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企業年金をめぐる最近の報道から

 AIJ投資顧問事件は、パンドラの箱を開けてしまったようです。厚生年金基金をめぐる問題がここにきて次々と表面化してきています。厚生労働省は、厚生年金基金制度を廃止する方針を固め、廃止に関する具体的な方法については、10月にも社会保障審議会年金部会に委員会を設置して詳細を検討した上で、年内にも厚労省案をまとめる方針を打出しています。


1.資産運用の失敗

 「AIJ投資顧問の年金資産詐欺事件で被害を受けた長野県建設業厚生年金基金(長野市)が別の資産運用でも多額の損失を出し、委託先の信託銀行などの運用管理体制に問題があった可能性があるとして、金融庁と証券取引等監視委員会が調査していることが6日、明らかになった。運用状況に関する最低限の確認を怠るといった重大な不備が見つかれば、信託銀行などは行政処分の対象となる見通し。(10月6日 時事通信)」

 まず、資産運用の悪化の問題です。長野県建設業厚生年金基金は、AIJに約34億円(運用基金の30%超)を委託していた上に、更なる損失ということですから、今後の運用で挽回することはまず考えられず、企業からの新たな拠出が必須ということになります。しかし、同基金のように多額の損失を出すような明らかな運用の失敗というのは、同基金固有の問題として、厚年基金全体の問題として一般化することではないのですが、デフレ経済による運用環境の悪化は厚年基金全体が直面している問題といえそうです。

 また、信託銀行は、一般に年金基金と信託契約を結び、管理業務を担当しています。資産運用会社による運用業務も信託銀行に運用指図を出し、信託銀行が取引の執行を行います。運用及び資産管理の状況は、信託銀行によって把握され、確認された上で管理されていることになっています。従って、AIJ投資顧問のときのように、ある日突然多額の損失が表面化するというのは、そもそも資産管理上何らかの瑕疵があったといわざるを得ないのです。


2.厚生省は厚生年金基金廃止へ

 「厚生労働省は27日、AIJ投資顧問の年金消失事件を受け、主に中小企業が加盟し財政が悪化している厚生年金基金制度を廃止する方針を固めた。28日に開く厚生年金基金の特別対策本部会合で決定する。廃止に関する具体的な方法については、10月にも社会保障審議会年金部会に委員会を設置し、詳細を検討する。年内に厚労省案をまとめ、来年の通常国会での関連法案提出を目指す。
 2011年度末で全国には576の基金があり、掛け金を払う加入者は約447万人。厚労省は厚年基金に企業年金への移行を促す方針だが、解散を余儀なくされる基金も出てきそうだ。制度廃止には厚年基金側の反発が予想される。廃止時期は、準備期間が必要なため十年程度先を念頭に置き、一定の経過期間を設ける。
 厚年基金は、公的年金である厚生年金の一部(代行部分)と、企業が独自に上乗せした年金をあわせて運用している。ただ、運用成績悪化で代行部分の積立金が不足する基金が続出している。このため、厚年基金制度の廃止論が浮上していた。基金を解散する際は、代行部分を国に返さなければならないが、会合では積み立て不足の基金が解散しやすくする方策も打ち出す。代行部分の返済を加盟する母体企業で連帯して負う仕組みも見直しを検討する。
 代行部分の積み立て不足に陥っている厚年基金の解散を促す場合、不足分を厚生年金保険料などで埋める事態が発生しかねず、不足分を広く負担することになる保険加入者らの理解が得られるかどうかも今後の課題となりそうだ。(9月28日 東京新聞)」

 泡沫経済がはじけた影響が20年も続いている我が国では、年金基金の運用難は1990年代から認識されていたことです。これに加えて、2000年に退職給付会計が導入されると、余裕のある大手企業から年金債務の負担の増大を回避するために厚年基金から新型の企業年金に移行する動きが盛んに見られました。すなわち、我が国がデフレ経済を克服して経済成長路線に回帰し、基金の運用難の問題が解決されない限り、厚年基金が持続困難であることはとっくの昔に分かっていたのです。しかし、厚労省は、残っていた厚年基金について、これまで事実上放置してきたため、ここにきて廃止の方針を決めても、課題は山積なのです(厚生年金基金の何が問題なのか)。

 最大の課題の一つは、代行割れの問題です。厚労省が、ことし3月末時点の基金の財政状況を緊急に調査したところ、全体の半数に当たる286の基金で、厚生年金の支給に必要な積立金が不足し、不足額も合わせて1兆1100億円に達していることが明らかになっています。基金を解散する際には代行部分に相当する最低責任準備金を国に返上する必要があります。足りない分は加入企業が穴埋め拠出しなければなりません。しかし、拠出金を負担する余力がないため、解散しようにもできない状態の厚年基金も当然存在するのです。加入企業が連帯して返すことになっているため、拠出金負担に耐えかねて倒産するところが出かねない状況では、加入企業の負担は増加するばかりです。

 このため、会合では、連帯責任の仕組みを廃止することや返済額の減額を検討することを確認しています。その場合の不足分は厚生年金などから穴埋めすることになるのか、基金に関係のない厚生年金の被保険者に付けを回してよいのか、といった非常に困難な問題を含んでいることが分かります。

 また、財政が比較的健全な厚年基金からは、一律廃止の方針に関して異論が出てくることも十分予測されます。これまでの事実上放置から、一挙に制度廃止というのは、いくらAIJ投資顧問事件があったとはいえ、極端で性急過ぎる方針転換のように思えます。その前に、金融政策及び財政政策の舵を「デフレ経済からの脱却」と「円高是正」を2大目標にして大きくきり、運用難から抜け出す努力をすべきなのでしょう。


