整理解雇_ナショナル・ウエストミンスター銀行事件

 今年は、行き過ぎた円高水準がほとんど是正されないまま定着した観があり、日の丸家電などは業績の悪化に苦しみ続けました。円高不況を背景に、日の丸家電のリストラの記事が目についた氣がします。調べて見ると、1月 NECが国内7000人、海外3000人の削減、台湾企業との提携に動いたシャープが5000人の早期退職募集、4月 SONYが1万人の人員削減を発表、7月 半導体のルネサスが国内工場18拠点のうち8拠点で売却や閉鎖を検討、10月末の早期退職制度で5000人超の人員を削減すると発表など、総崩れの様相です。

 このような現状では、整理解雇が今後も問題になってくるものと思われます。そこで、整理解雇の4基準などが争点となったウエスト・ミンスター銀行事件(東京地裁平成12年1月21日決定)を採り上げ、解説を試みてみたいと思います。


1.事案の概要

 Xは、昭和56年8月、英国系銀行のY銀行東京支店に入行し、平成9年3月当時には、Y銀行アシスタント・マネージャーとして、専ら貿易金融業務の事務を担当していました。平成9年3月、Y銀行は経営方針転換により、貿易金融業務からの撤退を決断、同年6月末をもってその統括部門であるGTBS(グローバル・トレード・バンキング・サービス)部門の閉鎖を決定しました。

 同部門の閉鎖により、Xの担当業務が消滅するため、Y銀行は、Xを従来の地位を保持させたまま配転させうるポジションがないことを理由に、Xに対し一定額の金銭の支給及び再就職活動の支援を内容とする退職条件を提示し、雇用契約の合意解約を申し入れました。しかし、Xはこれを拒否し、Y銀行での雇用の継続を望んだため、Y銀行は、関連会社への職務転換(提示された賃金額は市場価格では最高額)を提案しましたが、Xがこれも受け入れなかったため、平成9年9月1日に同月末日をもって普通解雇する旨の意思表示を行いました。また、Y銀行はXに対し、再就職までの就職会社の斡旋サービスを受けるための金銭的援助を行うことが約束した上、退職勧奨時に提示した額に更に上乗せした額の退職金を振込んでいました。

 これに対してXは、本件解雇は解雇権を濫用したものであり、無効であるとして、地位保全及び賃金の仮払いを求めて仮処分の申し立てを行いました。平成10年度の賃金の仮払いを求めた第1次仮処分、平成11年度の賃金の仮払いを求めた第2次仮処分の申立においては、いずれもXの申立が認められYの解雇が無効であるとの決定がなされました。その上で、平成12年度の賃金仮払いを求めて提起されたのが本事案です。


2.解 説

(1)判決要旨

 Y銀行の行ったXに対する本件解雇は解雇権濫用とはいえない。

 「(GTBS部門閉鎖の決定は、リストラクチャリングの一環であるところ、)このような事業戦略にかかわる経営判断は、高度に専門的なものであるから、基本的に、企業の意思決定機関における決定を尊重すべきものである。」

 「リストラクチャリングのを実施する過程においては、...余剰人員の削減が俎上に上ることは、経営が現に危機的状態に陥っているかどうかにかかわらず、リストラクチャリングの目的からすれば、必然ともいえる。」

 「(他方、)余剰人員の削減対象として雇用契約の終了を余儀なくされる労働者にとっては、再就職までの当面の生活の維持に重大な支障を来すことは必定であり、特に、景気が低迷している昨今の経済状況、また、従来日本企業の特徴とされた終身雇用制が崩れつつあるとはいえ、雇用の流動性を前提とした社会基盤が整備されているとは言い難い今日の社会状況に照らせば、再就職にも相当の困難が伴うことが明らかであるから、余剰人員を他の分野で活用することが企業経営上合理的であると考えられる限り極力雇用の維持を図るべきで、これを他の分野で有効に活用することができないなど、雇用契約を解消することについて合理的な理由があると認められる場合であっても、当該労働者の当面の生活維持及び再就職の便宜のために、相応の配慮を行うとともに、雇用契約を解消せざるを得なくなった事情について当該労働者の納得を得るための説明を行うなど、誠意をもった対応をすることが求められるものというべきである。

