私生活上の非行と懲戒解雇_横浜ゴム事件

 労働契約法15条は、「...当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」と定めています。「客観的に合理的な理由」とは、就業規則該当事由・処分記載の原則とほぼ同義と考えてよいと思います。懲戒処分を行うためには、懲戒に該当する事由と各懲戒該当事由に対応する懲戒の種類及び程度が就業規則に具体的に記載されていなければならず、労働者の行為がその記載されている事由に該当しているかどうかということです。「社会通念上相当であると認められ」るとは、その事由に照らして対応する懲戒の種類及び程度が妥当なものであると判断できるかどうかということです。

 使用者の懲戒権の根拠は「使用者の企業秩序定立・維持権限」に求められるとするならば、一般に使用者の懲戒権は、労働者の私生活上の言動にまでは及ばないと考えられます。しかし、労働者の私生活上の言動であっても企業の社会的評価を毀損するなどの場合には、「使用者の企業秩序定立・維持権限」を行使できると考えられます。それでは、使用者が懲戒権を行使できるほど労働者の私生活上の言動であっても企業の社会的評価を毀損するなどの場合とは、具体的にはいかなる場合が当てはまるのかが問題になります。

 以上の論点を踏まえた上で、私生活上の非行と懲戒解雇の事例、横浜ゴム事件(最高裁昭和45年7月28日)を取り上げます。


1.事案の概要

 X(原告・被控訴人・被上告人)は、Y社(被告・控訴人・上告人)タイヤ工場製造課の作業員として勤務していました。昭和40年8月1日午後11時20分頃、Xは飲酒した上で、他人の居宅の風呂場を押し開け、屋外に履き物を脱ぎ揃えてから同所から屋内に忍び入りましたが、家の者に誰何されたため直ちに屋外に立ち出で、履き物を捨てて逃走したが、まもなく私人に捕まり警察に引き渡されました。Xは住居侵入罪に問われ、罰金2500円の刑に処せられました。

 その後数日を経ないうちに、Xの犯行及び逮捕の事実が噂として広まり、工場近辺の住民及びY社従業員の相当数の者が当該事実を知ることとなります。Y社は、賞罰規則所定の「不正不義の行為を犯し、会社の対面を著しく汚した者」に該当するとして、同年9月17日にXを懲戒解雇しました。XはY社に対して雇用契約上の地位確認を求めて訴訟を提起しましたが、1審及び2審ともにXの請求を認容する判決を下しました。これに対してY社が下級審判決を不服として上告したものです。


2.解 説

(1)判決要旨

 原審の結論を支持し、Y社の上告を棄却。

 右犯行の時刻その他原判示の態様によれば、それは、恥ずべき性質の事柄であって、当時Y社において、企業運営の刷新を図るため、従業員に対し、職場諸規則の厳守、信賞必罰の趣旨を強調していた際であるにもかかわらず、かような犯行が行われ、Xの逮捕の事実が数日を出ないうちに噂となって広まったことをあわせ考えると、Y社が、Xの責任を軽視することができないとして懲戒解雇の措置に出たことに、無理からぬ点がないではない。しかし、翻って、右賞罰規則の規定の趣旨とするところに照らして考えるに、問題となるXの右行為は、会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行われたものであること、Xの受けた刑罰が罰金2500円の程度に止まったこと、Y社におけるXの職務上の地位も蒸熱作業担当の工員ということで指導的なものでないことなど原判示の諸事情を勘案すれば、Xの右行為が、Y社の対面を著しく汚したとまで評価するのは、当たらないというほかはない。

(2)懲戒権の根拠と私生活上の非行

 懲戒処分とは、使用者が「その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し」て科する制裁罰という性格を有するものです。そもそも労働者は企業秩序遵守義務を負い、使用者は企業秩序定立権を有しており、労働者の企業秩序違反行為に対し、懲戒処分を行うことができるとされています。そして、企業の円滑な運営に支障を来たすおそれのある場合には、職場外で為された職務遂行に関係のない労働者の行為も企業秩序違反となるとして、企業秩序概念が私生活領域にも及ぶことを示した最高裁判決があります(関西電力事件、最高裁判決昭和58年9月8日)。

