改正労働契約法及び改正高年齢雇用安定法のその後

1.改正労働契約法

 8月10日に公布された改正労働契約法の施行に伴う政省令が10月26日に公布されています。それによれば主要3改正点のうち、判例で既に確立されているといえる雇止めの法理を条文化した19条(改正法公布の8月10日から施行)を除き、有期労働契約が同一の使用者と5年を超えて反復更新された場合の無期労働契約への転換権を労働者に付与した18条及び有期契約を理由に労働条件の不合理に差別することを禁じた20条は、平成25年(2013年)4月1日以降に契約開始となる有期労働契約から適用されることになります。

 また、無期転換の要件とされる5年間の通算方法については、有期労働契約満了から更新までの間に一定の無契約期間が生じなければ、通算を否定することはできないとされます。すなわち、通算を否定するためには6箇月以上の無契約期間が必要で、それよりも短い無契約期間では、クーリングの効果は生じません。ただし、無契約期間が生じる以前の通算期間が1年未満の場合には、「契約期間を通算した期間に2分の1を乗じて得た期間」以上の無契約期間で通算を否定することができます。

 さらに、平成15年(平成20年一部改正)の「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」を労働基準法の施行規則に格上げし、違反する企業に対しては罰則の適用もあり得るとしています。


2.改正高年齢雇用安定法

 平成25年(2013年)4月1日に施行される改正高年齢雇用安定法では、継続雇用制度の対象者を労使協定で定める基準により限定できる仕組みが廃止されることになっています。

 しかし、厚生労働省の労働政策審議会が11月2日に公表した省令案及び指針案では、就業規則に規定された解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く)に該当する対象者は継続雇用されないとすることができるという例外規定が提案されています。

 指針によれば、継続雇用の対象から外される「就業規則に規定された解雇事由又は退職事由」には、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められるとされています。具体的な事由としては;
(1)心身の故障のため業務に堪えられないと認められること
(2)勤務状況が著しく不良で引続き従業員としての職責を果たし得ないこと

などがこれにあたるとされています。

 これに付随して、継続雇用を円滑に実施するために、労使協定で企業側が対象者に継続雇用の希望を聞く時期や継続雇用の可否を判断する時期を定めたり、継続雇用の業務の範囲などについて定めることができるとされています。

 また、継続雇用の対象者を雇用する企業の範囲は、当該企業の(1)子会社、(2)親会社、(3)親会社の子会社(同一の親会社を持つ子会社)、(4)関連会社、(5)親会社の関連会社とされています。なお、親子関係については、親会社が子会社の議決権の過半数を保有していること、関連会社の場合には議決権の20%を保有していることが主な要件となります。

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解雇権濫用_高知放送事件

 ときおり、我が国の労働慣行は終身雇用が原則で解雇について非常に制限的であるのは、労働市場の活性化、国際競争力の強化といった観点から問題が大きいという指摘を耳にすることがあります。これは主に欧米の労働市場との比較から、いわれる批判なのでしょうが、個人主義よりは村社会的な共同体所属願望が根強く残る伝統や文化が根っこのところにあるものと思われます。この強い共同体意識は、必ずしも個人主義的価値観に取って替わられるべきものではないといえます。とりわけ、リーマンショック以降の新自由主義的経済政策の行き詰まり状態から見えてくるのは、欧米流の個人主義の限界ではないかとささやかれる今日においてはです。また、企業にとっても業務に習熟した労働者が定着し、余程のことがない限り村八分(解雇)されることを心配しないですむかわりに、企業の存続に応分の責任を分担してまじめに働くというような社会規範や慣行が不都合なものであるはずはありません。というわけで、最高裁昭和52年1月31日第二小法廷判決を採り上げ、我が国独特の土壌の中で判例法として積上げられてきた「解雇権濫用法理」の解説を試みたいと思います。