3.新会計基準の導入

 さらに、来年度から、2000年導入の会計基準よりさらに厳しい退職給付会計が導入されます。こうなると、既に新型企業年金に移行を済ませている大企業でさえ、退職給付引当金が膨らみ自己資本比率が低下するなどの問題をかかえるところが出てくるものと予想されます。

 「企業会計基準委員会は、来年度(平成26年3月期)から、企業年金の積み立て不足の全額を、貸借対照表(バランスシート=BS)に計上する新たな会計基準の適用を義務づける。これまでの日本の会計基準では、積み立て不足額全額をBSに計上する必要がなく、不足額は15年以内に分割して処理すればよかった。このため、退職給付引当金として負債計上している金額が、新基準で必要になる計上額に比べて大幅に少ない企業が多い。
 シャープの場合、24年3月期の連結BSに退職給付引当金として60億円を計上しているが、実際の積み立て不足額は784億円に上る。同社は25年3月期決算で2500億円の最終赤字となる見通しを発表しており、BS上の2兆円規模の負債に対し自己資本は3950億円程度に急減。26年3月期に積み立て不足が反映されれば、自己資本がさらに大きく減るとみられる。
 新基準が適用される背景には、海外の投資家などから出されていた「日本の基準は損失の先送り」との批判があった。海外には、積み立て不足はいずれ解消しなければならない問題との認識があり、米国基準や国際財務報告基準(IFRS)は、積み立て不足を一括で負債としてBSに計上するよう定めている。新制度では、年金資産の運用方法の内訳や退職したOBへの支払額などの開示も義務づけている。(10月5日 MSN産経)」

出産手当金と継続給付

 月刊社労士の9月号の社会保険審査会裁決事例で「不支給とされた出産手当金」が採り上げられていました(34頁)。健康保険の継続給付については、以前に傷病手当金のところでも解説を試みましたが(「傷病手当金_資格喪失後の継続給付(2)」
、今回は出産手当金について考えてみます。継続給付の考え方は、傷病手当金の場合と全く同様です。


1.出産手当金の期間と受給金額

 そもそも出産手当金は、どのような状況でどのくらいの期間受給できるのかという点です。出産手当金は、健康保険の被保険者が出産の日(註1)以前42日目(註2)から出産の日の翌日以後56日目までの範囲内で会社を休んだ期間について支給されます。但し、この期間に、出産手当金の額を上回る報酬を受けていた場合、出産手当金は支給停止されます。

 また、支給額は、1日につき標準報酬日額の3分の2に相当する金額です。なお、会社を休んでいた期間について事業主から報酬を受けた場合は、出産手当金の支給額が減額調整されます。


2.継続給付の問題点

 出産手当金の受給には、傷病手当金の場合と同様、継続給付といわれる制度があります。要は、出産手当金を受給していた被保険者が一定の要件を備えることによって、退職後も引続き出産手当金の受給を可能足らしめる制度のことです。この要件とは、退職日までに継続して1年以上被保険者であった者が、出産の日(註1)以前42日目(註2)から出産の日の翌日以後56日目までの間に退職した場合で、(1)退職の日に現に出産手当金の支給を受けていたとき、又は(2)退職日に出産手当金の支給が給与報酬との調整により支給停止されていたとき、というものです。

 この要件の(1)又は(2)の意味するところは、出産手当金が支給される期間が出産の日(註1)以前42日目(註2)から出産の日の翌日以後56日目までの間というある一定期間に限定されているものの、手当金の支給自体は会社を休んだ日の1日ごとに見て行きます。このため、退職日に敢えて出勤し(例えば、退職の挨拶のために出勤したとか)、労務に服する行為を行った場合、ここで出産手当金を現に支給されていた状態が止まり、継続が途切れたものと見るのです。

 「その資格を喪失した際に傷病手当金又は出産手当金の支給を受けているもの」は、現に退職日において出産手当金を受けていなくても、その受給権を取得したが出産手当金の額を上回る報酬を受けいるとして支給停止されているものを含むと解されています。

 なお、月刊社労士9月号で採り上げられた事例は、本件会社が社会保険事務所業務課に照会した際、当該退職日に出勤し労務に服することを避ける必要があることを明確に説明されなかったために、請求人は退職日に出勤して労務に服した(お盆明けの多忙期だったため)というものです。その結果、請求人は出産手当金を継続して給付されない不支給の処分を受けましたが、事の発端である社会保険事務所の説明があまりに不適切だったということで、社会保険審査会が原処分を取消したというものです。

(註1)予定日より遅れて出産した場合は、支給期間が出産予定日以前42日から出産日後56日の範囲内となっていますので、予定日から実際に出産した日までの期間も出産手当金が支給されることになります。
(註2)多胎妊娠の場合は98日

(健康保険法)
第104条 被保険者の資格を喪失した日(任意継続被保険者の資格を喪失した者にあっては、その資格を取得した日)の前日まで引き続き1年以上被保険者(任意継続被保険者又は共済組合の組合員である被保険者を除く。)であった者(第106条において「1年以上被保険者であった者」という。)であって、その資格を喪失した際に傷病手当金又は出産手当金の支給を受けているものは、被保険者として受けることができるはずであった期間、継続して同一の保険者からその給付を受けることができる。

 
2012_東京上野浅草周辺+020