 とはいえ、裁判所の判断には、業務外で為された私生活上の非行について懲戒権が行使された場合には、就業規則にある懲戒規定に限定解釈を加えることにより懲戒事由の該当性を否定したり、又は、諸般の事情を総合判断することにより、処分の相当性を否定するといった厳格で制限的な姿勢が見て取れます。例えば、「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」という懲戒解雇事由の該当性について、「必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、

①当該行為の性質、情状のほか、
②会社の事業の種類・態様・規模、
③会社の経済界に占める地位、経営方針及び
④その従業員の会社における地位・職種等

諸般の事情から総合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない」との一般的基準を設定し、それに基づき具体的な判断を行うとした最高裁判決があります(日本鋼管事件、最高裁判決昭和49年3月15日)。

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自民党総裁選と年金資格期間の短縮

 9月26日午後の自由民主党総裁選挙は、「近いうち」に実施されるとされている総選挙で自民党政権が成立すると見込まれていることから、実質的な次期首相選びということで注目を集めました。結果は、国会議員による決選投票の結果、安倍晋三元首相(58)が石破茂前政調会長(55)を破り、第25代総裁に選出されました。自民党総裁選で2位候補が逆転して勝利したのは、結党翌年の昭和31年(1956年)以来、56年ぶりとのことです。この時は、1位の岸信介氏に対して2位の石橋湛山氏と3位の石井光次郎氏の陣営が、上位となった候補に下位の候補が票を投じる「2―3位連合」により、決選投票で石橋氏が逆転したというものでした。なお、安倍氏の任期は平成27年(2015年)9月末までの3年間となります。

 ところで、総裁選中の安倍氏の主張の要点は、従来の1.敗戦体制からの脱却ということに加え、今回新たに加わったのが、2.デフレ退治と成長経済への回帰です。また、その延長線上で、デフレ退治ができない状況下では、平成26年4月に予定される消費税引上げを行わないと明確に述べておられます。2番目の経済政策、特に消費税引上げの判断について景気弾力条項(「消費税増税法案衆院通過」)の適用をまじめに考えていくという点は、社会保険の実務にとっても大きな影響を及ぼしそうです。なぜなら、年金機能強化法では、平成27年10月施行分、即ち、消費税が10%に引上げられることを前提に、受給資格をこれまでの25年から10年に大幅に短縮することが規定されているからです。しかし、この制度改正の最大の問題点は、肝心の消費税引上げ自体が、景気弾力条項によって見直される可能性が残っていることで、経済成長がここ数年のように停滞したままの状況であれば、時の政権は「その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」となっている点です(「年金機能強化法の内容」)。
20120926_自民党総裁選結果

継続審議となった社会保険関連法案の整理

 今月8日に国会が閉幕したため、厚生労働省から今国会に提出されておりました「国民年金法の一部を改正する法律案(主婦年金追納法案)」、「国民年金法等の一部を改正する法律等の一部を改正する法律案」及び「年金生活者支援給付金の支給に関する法律案」が継続審議となりました。今回は、これらの内容について整理しておきたいと思います。


1.国民年金法の一部を改正する法律案(主婦年金追納法案)

 この法律案は、国民年金の「第3号被保険者記録不整合問題」に対処するため、不整合期間について、老齢基礎年金の受給資格期間に算入することができる期間とするほか、本人からの希望によって当該不整合期間に係る保険料を納付することを可能にすること、また、現に年金を受給している人への配慮措置を講じることを目的としています。

 ここでいう、不整合期間とは、第3号被保険者として記録された期間のうち、その後第1号被保険者期間に記録が訂正された期間であって、訂正時に保険料の徴収期間の消滅時効が成立しているために「未納期間」とされているものをいいます。

 この法律案の骨子は、次の通りです。

(1)これまでに記録訂正された人も、これから記録訂正される人も、不整合期間を年金の受給資格期間(25年)に算入することを認めます。(←特殊な合算対象期間という感じでしょうか。)
(2)これまでに記録訂正された人も、これから記録訂正される人も、過去10年間にある不整合期間(60歳以上の人は、50歳から60歳であった期間)について、保険料の「特例追納」を認めます。「特例追納」措置は3年間の時限立法とします。
(3)現に老齢年金を受給している人については、特例追納の納付期限日以降、これから支給する分の年金額を追納状況に応じた年金額まで減額します。但し、減額率は、現に受給していた年金額の10%を上限とします。
(4)障害年金又は遺族年金を受給している人の年金については、受給権を維持するための措置を講じます。
(5)「第3号被保険者記録不整合問題」の再発を防止するため、第3号被保険者でなくなった旨の情報を、事業主経由で、日本年金機構が入手できるようにします。