1.事案の概要

 Xは、放送事業を営むY社のアナウンサーでした。Xは、昭和42年2月22日から翌23日にかけて訴外A(ファックス担当放送記者)とともに宿直勤務に従事していましたが、23日に担当する午前6時から始まる定時ラジオニュースを寝過ごしてしまい、放送することができなくなりました(第1の事故)。さらに、同年3月7日から翌8日にかけて訴外B(ファックス担当放送記者)とともに宿直勤務に従事していましたが、8日に担当する午前6時から始まる定時ラジオニュースをやはり寝過ごしてしまい、5分間放送することができなくなりました(第2の事故)。また、Xは2度目の放送事故を直ちに上司に報告せず、後に事故報告書を提出した際に事実と異なる報告をしていました。

 Y社は、上記Xの行為につき、就業規則15条3項の「その他、前各号に準ずる程度の巳むをえない事由があるとき」との普通解雇事由を適用してXを普通解雇しました。なお、就業規則15条1項には「精神又は身体の障害により業務に耐えられないとき」、第2項には「天災事変その他巳むをえない事由のため事業の継続が不可能となつたとき」と規定されていました。

 本件は、上記解雇に対して、XがY社の従業員としての地位確認等を求めては提訴し、第1審判決及び控訴審判決がともにXの請求を認容したために、Y社が上告したものです。


2.解 説

(1)判決の要旨

 上告棄却。

 Xの行為はY社の就業規則15条3項所定の普通解雇事由に該当する。「しかしながら、普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるものというべきである。

 「Xの起こした第1、第2事故は、定時放送を使命とするY社の対外的信用を著しく失墜するものであり、また、Xが寝過しという同一態様に基づき特に2週間内に2度も同様の事故を起こしたことは、アナウンサーとしての責任感に欠け、更に、第2事故直後においては卒直に自己の非を認めなかった等の点を考慮すると、Xに非がないということはできない」

 「他面、原審が確定した事実によれば、本件事故は、いずれもXの寝過しという過失行為によって発生したものであって、悪意ないし故意によるものではなく、また、通常は、フアックス担当者が先に起きアナウンサーを起こすことになっていたところ、本件第1、第2事故ともフアックス担当者においても寝過し、定時にXを起こしてニュース原稿を手交しなかつたのであり、事故発生につきXのみを責めるのは酷であること、」

 「Xは、第1事故については直ちに謝罪し、第2事故については起床後一刻も早くスタジオ入りすべく努力したこと、第1、第2事故とも寝過しによる放送の空白時間はさほど長時間とはいえないこと、Y社において早朝のニュース放送の万全を期すべき何らの措置も講じていなかったこと、事実と異な事故報告書を提出した点についても、一階通路ドアの開閉状況にXの誤解があり、また短期間内に2度の放送事故を起こし気後れしていたことを考えると、右の点を強く責めることはできないこと、」

 「被上告人はこれまで放送事故歴がなく、平素の勤務成績も別段悪くないこと、」

 「第2事故のフアックス担当者Bはけん責処分に処せられたにすぎないこと、Y社においては従前放送事故を理由に解雇された事例はなかつたこと、第2事故についても結局は自己の非を認めて謝罪の意を表明していること、」

 「右のような事情のもとにおいて、Xに対し解雇をもってのぞむことは、いささか苛酷にすぎ、合理性を欠くうらみなしとせず、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと考えられる余地がある。したがって、本件解雇の意思表示を解雇権の濫用として無効とした原審の判断は、結局、正当と認められる。」

(2)解雇権濫用説の本質

 民法は623条から631条にかけて雇用契約について定め、627条において「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。」と規定しています。この条文は、雇用契約の当事者からの解約の申入れは、一方的な法律行為であり、その効果は雇用契約を「2週間を経過することによって終了」させることができるというものです。解約の申入れは、労働者側から行う場合、任意退職又は辞職と呼ばれ、使用者が行う場合には解雇と言って区別されます。

 しかし、契約自由を大原則とする民法典は、今日では労働者の保護を目的とした労働法によって制約が課されるようになっています。それでは、労働法の規範による制限に違反しない限り、使用者は労働者を自由に解雇することできるのか否かについて、学説は、解雇自由説、正当事由説、及び解雇権濫用説の対立があるとされています。判例は、解雇の自由を原則的には認めた上で、私権行使一般に通じる権利濫用法理を積極的に適用して、解雇の自由を縮減し、限定していく立場、解雇権濫用説を採用してきています。