 (上記のような観点から)以下、本件解雇が解雇権の濫用に当たるか否かを検討する。

 「いわゆる整理解雇の四要件は、整理解雇の範疇に属すると考えられる解雇について解雇権の濫用に当たるかどうかを判断する際の考慮要素を類型化したものであって、各々の要件が存在しなければ法律効果が発生しないという意味での法律要件ではなく、解雇権濫用の判断は、本来事案ごとの個別具体的な事情を総合考慮して行うほかないものである。」

 「Y銀行としては、Xとの雇用契約を従前の賃金水準を維持したまま他のポジションに配転させることができなかったのであるから、Xとの雇用契約を継続することは、現実的には、不可能であったということができ、したがって、Xとの雇用契約を解消することには、合理的な理由があるものと認められる。」

 「Y銀行は、平成9年4月のXに対する雇用契約の合意解約の申し入れに際し、就業規則所定の退職金約800万円に対して特別退職金等約2,330万円余の支給を約束し、同年9月の解雇通告に際し約335万円を上乗せし、同年10月には退職金名目で1,870万円余をXの銀行口座に振り込んでいるが、これはXの年収が1,052万円余であることに照らし、相当の配慮を示した金額である。さらに、Y銀行はXの再就職が決まるまでの間の就職斡旋会社のための費用を無期限で支払うことを約束しており、Y銀行はXの当面の生活維持及び再就職の便宜のために相応の配慮をしたものと評価できる。」

 「また、Y銀行は、関連会社の経理部におけるクラークのポジションを年収650万円でXに提案したが、当時、同ポジションには年収450万円の契約社員が十分に満足のいく仕事をしていたところ、退職予定のない同人を解雇してまでXにポジションを与えるべく提案をしたものであり、これに加えて、賃金減少分の補助として退職後1年間について200万円を加算して支給するとの提案もしたこと、加えて、Y銀行は、X及び組合との間で、Xの処遇について全7回、3箇月余りにわたって団交を行い、雇用契約を解消せざるを得ない事情について繰り返し説明を行ったこと、その他前記認定の本件解雇に至る経緯からすると、Y銀行は、でき得る限り誠意をもってXに対応したものといえる。」

 「(以上のとおり、)Xとの雇用契約を解消することには合理的な理由があり、Y銀行は、債権者の当面の生活維持及び再就職の便宜のために相応の配慮を行い、かつ雇用契約を解消せざるを得ない理由についても債権者に繰り返し説明するなど、誠意をもった対応をしていること等の諸事情を併せ考慮すれば、未だ本件解雇をもって解雇権の濫用であるとはいえない。」

(2)整理解雇の4基準

 整理解雇とは、経営上の問題を抱えた企業において、一定数の労働者を削減するために行われる解雇であって、その原因が使用者側にある解雇とされています。そのため、解雇権濫用法理を成文法化した労働契約法16条の適用を受けますが、整理解雇の場合、その有効性を4つの基準で判断する独自の枠組みが判例によって形成されてきました。有効性を判断するための4基準とは、次の通りです。
 
 ①人員削減の必要性があること
 ②解雇回避の努力を尽くしたこと
 ③被解雇者の人選基準と人選の合理性
 ④組合及び被解雇者との十分な協議をしたこと


 整理解雇の4基準にについては、4基準の1つでも欠けたら当該整理解雇は解雇権濫用に引っかかるとする4要件説と、全ての要件を充たさければ法律効果が発生しないという意味での法律要件ではなく、解雇権濫用の判断は、事案ごとの個別具体的な事情を総合的に考慮していく際の要素に過ぎないとする4要素説に分かれ、本判決は後者の立場を鮮明にしています。

(3)人員削減の必要性

 人員削減の必要性というとき、その必要性の程度が問題になってきます。人員削減の必要性とは、「人員削減が企業の合理的運営上やむを得ない必要性に基づくものであると認められること」とされています。つまり、倒産が目の前に迫っているというほどの高度の必要性まで要求しているわけではないのですが、かといって、経営不振でさえない企業が単に戦略上の必要性を理由として整理解雇を行うことまで認めているわけではないのです。多くの判例は、企業の財政状況が赤字状態ならば、人員整理の必要性を肯定しています。