国民年金第3号被保険者の未納問題_3_2011年3月14日


2.国民年金法等の一部を改正する法律等の一部を改正する法律案

 平成24年度の予算案は、衆院決議優先の原則で、参院で否決されたのにもかかわらず成立しています。しかし、予算関連法、中でも特例公債法が参院で可決されていないため、予算の執行が近い将来困難になってくるといわれているのはご案内の通りです。その影響などで、「国民年金法等の一部を改正する法律等の一部を改正する法律案」の閣議決定による修正部分が今国会では決まらず、継続審議となっています。その内容は以下の通りです。

(1)平成24年度及び25年度について、国庫は基礎年金国庫負担割合2分の1を負担する。その際、2分の1と36.5%の差額については、将来の消費税増税によって得られる収入を償還財源とする年金特例公債を発行することによって得られる財源を充当します。

(2)よって、平成24年度及び25年度の国民年金保険料の免除期間については、基礎年金国庫負担割合2分の1を前提に年金額を計算します。

(3)老齢基礎年金等の年金額の特例水準(平成12年から14年までの年金額特例据え置きの影響による2.5%)について、平成24年度から26年度までの3年間をかけて解消します。

(4)これまで年金と連動して同じスライド措置がとられてきた一人親家庭又は障害者等の手当ての特例水準(1.7%)について、平成24年度から26年度までの3年間をかけて解消します。

 
3.年金生活者支援給付金の支給に関する法律案

 年金機能強化法案附則第2条の2に基づく法制上の措置として、新たな低所得高齢者又は障害者等への福祉的な給付措置を講ずるため、所得額が一定の基準(註1)を下回る老齢基礎年金の受給者に、国民年金の保険料納付済み期間及び免除期間を基礎に算定した老齢年金生活者支援給付金(註2)を支給します。
(註1)住民税が家族全員非課税で、前年の年金収入+その他の所得の合計額が老齢基礎年金の満額以下であること。
(註2)月額5000円に納付済期間(月数)÷480を乗じて得た額及び免除期間に対応して老齢基礎年金の1/6相当を基本とする額。

 一定の障害基礎年金又は遺族基礎年金の受給者に、障害年金生活者支援給付金又は遺族年金生活者支援給付金を支給します(註3)。
(註3)月額5000円。障害基礎年金1級は、6250円

 年金生活者支援給付金の支給に要する費用の財源は、将来引上げが予定されている消費税の収入を活用することにより確保するものとし、平成27年10月から施行されます。

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使用者の懲戒権_フジ興産事件

 使用者の懲戒権並びに就業規則の周知義務及びその効力について判断を下した有名な最高裁判例であるフジ興産事件(最高裁平成15年10月10日)を取り上げてみました。


1.事案の概要

 Xは、Y社に平成5年2月に雇用され、Y社の設計部門であるエンジニアリングセンターにおいて、設計業務に従事していました。Y社は、昭和61年8月1日、労働者代表の同意を得た上で、同日から実施する就業規則(以下「旧就業規則」という。)を作成し、同年10月30日、当該就業規則をA労働基準監督署長に届け出ました。旧就業規則は、懲戒解雇事由を定め、所定の事由があった場合に懲戒解雇をすることができる旨を規定していました。

 Y社は、平成6年4月1日から旧就業規則を変更した就業規則(以下「新就業規則」という。)を実施することとし、同年6月2日、労働者代表の同意を得た上で、同月8日、A労働基準監督署長に届け出ました。新就業規則においても、懲戒解雇事由及び所定の事由があった場合に懲戒解雇をすることができる旨を定めていました。

 Y社は、平成6年6月15日、新就業規則の懲戒解雇に関する規定を適用して、Xを懲戒解雇しました。その理由は、Xが、平成5年6月頃から同6年5月末までの間、得意先との間で生じたトラブルをきっかけに、上司に対して反抗的態度をとり、しばしば暴言を吐くなどして職場の秩序を乱した行為は、懲戒解雇事由に該当するというものでした。