 解雇権濫用法理は判例規範として確立、平成15年(2003年)の労働基準法改正で条文化され、平成19年(2007年)11月に労働契約法が成立すると、その条文のまま労働契約法16条に移管・継承されています。

(3)解雇するために必要な要件

 それでは、労働契約法16条にある「客観的に合理的な理由」とは何か、これまでの判例で明らかになっているのは、大きく分けて次の3つとされています。

 ①労働者の労務提供の不能並びに労働能力又は適格性の欠如・喪失
 ②労働者の本来は懲戒解雇とすべきほどの規律違反行為
 ③経営上の必要性に基づく事由

 これらの事由は、懲戒解雇事由とは別に普通解雇事由として通常就業規則に列挙されています。しかし、就業規則の普通解雇事由に該当し、「客観的に合理的な理由」があるとしても、「社会通念上相当であると認められない場合」解雇は無効とされます。この解雇の「社会通念上の相当性」とは、一般的には解雇の事由が重大な程度に達しており、解雇以外に他に手段がなく、かつ労働者の側に斟酌されるべき事情がほとんどない場合にのみ認められるものとされています。

(4)解雇無効の効果

 解雇無効の法律効果は、解雇がなかったものとして労働契約が存続することであり、裁判所からは労働者が労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する判決が下されます。また、解雇期間中については、使用者には民法536条2項「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。」(危険負担の法理)に基づき賃金の遡及払いの義務が生じてきます。

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退職勧奨_下関商業高校事件

 各種公務員の定年は原則60歳になっていますが、この制度は昭和56年の法改正により多くの公務員に適用されるようになったもので、それ以前には公務員に定年制度が存在しない時代がありました。その時代に定年制度に代わる役割を担っていたのが、退職勧奨の慣行です。この退職勧奨の違法性が争点になった下関商業高校事件(最高裁昭和55年7月10日第一小法廷判決)を採り上げ、退職勧奨の法的な論点について解説を試みます。


1.事案の概要

 下関市教育委員会は、市立の高等学校が2校しかないため人事交流がなく、教員が高齢化する傾向にありました。そのため、教員の新陳代謝をはかり、適正な年齢構成を維持することを目的に山口県教育委員会が毎年定める退職勧奨基準年齢に準じて勧奨対象者を選定し、市立高校教員に対する退職勧奨を実施してきました。

 下関市の市立高等学校教諭のX1は昭和40年度末から、X2は昭和41年度末から、それぞれ退職勧奨年齢に達したため毎年退職勧奨を受けてきました。しかし、X1、X2は第1回目の退職勧奨以来一貫して勧奨には応じないことを表明していたため、下関市教育委員会教育長であったY2の決裁によりXらに対し退職を勧奨することが決定され、教育次長兼学校教育課長のY3に対し、勧奨の実施方法が指示され、Y2の名で校長に対し退職勧奨についての協力要請がなされました。

 この要請を受けて、昭和45年になってX1に対しては3月12目から5月27目までの間に11回、X2に対しては3月12目から7月14日までの間に13回、それぞれ市教育委員会に出頭を命じ、1~4人の勧奨担当官が1回につき20分から2時間15分に及ぶ勧奨を繰り返しました。加えて、Xらが退職するまで勧奨を続ける旨の発言をし、また、組合が要求していた宿直廃止や欠員補充について、Xらが退職勧奨に応じない限り応じられないなどの発言を行いました。さらに、Xらに教師的活動あるいは研究成果に関するレポートや研究物の提出を要求していました。

 Xらは、本件退職勧奨によって精神的損害を受けたとして、Y1(下関市)、Y2、Y3に対し、国家賠償法1条に基づき各50万円の損害賠償を請求する訴えを提起、1審地裁判決及び2審広島高裁判決ともXらの主張が認める判決となりました。これに対し、Y1が上告したのが本件です。


2.解 説

(1)判決要旨

 上告棄却。
 原審(広島高裁昭和52年1月24日判決)の判断を容認した。

〈原判決の要旨〉

 退職勧奨は、任命権者がその人事権に基づき、雇用関係あるものに対し、自発的な退職意思の形成を慫慂(しょうよう)するためになす説得等の行為であって、法律に根拠を持つ行政行為ではなく、単なる事実行為である。従って被勧奨者は何らの拘束なしに自由にその意思を決定しうることはいうまでもない。