(4)解雇回避努力

 人員削減の必要性が認められても、解雇以外の措置(配転・出向、希望退職者の募集等)で対処できれば、整理解雇の必要は否定され得ることになります。希望退職者の募集に関しては、加算される退職金の額等が従業員を任意の退職へと誘導ために十分な好条件が盛込まれていない場合、解雇回避努力が尽くされたと認められないときがあります。また、希望退職者募集の不実施は、相当な理由がない限り、解雇回避努力義務に反することになります。

(5)人選の合理性

 人選の合理性は、被解雇者を選定するための整理基準の内容及びその適用について検討されます。整理基準の内容では、経営上の必要性の面から、各労働者の能力や勤務成績等が基準となります。また、整理解雇が実施されることで労働者が受ける不利益の程度の面からは、各労働者の家族状況、年齢、勤続年数及び転職の難易度などが基準となりえます。判例は、基準が抽象的、曖昧で明確性に欠ける場合、人選基準の合理性を否定しています。また、基準自体合理性を有していても、基準の適用に客観性や公平性を欠いていれば、人選の合理性が否定されることになります。

(6)組合及び被解雇者との十分な協議

 判例によると、使用者は、労働協約に解雇協議・同意条項が規定されていなくても、信義則上、特段の事情が無い限り、労働組合又は労働者に対し、当該整理解雇について説明を行い、協議すべき義務を負うとされています。協議に際して説明すべきとされる事項は、①経営状況等の人員削減の必要性、②整理解雇の規模及び時期、③解雇回避措置の内容、④被解雇者の選定基準、⑤退職金の特別加算額等の退職の条件、⑥再就職支援措置等の内容、などです。

中国経済の基礎知識

 今やGDPで我が国を抜き去り、世界第2位の経済大国にのし上がった中国ですが、為替を米国ドルに連動させる管理フロート制を採用しています。このことが、米国では中国を為替操作国に認定すべきであり、中国の為替操作についてWTOに提訴すべきであるという主張が繰り返され、米中貿易摩擦の原因にもなっています。


1.管理フロートとは何か

 中国は、輸出依存の経済成長政策を採用しているために、人民元の外国為替レートを米国ドルに連動させ、人民元安に誘導する管理フロート制(=一種の固定相場制)を維持しています。ちなみに、中国のGDPに占める輸出の割合は、2010年で約27%、同じく輸入は24%程度であり、輸出13%、輸入12%程度の我が国に比べかなり高くなっていることが分かります。

 ここで、中国の管理フロート制がどのように運用されているのか、我が国の為替介入と対比しながら見てゆくことにいたします。我が国にしても中国にしても経常収支の黒字国であり、自国通貨高の傾向が強く見られます。そこで、米国ドル買い、自国通貨売りの為替介入を行うのですが、その場合売るための自国通貨をどうやって調達するか問題になります。中国の場合、中央銀行である中国人民銀行が準備預金を増やすことで自国通貨の調達を行っています。準備預金を増加させるとは、新たに通貨を発行するということと同義です。中国人民銀行は、このようにして調達した人民元を市場に売り、ドルを購入、そのドルを米国債などで運用することになります。また、これらの外貨建て資産は外貨準備として積み上がるというのが、管理フロート制の仕組みです。

 これに対して、我が国の場合、変動相場制を採用しているため、為替介入は原則禁じ手です。しかし、実体経済を反映しない異常な円高に対しては、これまでも何度か円売り介入を実施してきました。その方法は、日本政府が国内の金融機関に対して、政府短期証券を発行し、円を調達します。次に、政府は国内金融機関から借りた円を日銀を通じて売却し、ドルを購入します。米国債などを購入し、外貨準備として保有する点は中国と同様です。この介入方式で注意すべき点は、日本政府が民間から一旦円を借入れた上で、その円を同額市場に売却しているということです。従って市場に在る円の流通量は、全体として見れば増減しないのです。この後、しばらくして短期証券が満期を迎えたとき、全額償還してしまえば円の流通量は増加しますが、通常借換えが行われます。

 ところが、中国の為替介入は日常的に行われているため、日本方式ではたちまち政府の負債残高が膨らんでしまいます。従って、通貨を新たに発行する方式で実施されているわけですが、このことは、中国の場合、為替介入を行えば行うほど、市中の通貨流通量が増加することを意味しています。つまり、中国経済は管理フロート制を採用しているために、常に過剰流動性の問題をかかえ、インフレを助長しやすい体質を本質的に抱えているということがいえそうです。