 そこで、Xは、Y社に対し、懲戒解雇される事実が発生したときにY社に就業規則が存在しなかったこと等から懲戒解雇は無効であり、雇用契約上の地位の確認及び未払い賃金等の支払を求めて訴えを提起しました。また、Y社代表取締役を含む3人に対し、違法な懲戒解雇の決定に関与したとして、損害賠償を請求しました。なお、Xは、本件懲戒解雇以前に、Y社のエンジニアリングセンター長に対し、センターに勤務する労働者に適用される就業規則について質問しており、その際には、旧就業規則はセンターに備え付けられていなかったことが確認されました。


2.解 説

(1)判決要旨

 原判決を破棄し、原審に差し戻し。 

 原審は、次の通り判断して本件懲戒解雇を有効とし、Xの請求を全て棄却すべきものとしています。

 ①Y社が新就業規則について労働者代表の同意を得たのは平成6年6月2日であり、それまでに新就業規則がY社の労働者らに周知されていたと認めるべき証拠はないから、Xの同日以前の行為については、旧就業規則における懲戒解雇事由が存するか否かについて検討すべきである。

 ②Y社は、昭和61年8月1日、労働者代表の同意を得た上で、旧就業規則を作成し、同年10月30日、A労働基準監督署長に届け出ていた事実が認められる以上、Xがセンターに勤務中、旧就業規則がセンターに備え付けられていなかったとしても、そのゆえをもって、旧就業規則がセンター勤務の労働者に効力を有しないと解することはできない。

 ③Xの一連の言動は、旧就業規則所定の懲戒解雇事由に該当する。Y社は、新就業規則に定める懲戒解雇事由を理由としてXを懲戒解雇したが、新就業規則所定の懲戒解雇事由は、旧就業規則の懲戒解雇事由を取り込んだ上、更に詳細にしたものということができるから、本件懲戒解雇は有効である。

 しかしながら、原審の判断のうち、上記②は、是認することができません。その理由は、次の通りです。

 使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要します(最高裁昭和54年10月30日第三小法廷判決「国鉄札幌運転区事件」)。そして、就業規則が法的規範としての性質を有する(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決「秋北バス事件」)ものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するとされています。

 原審は、Y社が、労働者代表の同意を得て旧就業規則を制定し、これをA労働基準監督署長に届け出た事実を確定したのみで、その内容をセンター勤務の労働者に周知させる手続が採られていることを認定しないまま、旧就業規則に法的規範としての効力を肯定し、本件懲戒解雇が有効であると判断しています。原審のこの判断には、審理不尽の結果、法令の適用を誤った違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかです。

(2)懲戒権の根拠

 懲戒権の根拠について、本判決でも引用されている最高裁昭和54年10月30日第三小法廷判決「国鉄札幌運転区事件」では、「使用者の企業秩序定立・維持権限」に求め、「一般的に規則をもって定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、行為者に対し、その行為を中止し、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができるもの、と解する」と述べています。

(3)就業規則の効力と周知義務

 労働基準法106条1項によれば、使用者は就業規則を常時各作業場の見易い場所に掲示、備え付け、書面公布等の方法によって周知させなければなりません。本判決の最も肝心な点の一つは、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして効力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることが必要であると再確認したこと、従って、就業規則上の懲戒規定に基づいて労働者に対して懲戒処分を行うためには、当該就業規則が労働者に周知されていることがその効力発生要件としたことです。周知手続きの履行を条件に「労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」とした労働契約法7条は、本判決・判旨を立法化したものとされています。

(労働基準法)
第106条 使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、第18条第2項、第24条第1項ただし書、第32条の2第1項、第32条の3、第32条の4第1項、第32条の5第1項、第34条第2項ただし書、第36条第1項、第37条第3項、第38条の2第2項、第38条の3第1項並びに第39条第4項、第6項及び第7項ただし書に規定する協定並びに第38条の4第1項及び第5項に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない

(労働基準法施行規則)
第52条の2  法第106条第1項 の厚生労働省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。
一  常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
二  書面を労働者に交付すること。
三  磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。


(4)懲戒処分の有効要件

 今日では、労働契約法(平成19年12月5日)が施行され、懲戒についても次のような条文が用意されております。
(懲 戒)
第15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。