 なお勧奨は一定の方法に従って行なわれる必要はなく、退職を求める人事行政上の事情や、被勧奨者の健康状態、勤務に対する適応性、家庭の事情その他被勧奨者の要望等具体的情況に応じて、退職の同意を得るために適切な種々の観点からの説得方法を用いることができるが、いずれにしても、被勧奨者の任意の意思形成を妨げ、あるいは名誉感情を害するごとき言動が許されないことは言うまでもなく、そのような勧奨行為は違法な権利侵害として不法行為を構成する場合があることは当然である。

 これを本件退職勧奨についてみるに、(Xらが第1回目勧奨以来一貫して勧奨に応じないことを表明していること、Xらに対して極めて多数回の勧奨が行われていること、その期間もそれぞれかなり長期にわたっていることを認めた上で、)あまりにも執拗になされた感はまぬがれず、退職勧奨として許容される限界を越えているものというべきである。また、本件以前には例年年度内(3月31日)で勧奨は打切られていたのに本件の場合は年度を越えて引続き勧奨が行なわれ、加えてYらはXらに対し、退職するまで勧奨を続ける旨の発言を繰り返し述べて、Xらに際限なく勧奨が続くのではないかとの不安感を与え心理的圧迫を加えたものであって許されないものといわなければならない。

 さらに、Yらは右のような長期間にわたる勧奨を続け、電算機の講習期間中もXらの要請を無視して呼び出すなど、終始高圧的な態度をとり続け、当時「組合」が要求していた宿直廃止や欠員補充についても、本件とは何ら関係なく別途解決すべき問題であるのに、Xらが退職しない限り右の要求には応じられないとの態度を示し、Xらをして、右各問題が解決しないのは自らが退職勧奨に応じないところにあるものと思い悩ませ、Xらに対し二者択一を迫るがごとき心理的圧迫を加えたものであり、またXらに対するレポート、研究物の提出命令も、その経過に照らすと、真にその必要性があったものとは解し難く、いずれも不当といわねばならない。

 本件退職勧奨は、Xらの任命権者である市教育委員会の決定に基づき、任命権者の人事権に基づく行為であり、Y1の公権力の行使というべきである。そしてY2らは自己の職務行為としてXらに退職を勧奨するに当り、その限度を越えXらに義務なきことを強要したものであり、これは少くとも過失によるものと認められるから、Y1はXらに対し、国家賠償法第1条第1項(註)により、右のごとき違法な退職勧奨によってXらが受けた損害を賠償すべき義務がある。

(註)国家賠償法(昭和22年10月27日法律第125号)
 第1条第1項
 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

(2)退職勧奨の法的性格

 退職勧奨は、単に退職を勧めることですので、被勧奨者はこれに応じる義務はありません。退職勧奨に対して、退職するかどうかは、理論的には労働者が自由に意思決定することができます。従って、退職勧奨は、使用者側からの一方的な意思表示で労働契約を解約する「解雇」とは異なります。もちろん、労働基準法20条「解雇予告」及び「解雇予告手当」の問題も生じる余地はありません。また、退職するかどうかの意思決定は労働者側に委ねられてはいますが、使用者側からの働きかけによるものですから「自己都合退職」とも異なります。使用者と労働者との合意の結果として労働契約が終了することになりますので、「合意退職」に区分されるのです。

 退職勧奨を単なる「事実行為」とみるか、契約の合意解約の申込みである「法律行為」とみるかという論点が一応考えられます。本件判決では、高裁判決にあるとおり、単なる事実行為であると判断しています。両者の間に差異が生じるのは、退職勧奨を受けた被勧奨者が勧奨に応じて退職してから、合意解約の無効を争う場合で、事実行為とするならば、いまだに合意解約は成立していないとの理論構成が採れるというのですが、このような観念論に大した意味があるとは思えません。むしろ、個別具体的な意思決定の過程に「被勧奨者の任意の意思形成を妨げ、あるいは名誉感情を害するごとき言動」がなかったかを検討する方が余程実務に即しているといえます。