 そこで、人民元が米国ドルと実質的に為替レートが固定されているならば、金利の低い米国ドルで調達して、人民元に交換し、インフレで金利の高いはずの人民元で預金してはどうかと思ったのですが、外貨預金を扱っている○×銀行の人民元定期預金の金利は税込みで1年物0.22%ほどでした(香港ドルはさらに低い金利)。米ドルの1年物は0.06%ですから、若干高い程度です。為替の手数料まで考慮に入れると敢えてやってみる価値はなさそうでした。


2.外貨準備とは何か

 中国政府が、変動相場制ではなく管理フロート制を採用している理由は、自国通貨高になって輸出競争力が維持できなくなることを恐れているからだろうと推察されます。中国は、今や世界の工場とまで称される経常収支黒字国ですから、自国通貨高を回避し、管理フロートを維持するためには、前述の通り、日常的に為替介入を行うことになります。その結果、民間が稼いだ米国ドルを中国人民銀行が人民元に交換してやり、政府は外貨準備を積上げていくということが継続的に行われていることになります。つまり、中国の外貨準備高が巨額かつ対外資産に占める割合も高くなりがちな理由も管理フロート制によって説明されることが分かります。ちなみに、我が国の対外資産は2011年末で582兆円(対外負債は329兆)で世界一の対外純資産国ですが、外貨準備は約97兆円で、外貨準備の対外資産に占める割合は16.8%に過ぎません。
 

企業年金をめぐる最近の報道から2

1.ソシエテ信託銀行に業務停止命令

 16日、金融庁は、長野県建設業厚生年金基金から資産の運用を委託されていた仏系大手金融機関の日本法人ソシエテジェネラル(SG)信託銀行に対し、信託業務兼営法や金融商品取引法に基づき3箇月の一部業務停止命令を下しました。この事件では、長野県建設業厚生年金基金から委託された資産総額は68億円にのぼる運用資産がSG社他3社を介して未公開株に投資され、現時点で22億円まで目減りしていると伝えられています。

 金融庁が発表したSG社に対する主要な行政処分の内容は、銀行法第26条第1項及び金融機関の信託業務の兼営等に関する法律第9条の規定に基づくもので、以下の2点です。

(1)平成24年10月23日(火)から平成25年1月22日(火)までの間、法人部門における信託業にかかる業務(平成24年10月22日以前の既存の契約によりすでに受託した信託財産の運用・管理・返還に係る業務、業務改善命令の実施に必要な業務及び当庁が個別に承認した業務を除く)を停止。

(2)平成24年10月23日(火)から平成24年11月22日(木)までの間、プライベートバンキング部門における信託業にかかる業務(平成24年10月22日以前の既存の契約の信託財産の運用・管理・返還に係る業務、業務改善命令の実施に必要な業務及び当庁が個別に承認した業務を除く)並びに外貨預金、仕組預金等リスク性商品の勧誘(広告、宣伝を含む)及び受入れにかかる業務を停止。

 また、処分の理由としては、主に以下のような点が指摘されています。

(1)年金信託業務における善管注意義務違反
 SG社は、指定運用の年金信託業務において、未公開株式への投資事業を目的とする投資事業有限責任組合(以下、「組合」という)に対して出資しているが、以下のとおり、指定運用の年金信託受託者に求められる管理を行っておらず、金融機関の信託業務の兼営等に関する法律第2条第1項で準用する信託業法第28条第2項に規定する善管注意義務に違反していること。

 a)組合への当初出資において、SG社経営陣は、外部弁護士の法律意見書などにより、投資対象先である組合及びその運用者である組合の無限責任組合員(以下、「GP」という。)に対する十分なデューデリジェンスの必要性を認識していたにもかかわらず、引受審査の権限や方法について明確化しておらず、組合の投資対象範囲やGPの運用経験・能力等に係るデューデリジェンスを、運用責任者であるファンドマネージャーではなく、営業担当者のみに行わせ、かつ法務・コンプライアンス部等の内部管理部門に検証を行わせていないこと。
 b)組合への追加出資においても、SG社は、依然として指定運用の年金信託受託者に求められる管理の枠組みを構築しておらず、同組合及びGPに対するデューデリジェンスを行わないまま出資していること。
 c)SG社は、指定運用の年金信託受託者として、GPによる事業運営を継続的に監視する義務を果たすための態勢を構築していない。このため、営業部門及び業務管理部門の責任者は、組合の投資先である未公開企業に、監査法人が不適正意見を述べている企業など、投資先の選択として適切でなかった可能性がある企業が含まれていることを認識していたにもかかわらず、GPに対して事業運営の是正を求めるなどの適切な対応を取っておらず、当社は長期にわたりこれを看過していること。