 しかし、判例では労働契約法が施行される以前から、次のような要件が充たされない場合、懲戒権の濫用に当たり、懲戒処分は無効と考えられてきました。今日でも労働契約法15条を当てはめる場面において、以下の要件は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」の判定に使用されるべき要件であるといえます。

 ①就業規則該当事由・処分記載の原則、懲戒処分を行うためには、懲戒に該当する事由と各懲戒該当事由に対応する懲戒の種類及び程度が就業規則に具体的に記載されていなければならないということです。
 ②不遡及の原則、新たに設けた懲戒規定をそれより以前の行為に適用してはならないという原則です。
 ③二重処分の禁止の原則、過去に懲戒の対象となった行為について、蒸し返してもう一度別の懲戒処分の対象とすることは許されないという原則です。但し、過去の懲戒処分の実績をその後の行為に対する懲戒処分の際の情状として考慮することは差支えないとされます。

 ④平等取扱いの原則、懲戒処分は、同種の非違行為に対しては、同等のものでなければなりません。従って、懲戒処分を行う場合には、先例を尊重することが要請されています。労働者の非違行為について、一度でも温情で軽い処分にとどめると、これが先例になる場合があり、同様の非違行為が将来発生した際に、影響を及ぼす可能性があることを十分に認識しておくべきでしょう。

 ⑤行為・処分均衡の原則、労働者の非違行為が懲戒事由に該当するものであったとしても、労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、対応する懲戒処分が社会通念上相当であると認められるものでなければなりません。

 ⑥適正手続き、適正手続きを欠く懲戒処分は、相当性が認められず、無効とされることがあります。就業規則上の規定の有無にかかわらず、本人へ弁明の機会を与えることは、最低限必要な手続きとされています。

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年金機能強化法の内容

1.受給資格期間の短縮措置など

 8月10日の消費税引上げ法案可決、成立に伴い、「公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律」(年金機能強化法)という長い名前の法律が国会で成立し、同月22日に公布されました。同法の目玉は、なんと言っても平成27年10月施行分、即ち、消費税が10%に引上げられることを前提に、受給資格をこれまでの25年から10年に大幅に短縮することが規定されていることです。しかし、この制度改正の最大の問題点は、肝心の消費税引上げ自体が、景気弾力条項によって見直される可能性が残っていることで、経済成長がここ数年のように停滞したままの状況であれば、時の政権は「その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」となっている点です。これでは、現場はニッチもサッチも行かなくなるのは目に見えているわけですが、「受給資格が10年に引き下げられるのか?」という質問に対しては、「消費税引上げを前提にそういう法律が国会を通過はしてはいるが、消費税が絶対に引上げられると決まっているわけではないので、制度変更の内容を納得した上で、手続きを進めてください。」といったような曖昧な回答をせざるを得ないのが現状です。

 なお、10年の受給資格期間の対象となる年金は、老齢基礎年金、老齢厚生年金、退職共済年金、寡婦年金、及びこれらに準じる旧法の老齢年金です。現在無年金者である高齢者で、改正後の受給資格を充たす者については、経過措置として、施行日以降保険料納付済期間等に応じた年金支給を行うとしています。

 また、「国民年金の任意加入者の未納期間の内、60年改正前の任意加入期間は、結果的に未納期間になってしまっているもの(60歳到達前の任意加入期間に限られます)については、合算対象期間とする」としています。しかし、そもそも加入するか否かは本人しだいの任意の期間について、敢えて加入の手続きを取って任意加入になったのにもかかわらず、保険料を支払わず未納となったのですから、このような期間は合算対象期間に含まれず、未納期間であるとしたこれまでの処理がむしろ筋が通っていたわけで、ここで敢えて解釈を変えるような改正を行うのは、不用意に現場の混乱を招くだけのように思えてなりません。

 今回の改正には、上記のほかにも解釈の変更で現場の混乱を招きそうな改正がいくつか含まれているように思えます。主な変更点を以下に整理して行きたいと思います。


2.遺族基礎年金の男女間格差解消など

 平成26年4月施行、即ち、消費税が8%に引上げられる第1次引上げを前提に、遺族基礎年金の父子家庭への支給を開始するとしています。人を全て個人単位で見て行き、その結果男女はできる限り平等に扱われなければならないという思想の必然的な帰結であり、この遺族年金に関する改正は結論的には妥当といえますが、個人単位ではなく家族単位の視点と男女は役割分担があるという視点ももう少し取入れられてしかるべきと考えております。

