社会保障と税の一体改革-消費税増税法案衆院通過-

1.消費税増税法案の内容

 一昨日6月26日(火曜日)、消費税増税法案が衆議院で可決されました。この法案の正式名称は「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」という何とも禍々しいものになっています。

 この法律案に関する報道は、政権与党の造反に関連した政局絡みの報道ばかりが先行し、肝心要の法律の内容についての報道が極端に不足している感じが致します。政局のことばかりに気を取られているうちに消費税増税が既成事実化して行ってしまいそうです。以前の記事(「社会保障と税の一体改革素案_社会保障部分と国会」)でも触れましたが、多くの社会保障改革が消費税の増税を財源として予定しているのです。このまま既成事実化された消費税増税が有無を言わせない形で実行に及べば、景気後退とデフレに苦しむ日本経済に致命傷を与えることになりかねず、非常にまずい状況です。

 26日付けNHK News WEBによれば、消費税増税法案の内容は、以下のように要約されます。

(1)引上げ時期と使途
 税率は2年後の平成26年4月1日に今の5%から8%に、翌年の平成27年10月1日から10%になります。また、消費税の使途は、原則として社会保障サービスなどに限る「社会保障目的税」とすることも明記されています。

(2)低所得者対策
 消費税は逆累進性の税制度であるために、低所得者層の負担を軽減することが配慮されています。所得に応じて給付や控除を行う「給付付き税額控除」の検討と並記する形で、例えば食料品などの税率を低く抑える「複数税率」について、「財源の問題、対象範囲、中小事業者の事務負担等を含め、さまざまな角度から総合的に検討する」としています。税率を8%に引き上げた後、こうした制度が導入されるまでの間は、一定の所得以下の世帯に一律に現金を給付することも盛り込まれています。

(3)景気弾力条項
 この条項が今後非常に重要になってくると思われますので、2で詳しく説明します。

(4)所得税及び相続税
 一方、政府案に盛り込まれていた所得税の最高税率の引き上げや相続税の見直しは、具体的な方針は見送られ、修正案では「今年度中に必要な法制上の措置を講ずる」としています。

(5)家計への影響
 第一生命経済研究所が総務省の「家計調査」を基に行った、夫がサラリーマン、それに妻とこども2人の4人世帯の場合の試算結果です。

 消費税率が8%に引き上げられた際の1年間の負担額は、①年収が250万円未満の世帯で現在に比べて4万6600円増加、②500万円以上550万円未満で7万2948円、③1000万円以上1250万円未満の世帯で11万5590円、それぞれ増えるとしています。

 消費税率10%では、①年収が250万円未満の世帯で現在に比べて7万6255円、②500万円以上550万円未満の世帯で11万9369円、③1000万円以上1250万円未満の世帯で18万9147円負担が増えるということです。


2.景気弾力条項

 この法律案では、附則18条で、消費税増税を実施する前提条件として、次のような経済成長の実現とそのための施策を行う旨規定しています。

 第18条 (消費税率の引上げに当たっての措置)
 消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成23年度から平成32年度までの平均において名目の経済成長率で3%程度かつ実質の経済成長率で2%程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。
 この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第2条及び第3条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。

「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」


3.廃案の可能性

 法案が成立するためには、この後、60日以内に参院で法案が可決されなければなりません。法案が参院で審議又は採決されない場合には、法案が否決されたものとみなされます。このことは、日本国憲法に明確に規定されています。

 第59条 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
 2 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
 3 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
 4 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて60日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。


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スポーツクラブは人材が全て

 身体論に興味があるからという訳でもないのですが、機会を得てあるスポーツクラブを運営する会社の株を数年前に購入しました。この梅雨時は、株主総会が集中する時季でもあります。初めて件のスポーツクラブ運営会社の株主総会に出席してみました。
 
 会社を定年退職されたくらいにお見受けされる年配の方が多かったのですが、150人から200人位の株主が来ておられました。真面目な経営陣は、随分と長い質疑応答時間を設けられ、出席者の質問内容も非常に真面目なものが多かったように感じられました。思うに、こういった事業を行う会社に興味を持たれ、その株主になられるような方々は、自らも会員となり、現役を引退してからもしっかり身体を鍛錬して健康を維持したいと願うような人々です。人間とは、真善美を求める気持ちとエログロ趣味とが兼ね備わり、善と悪とが1人の人格の中に混在している複雑な存在ではありますが、どうも、スポーツクラブの株主総会の場合、人間の持つ善性の方の強い方が集まる傾向にあるような印象を受けました。