(2)プライベートバンキング業務における法令違反
 SG社は、プライベートバンキング部門に対する牽制態勢を適切に構築していないことなどから、以下のとおり、法令違反が認められること。

 a)同一グループ内のヘッジファンドを信託財産に組み入れる取引をする場合の顧客説明に当たって、当該取引は利益相反取引に該当するにもかかわらず、利益相反取引について記載した顧客説明書面を作成し、顧客に対し交付しておらず、金融機関の信託業務の兼営等に関する法律第2条第1項で準用する信託業法第29条第3項に違反していること。
(以下、b)、c)は省略)

 また、長野県警から詐欺容疑で捜索を受けた株式会社アール・ビーインベストメント・アンド・コンサルティング(以下「RB社」という)から、RB社を運営者とし未公開株を投資対象とする投資事業有限責任組合に、長野県建設業厚生年金基金との間で年金一任契約を締結して運用を委託された資産を当該事業組合に全額出資したとされるユナイテッド投信投資顧問株式会社及びナレッジキャピタルを運営責任者とする投資事業有限責任組合に同様の出資を行っていたとされる一任業者スタッツインベストメントマネジメントに対しても金融庁から行政処分を行ったことが公表されています。


2.AIJ運用委託の2基金解散へ

 前述の長野県建設業厚生年金基金は、AIJ投資顧問に約67億円の運用を任せていたことでも知られていますが、今回AIJ投資顧問に資産の一部運用を任せていた北海道内の4つの厚生年金基金のうち、既に解散を決めた北海道電気工事業厚生年金基金に加え、新たに2基金が解散の方針を固めたと伝えられています。

 解散を決めたのは、トラック業者約350社による北海道トラック厚生年金基金(AIJ委託 約22億円)及びガソリンスタンド業者など約380社による北海道石油業厚生年金基金(AIJ委託 約40億円)です。ともに株価低迷による運用利回りの悪化で厚労省から財政健全化を目指す指定基金に指定されていたのに、巨額の企業年金資産を消失させたAIJ問題が追打ちをかける格好となりました。解散時の負担をできるだけ減らせるように国の制度改正に向けた作業を注視しているところといわれます。また、唯一残っている北海道乗用自動車厚生年金基金(AIJ委託 約15億円)も指定基金であり、厳しい状況には変わりないようです。

退職の意思表示_大隈鐵工所事件

 退職(労働契約の終了)と一言で表現される事象には、労働者と使用者が合意することによって労働契約を将来に向けて解約する法律行為と、労働者による一方的な労働契約の解約である「辞職」及び使用者からの一方的な労働契約の解約である「解雇」の3つの態様が含まれています。

 「退職届」又は「退職願」が労働者から使用者に提出された場合、これが、一般に「退職届」は「辞職の意思表示」、「退職願」は合意解約を求める労働者からの「申出」との解釈ができそうですが、「辞職の意思表示」なのか、「合意解約を求める労働者からの申出」なのかは、労働者自身がどのような趣旨で「退職届」を提出したのかによって判定せざるを得ないのです。実務では、我が国の労使関係を考慮して「合意解約の申出」と解釈されることが一般的です。

 そこで、「退職届」又は「退職願」を提出した労働者が申出を撤回したとき、どのような問題が生じるか、大隈鐵鋼事件(最高裁昭和62年9月18日判決)を採り上げ、検討を加えます。


1.事案の概要

 Xは、大学卒業後、昭和47年(1972年)4月、Y社に入社しました。入社後、Xは社内において同期入社のAとともに、日本民主青年同盟(民青)の活動を行っていました。ところが、同年9月24日にAが会社の寮に戻らず、行方不明となりました(同月29日午後に行方が判明、翌30日帰宅)。