 このほか、平成26年4月施行の第1次消費税引上げ、即ち、消費税8%への引上げを前提にした改正点は、基礎年金の国庫負担について、「基礎年金国庫負担2分の1の恒久化」が挙げられます。つまりは、基礎年金国庫負担2分の1を恒久化するための安定財源が得られる特定年度を「平成26年年度」とするとしています。また、24年度及び25年度の財源を補うために発行される国債は、当初言われていた「年金交付国債」ではなく、「年金特例公債」(=赤字国債)となっています。


3.公布の日から2年以内で政令の定める日に施行される改正点

(1)産休期間中の保険料免除
 厚生年金、健康保険等について、産休期間(出産前6週間及び出産後8週間)中の保険料を免除します。

(2)繰下げ支給の取扱い見直し
 70歳到達後に繰下げ申出を行った場合、これまでは上限70歳までの繰下げである一方、年金支給は申出時からの支給となりましたが、改正後は、70歳時点に遡って申出があったものとみなすことになりました。

(3)国民年金任意加入者の未納期間を合算対象期間へ算入

(4)障害年金の額改定請求に係る待機期間の一部緩和
 明らかに障害の程度が増進したと確認できる場合、1年の待機期間を必要としないとすることになりました。

(5)特別支給の老齢厚生年金の支給開始に係る障害特例の取扱い改善
 障害年金受給者については、請求の翌月からではなく、障害の状態にあると判断された時に遡って障害特例による支給を行うことになりました。

(6)未支給年金の請求権者の拡大
 生計を同じくする3親等以内の親族に拡大することにより、甥、姪、子の妻等が請求権者に含まれることになりました。

(7)免除期間に係る保険料の取扱いの改善
 ①国民年金保険料の免除期間に係る前納保険料の還付を可能とします。
 ②国民年金保険料の法定免除遡及該当期間に係る保険料の納付を可能とします。
 ③国民年金保険料の法定免除期間に係る保険料の納付及び前納を可能とします。

(8)保険料免除に係る遡及期間の見直し
 国民年金保険料納付可能期間(過去2年分)について、遡及免除を可能とします。

(9)付加保険料の納付期限延長
 付加保険料の納付可能期間を過去2年分まで納付可能とします。


4.平成28年10月施行分

(1)短時間労働者に対する厚生年金及び健康保険の適用拡大

 これまで週所定労働時間及び所定労働日数に関する「4分の3要件」を満たす者について社会保険に加入するとしていましたが、たとい「4分の3要件」を満たさない場合であっても、「週所定労働時間が20時間以上」、「賃金が月額88000円以上」、従業員501人以上の規模の企業に使用されている」の基準を全て満たすパート労働者(ただし、学生を除く)について、厚生年金保険及び健康保険の被保険者とすることになります。


(2)厚生年金標準報酬月額の下限改定

 厚生年金の標準報酬月額下限は、現在98000円ですが、これを88000円に引下げることとし、標準報酬月額等級に新たに第1級88000円:報酬月額83000円以上93000円未満を追加し、等級表の調整を合わせて行います。


5.その他の措置

(1)被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律

 恩給期間に係る給付について27%引下げる措置を公布日から1年以内の政令で定める日に実施します。また、平成27年10月には、厚生年金制度に公務員及び私学教職員も加入し、被用者年金制度は、原則的に厚生年金に統一することとしています。

(2)短時間労働者への社会保険の適用拡大

 平成31年9月30日までに、検討を加えた結果に基づき、必要な措置を講ずるとしています。

(3)低所得高齢者対策

 平成27年10月1日から、公的年金制度の年金受給者のうち、低所得である高齢者又は所得が一定額以下である障害者等に対する福祉的措置としての給付に係る制度を実施するため、消費税増税を規定している税制改正法の公布の日から6箇月以内に必要な法制上の措置が講ぜられるものとしています。

(4)高額所得者に対する老齢基礎年金の支給停止

 引続き検討が加えられるものとしています。

(5)第1号被保険者に対する出産前後の保険料免除

 国民年金の第1号被保険者に対する出産前6週間及び出産後8週間に係る国民年金の保険料の納付義務を免除する措置については、検討が行われるものとしています。

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