(3)退職勧奨はどこまで許されるか

 「被勧奨者の任意の意思形成を妨げるような勧奨行為」は、違法な権利侵害として不法行為を構成します。そこで、どのような勧奨行為が任意の意思形成を妨げる違法な権利侵害と判定されるのかが、次に問題になります。判例によれば、
 ①勧奨の回数;何度にもわたって執拗に退職勧奨を繰り返す。
 ②勧奨の期間;合意に至るまで終わらせないような態度をとるなど、長時間に及んで継続する。
 ③言動;本人の人格を否定したり、威圧的な発言をする。虚偽の説明をする。結婚退職勧奨のような社会的に問題のある発言をする。
 ④勧奨者の人数;大勢で1人を取り囲むような方法をとる(せいぜい2人くらいまでが常識的限度)。
 ⑤優遇措置の有無
の5要素を総合的に考慮して判断するとしています。要は、「退職の勧奨」が「退職の強要」になってはいけないということです。

(4)退職勧奨の実務

 我が国の労働慣行において、解雇は使用者にとって非常に難しいものと考えられます。そのことは、労働契約法16条に「解雇権濫用法理」として明文化されており、確固たる法規範として認識されています。一方、退職勧奨は、合意による労働契約の解約ですから、合意に至りさえすれば、原則として後日不当解雇として争いが生じるおそれはありません。懲戒解雇の事由に該当する場合を除き、解雇が必要と考えられる場合であっても、まずは退職勧奨を試みる方が予防労務の観点からは望ましいともいえます。

 ただし、実務上、確実に退職勧奨を行って、後日不当解雇の提訴可能性を絶つには、それなりに注意が必要です。第1に、本件のような「退職の強要」と取られるような方法は回避することです。そして、①解雇ではないこと、②退職の勧めであること、③勧奨の諾否はあくまで本人が決定すること、の3点を対象者に明確に理解してもらうことです。そして、解雇が必要と考えられる場合であっても、退職勧奨でいく場合には、その目的は対象者の非を責めることではなく、労働契約の合意解約であることを意識して手続きを進めて行くべきです。そして、退職勧奨の結果、本人の合意が得られた場合に、合意した事実を書面に残すことが非常に重要です。例えば、次のような「退職届」を作成することが考えられます。

 株式会社 XYZ
 代表取締役 甲

 退職届
 
 貴社からの退職の勧奨を受け、これに合意して平成○○年○月○日をもって退職いたします。

 以 上

 平成○○年△月△日
 氏名: 乙  ㊞
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年金額の特例水準引下げについて

 新聞各紙の報道等によれば、民主、自民、公明の3党が「過去の物価下落時に年金減額を据え置いた結果、本来の支給額より2.5%高くなっている特例水準の解消」について、減額開始を当初の政府案より1年遅れの平成25年(2013年)10月分からとすることで合意、民主党は政府提出の国民年金法改正案(「継続審議となった社会保険関連法案の整理」参照)を修正し、同法案は今国会で成立する見通しとなっています。ただ、すでに累積7兆円にのぼる超過払いについて、この遅れにより新たに9000億円(うち国庫負担分2060億円)の「過剰支給」が発生することになるとも伝えられています。
20121109_特例水準解消のための減額
「3党の実務者は、政府が今年2月に閣議決定した国民年金法改正案を議員修正することで一致。合意を受け、修正案は今国会で成立する見通しだ。修正案によると、特例水準解消のため、25年10月分の年金から1%(国民年金で月666円減、厚生年金モデル世帯で月2349円減)、26年4月分から1%(同675円減、2375円減)、26年10月分から0・5%(同334円減、1176円減)と、半年ごとに1年かけて計2・5%の減額を行う。」(11月9日 MSN産経ニュース)

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厚生年金基金制度の見直し厚労省試案

 厚生労働省は、先週2日に「厚生年金基金制度の見直しについて」(試案)を公表しました。厚労省によれば、この試案は、今後、社会保障審議会年金部会「厚生年金基金制度に関する専門委員会」で議論され、成案が得られれば、法律改正案を次期通常国会に提出する予定であるとしています。

