とか信頼を回復するために「知らしむべし。」を試みているのですが、それは、元々不可能なことです。一度崩れた信頼を取り戻し、「由らしむべし。」の状態を確立するためには、それなりの時間がかかると覚悟すべきなのでしょう。

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派遣労働規制緩和の動き

 民主党政権時代、「登録型派遣の原則禁止」、「製造業における派遣労働原則禁止」などの論点が俎上に上せられ、派遣労働に関する規制強化の動きが優勢の中、平成24年(2012年)4月に上記の論点は改正に盛込まれない形で、「改正労働者派遣法」が施行されています。

 そもそも、我が国の労働法体系では、職業安定法第44条において、労働者供給事業を包括的に禁止しています。しかし、同法4条6項によって、「労働者派遣」は労働者供給事業から除外され、労働者派遣法の定める要件を満たすことにより、適法とされているという体裁をとっています。従って、派遣労働は、限定的な労働形態と考えるのが本筋であり、正規労働を推し進めることが社会政策的にも実質的妥当性が高いと思われます。ただ、派遣労働が相当程度社会に浸透してしまった昨今、急激に派遣労働を制限することに対して、多方面からの反発もあることは想像に難くなく、「企業が派遣社員を受け入れる期間の上限を事実上なくし、3年ごとの人の交代で、同じ業務をずっと派遣労働者に任せられるようにする。」案が厚生労働省で検討されていることが、12日公表されています。「正社員の仕事が派遣社員に置き換わる可能性があるとして連合などは反発している」とのことですが、厚労省はこの案を軸に年内に結論を出すようです。日本経済新聞電子版等の報道によれば、詳細は以下の通りです。


(1)派遣期間無制限26業務廃止
 まず派遣期間に上限のないソフトウエア開発、通訳、秘書又はファイリングなど「26業務」の区分をなくします。区分の廃止により何が26業務にあたるのか分かりづらかった問題を解決し、派遣労働者に仕事を任せやすくするのが目的としています。

(2)派遣期間の無制限化
 その上で、派遣期間の上限は「業務」ごとではなく「人」ごとに変えるとしています。現行法では、専門26業務以外で3年とする上限は、企業が仕事を派遣労働者に任せてよい期間で、1人の派遣労働者が同じ職場で働ける上限ではありません。上限を「人」に改めることで、人を交代すれば、企業は同じ職場で派遣労働者の受け入れを続けられる期間に制限がなくなるというわけです。しかし、こうなると派遣労働者を守ると同時に正規労働が派遣に置き換えられてしまうことから正規労働者を保護するという建前が崩れます。この点は、派遣労働が正規労働を代替しないように、労働者を交代する時に、労働組合に意見を聞くよう企業に求めるとしていますが、どこまで実効性が働くのか連合などから疑問の声が上がっているようです。

(3)常用型派遣労働者及び高齢者の期間の無制限化
  派遣元の派遣会社と無期の雇用契約を結ぶ人や60歳以上の高齢者は、上限なく同じ派遣先で働き続けられるようにします。

(4)登録型派遣の無期転換等の義務付け
 派遣元と有期の雇用契約を結んでいる労働者は3年働いた時点で、他の労働者と交代しなくてはならないため、この時点で派遣会社に
 ① 派遣先に直接雇用を申し入れる
 ② 新たな派遣先を提供する
 ③ 派遣会社で無期雇用に転換する
――などの措置を義務付けることにしています。これにより派遣労働者にはキャリアアップの機会が増える一方、派遣会社の負担は膨らむことになります。

(5)派遣事業の「許可制」一本化
 派遣元企業が常時雇用する労働者のみを派遣する常用型派遣だけを行う「特定労働者派遣事業」に許容されている「届出制」を廃止し、派遣事業は全て「許可制」に移行し、派遣業者には定期的な許可の更新や講習の受講を義務付けることとしてます。

東京国立博物館