 翌25日、人事部の調査によって、A失踪の当日XがA宅を訪問した事実が判明し、また、寮にあるAの部屋からXの氏名が記載されたノートが、また、A周辺から民青活動の資料等が発見されました。そのため、Xは25日及び26日会社の人事担当者等からAの失踪に関する事情聴取を受けていましたが、Aの失踪に関して心当たりはなく、民青活動に関することは何も話しませんでした。

 翌27日、B人事部長らは、Xに対し、Aとの交友関係につき隠し事はなくAの失踪とは無関係であること、A宅訪問を当初否認したこと、Aの父親に対し口裏合わせの工作電話を試みたことは懲戒に値するものでこれを甘受すること、以上の内容に偽りがあった場合は処分を受ける前に潔く自分から身を引くといった内容の「詫び書」を書かせ、これを受取りました。

 翌28日、B人事部長は、会社応接室にXを呼んで、A周辺から発見された民青活動の資料を机の上に置きながら、「この記事の中からA君の手掛かりが出てこないか、君一つ見てくれないか」と述べたところ、Xは、上記資料に手を触れないまま茫然自失の状態で暫時沈黙していたが、突然「私は退職します。私はA君の失踪と全然関係ありません」と申し出ました。B部長は、民青同盟員であることを理由に退職する必要はない旨を告げてXを慰留しましたが、Xがこれを聞き入れなかったため、退職願の用紙をXに交付したところ、Xはその場で必要事項を記入して署名拇印した上、これをB部長に提出し、B部長はこれを受領しました。

 翌29日朝、Xは前日の退職届を撤回する旨申し出ましたが、会社はその申出をを拒絶、そこで、Xが従業員としての地位確認を求めて提訴したものです。

 第1審は、退職の意思表示には動機の錯誤があるとして、法律行為の無効の主張を認めました。第2審の名古屋高裁では、錯誤を否定しましたが、退職辞令書の交付など明示的な解約承諾の意思表示がないこと、Xの入社の際の採用手続きとの対比で、B部長による退職願の受理を解約の申出に対する承諾と解することはできないとして、Xによる退職の意思表示の撤回を認める判決を下していました。そこで、Yがこれを不服として上告したものです。


2.解 説

(1)判決要旨

 破棄差戻し。

①「私企業における労働者からの雇用契約の合意解約申込に対する使用者の承諾の意思表示は、就業規則等に特段の定めがない限り、辞令書の交付等一定の方式によらなければならないというものではない。」

②「労働者の退職願に対する承認は(採用の場合)とは異なり、採用後の当該労働者の能力、人物、実績等について掌握し得る立場にある人事部長に退職承認についての利害得失を判断させ、単独でこれを決定する権限を与えるとすることも、経験則上何ら不合理なことではないから、退職願の承認について人事部長の意思のみによってY社の意思が形成されたと解することはできないとした原審の認定判断は、経験則に反するものというほかない。」

③「B部長にXの退職願に対する退職承認の決定権があるならば、原審の確定した前記事実関係のもとにおいては、B部長がXの退職願を受理したことをもって本件雇用契約の解約申込に対するY社の即時承諾の意思表示がされたものというべく、これによって本件雇用契約の合意解約が成立したものと解するのがむしろ当然である。」

(2)論点の整理

 本件で明らかになった論点は、次の3点に集約されてきます。

(ⅰ)本件Xの意思表示を「辞職の意思表示」とみるか、「合意解約を求める労働者からの申出」とみるのか。
 本件Xの意思表示について、高裁は、Xは「Y社の承認があれば、即時に雇用関係から離脱したいと考えて」いたとして、「合意解約の申入れ」と評価しています。これは、「辞職」は一方的解約通告の意思表示であって、相手方への到達後は原則として撤回できないと解されるので、その認定は慎重に行うべきであり、労働者の意思が明らかに辞職であると解される場合を除き、「合意解約の申込み」と解すべきという判例の一般的傾向がありますが、本判決もその線にそったものといえます。

(ⅱ)本件Xの意思表示に瑕疵があったか、否か。
 本事案の第1審及び控訴審では、Xの意思表示に錯誤があり、解約の申込みは無効ではないかという点が争点になりました。意思表示の瑕疵の問題は、民法総則93条(心裡留保)から96条(詐欺又は脅迫)に詳細が規定されている事柄に関することです。  