 ただ、新聞報道によれば、基金が代行部分の積立不足を自助努力で解消できない場合には、厚生年金本体で穴埋めすることについて、健全な基金や自民党からの反対意見があり、厚労省の試案が実現するかどうかは不透明と伝えられています。
 
1.代行割れ問題への対応の基本原則

 厚生年金基金制度とは、国が管掌する厚生年金の相当部分を基金が国に代わってとり行う「代行制度」を基本的な枠組みとする企業年金制度です。近年、基金が国に代わって管理し、年金の支給も行っている代行部分について、積立不足となる「代行割れ問題」が盛んに俎上に上せられるようになりました。試案では、この問題に対応するための基本原則として、「モラルハザードを防止し、早期の対応を進める観点から、明確な適用プロセスと適用条件を設定し、特例解散(註)の申請は施行日から5年内にする。」として、次のように基本原則を発表しています。

(1)厚年基金自身の運営努力を求めること

 代行部分の積立不足は基金の母体企業が責任を持って負担することが前提であり、特例解散制度の適用に当たっても、基金の運営努力(掛金の適正な設定、給付抑制のための措置等)を求めることとする。
 また、受給者にも一定のルールの下に負担を求めるとともに、モラルハザード防止の観点から、基金全体の平均的なポートフォリオ(資産構成割合)を大きく外れた運用を行った結果生じた不足分については、母体企業の負担とする。

(2)母体企業の経営への影響に配慮すること

 母体企業の自己責任を基本としつつ、過度の負担により母体企業が経営破綻に陥ることは、地域経済及び雇用への影響や最終的に代行部分の給付責任を負う厚生年金本体の将来の財政への影響という観点から、極力回避すべきことであるため、母体企業の経営への影響にも一定程度配慮した仕組みとする。なお、母体企業の資金調達の問題に関しては、関係省庁とも連携を図っていく。

(註)特例解散
 代行割れとなっている基金が厚労相に特例解散を申請し、認可を受けることにより自主解散すること。また、新たに、代行割れの度合いが一定率以上である等の要件を満たし、かつ、自主的に解散の申請を行わない基金については、厚労相が第三者委員会の議決を経て指定を行い、一定期間内に解散を促す仕組みを導入する。


2.代行制度の段階的縮小及び廃止

 試案では、代行制度は、改正法施行日から10年をかけて段階的に縮小し、最終的には廃止されるとしています。その際、基金が給付していた代行部分は、代行割れの有無にかかわらず、厚生年金本体から全額支給されることになります。縮小及び廃止のプロセスは、次の通りです。

(1)改正法施行日以降の基金新設の停止

(2)施行日~5年後
 
 現存基金で、代行割れしていない基金については、代行返上して確定給付企業年金等へ移行するか、解散のいずれかの選択をします。また、代行割れの基金は、特例解散制度により解散を促されます。

(3)5年経過後~10年後

 施行日から5年経過以降は、残存している基金の各事業所は、これまで基金に納付していた代行部分の保険料(免除保険料)を厚生年金本体に納付するようになります。

(4)施行日から10年後

 施行日から10年経過以降は、残存している基金の代行部分の給付責任が全て国に移り、基金は代行資産を厚生年金本体に納付することになります(10年経過の以前であっても、保有資産が最低責任準備金の一定額を下回った基金は、代行資産を厚生年金本体に納付することになります)。

(5)企業年金連合会

 基金からの中途脱退者及び解散基金の加入員等の代行給付を行っている企業年金連合会も、10年の移行期間をもって代行資産を厚生年金本体に納付します。企業年金連合会は、確定給付企業年金法に基づく組織として再編されます。

(6)解散認可基準(代行返上を含む)の緩和

 ① 代議員会における法定議決要件
  代議員の定数の4分の3以上による議決から代議員の定数の3分の2以上による議決に緩和します。
 
 ② 解散認可申請に際しての事前手続要件
  全事業主の4分の3以上の同意から全事業主の3分の2以上の同意に緩和します。
  全加入員の4分の3以上の同意から全加入員の3分の2以上の同意に緩和します。

 ③ 解散認可申請に際しての理由要件
  母体企業の経営悪化等 → 撤廃(代行返上の場合は、母体企業の経営悪化等の理由要件は課していない)