(ⅲ)本件Xの意思表示の撤回はいかなる場合に可能なのか。
 (ⅰ)で述べたように原則的に「合意解約の申込み」と解すべきであるならば、「これに対して使用者が承諾の意思表示をし、雇用契約終了の効果が発生するまでは、使用者に不測の損害を与える等信義に反すると認められるような特段の事情がない限り、被用者は自由にこれを撤回することができる」とするのが一般に判例の考え方とされています。

 そのような枠組みの中では、使用者による承諾があったか否かが、決定的な意味を持つことになります。(1)判決要旨①は、承諾の意思表示が口頭であってもかまわないという趣旨であり、③で人事部長の退職願の受理をもってY社の合意解約の承諾の意思表示と認定し、合意解約の成立したものと解するのが当然であると結論付けています。

(心裡留保)
第93条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

(虚偽表示)
第94条 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。


(錯誤)
第95条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。


(詐欺又は強迫)
第96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

 

復興特別所得税と源泉徴収

 消費税引上げは、今後当分のあいだ議論の的になりそうですが、増税の動きは来年1月から始まります。平成23年12月2日に「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源を確保に関する特別措置法」が公布されており、所得税の源泉徴収義務者は、平成25年1月1日から平成49年12月31日までの間に生ずる所得について源泉所得税を徴収をする際、復興特別所得税を併せて徴収し、源泉所得税の法定納期限までに、復興特別所得税を源泉所得税に併せて国に納付することになっています。


1.復興特別所得税の税率及び課税額

 源泉聴取すべき復興特別所得税の額は、源泉徴収すべき所得税の額の2.1%相当額で、所得税の源泉徴収の際に所得税の源泉徴収に併せて徴収することとされています。実務的には、源泉徴収の対象となる支払い金額等に対して、所得税と復興特別所得税の合計税率を乗じて計算した金額を徴収し、1枚の所得税徴収高計算書で納付します。

 合計税率(%)=所得税(%)× 1.021
20121011_復興所得税税率

(事例)所得税率10%で、報酬として200000円支払った場合
 200000円 × 10.21% = 20420円

(註1)所得税及び復興特別所得税の額の端数計算は、所得税及び復興特別所得税の合計額によって行うこととされています。したがって、源泉徴収の対象となる支払金額等に対して、所得税率と復興特別所得税率の合計税率を乗じて算出した金額について1円未満の端数を切り捨てた金額を源泉徴収します。


2.復興特別所得税と給与の源泉徴収及び年末調整

 平成25年1月1日以後に支払う給与等から源泉徴収すべき所得税及び復興特別所得税の合計額は、「源泉徴収税額表」に当てはめて算出していただくこととなります。なお、平成25年1月1日以降に復興特別所得税を併せて源泉徴収する際に使用する「源泉徴収税額表」は復興特別所得税を含んだ税額表に変更されます

 年末調整は、所得税及び復興特別所得税の合計額により行います。なお、年調年税額(年末調整による年税額(復興特別所得税を含む。))は、算出所得税額から住宅借入金等特別控除額を控除した後の税額に1.021を乗じた金額(100円未満切捨て)となります。


3.年末をはさむ場合の考え方

 平成25年分の年末調整により生じた超過額を平成25年1月に支払う給与等から源泉徴収した所得税及び復興特別所得税の額から控除する場合、従前同様、給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(納付書)の「年末調整による超過税額」欄にその控除する額を記載します。

 復興特別所得税は、居住者又は非居住者については平成25年から平成49年までの各年分の所得に係る一定の所得税額を、内国法人又は外国法人については平成25年1月1日から平成49年12月31日までの間に生ずる所得に係る一定の所得税額を基準として課税することとされています(復興財源確保法第9条)。例えば、平成24年10月に支払が確定している所得について、実際の支払が平成25年1月1日以後になったとしても、復興特別所得税を源泉徴収する必要はありません。

 一方、契約又は慣習その他株主総会の決議等により支給日が定められている給与については、その支給日がその給与の収入すべき時期とされています(所得税法第36条第1項、所得税基本通達36-9)。したがって、平成24年12月分の給与について平成25年1月4日に支払う(例年そのような支払い方になっている)場合は、平成25年1月4日が収入すべき時期となり、平成25年分の所得となりますので、復興特別所得税を源泉徴収する必要があります。