1.スポーツクラブはインストラクターで決まる

 少子高齢化が進む我が国では、商品によっては大幅な需要減が見込まれたり、現にその影響が顕在化したりしているようですが、医療・介護、そして何よりも「健康」に対する需要は今後増えこそすれ減ることはないと想定できます。おそらく、スポーツクラブ運営事業の成否の鍵もその辺りに存するのでしょう。スポーツクラブ運営会社が、改めて存在理由を自らに問うたときの解答は、比較的容易に見い出せることと思われます。

 成長が見込める分野であれば、新規参入者が多くなり、過当競争の問題が新たに生じてきます。この点に関して、株主の中に大変見識の高い方がおられて、次のような意見を述べておられました。

 この株主の方が通っておられる店舗では、プログラムの人気が非常に高く、プログラムによっては時間よりも早く行って並んでいないと定員に達して受講できなくなることもしばしばであるプログラムが相当数存在するとのことでした。プログラムというのは、例えばヨガであるとか、エアロビクスであるとか、特定の種目を専門のインストルクターが教えるクラスのことです。彼によれば、たとえ同じ種目で同じ名称のプログラムであっても、インストラクターの技量、人柄などによって集客人数に大きな差が表れるそうです。結局、スポーツクラブ運営の成否を握るのは、同業他社との差別化であり、その鍵はプログラムにあります。そして、そのプログラムの成否を握っているのは、インストルクター、即ち、人であり、ここへの投資を出し惜しみすると結局競争に敗れることになるということでした。

 この指摘は、士業の成否についても完全に当てはまることなんでしょう。技量と人格を磨く努力を怠ればたちまち自分に返ってきます。


2.社外取締役はいるのか

 「社外取締役は米国から入ってきた仕組みで、文化の違う日本で機能しているのか疑問を持っています。機能しているとすれば、社外取締役の○○氏は、既に長期間社外取締役の地位にあり、当社にどのように貢献してこられたか具体例を挙げて説明してください。」という趣旨の質問がありました。米国流の経営手法に疑問を呈する一般株主が普通に表れるようになったことは特筆すべきことです。村社会が基本の我が国では、所詮よそ者の社外取締役の果たす役割には限界があると考えるのは非常に自然です。外部からの牽制や新しい発想を取り入れる仕組みとして残しておくのは良いと思いますが、選任を義務化したり、流行と考えるのは確かに意味がないと思いました。

 会社法上は、こんな風になっています。

 社外取締役とは、取締役会の監督機能強化を目的として、会社の最高権限者である代表取締役などと直接の利害関係のない独立した有識者や経営者などから選任される取締役のことです。

 社外取締役となるためには、次の条件があります。

(1)過去にその会社またはその子会社の業務執行取締役や執行役、支配人、その他の使用人となったことがない。
(2)現在もその会社またはその子会社の業務執行取締役や執行役、支配人、その他の使用人となっていない。

 社外取締役の設置は、委員会の設置や特別取締役の選定の前提となっています。

(1)委員会設置会社になる前提として、各委員会の委員の過半数を社外取締役にしなければならない。
(2)特別取締役を選定する前提として、取締役のうち1人以上社外取締役がいなければならない。

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Cash Balance 企業年金

1.企業年金における年金額

 確定給付型の企業年金の場合、給付額は掛金や年金資産の運用状況にかかわらず、一定額に決定され、その額は原則として不変です。それでは、確定給付型企業年金の年金額は、どのように決定されるのでしょうか。企業年金と退職一時金とは、非常に近い親類縁者の関係なので、支給額を決定する仕組みもよく似ています。おおよそ次のように分類されると考えます。

(1)定額制: 加入者期間に応じて定めた額に規約で定める数値を乗じて導かれた定額を支給
  (例)給付額=加入者期間×10000円、加入者期間10年以上一律200万円など
(2)最終給与比例: 最終給与額×(年齢、加入者期間、等級、退職事由などに対応する支給乗率)
(3)累計給与比例: 累計給与額×(年齢、加入者期間、等級、退職事由などに対応する支給乗率)
(4)平均給与比例: 平均給与額×(年齢、加入者期間、等級、退職事由などに対応する支給乗率)
(5)ポイント制: (職能ポイントの累計+勤続ポイントの累計)×ポイント単価
(6)Cash Balance: 後 述


2.ポイント制

 ポイント制は、給付額の基準として職能資格に対応して定められた「職能ポイント」及び勤続期間(加入者期間)に対応して定められた「勤続ポイント」などを用いて、給付額を決定する制度です。具体的には、これらのポイントを1年当たりの点数で定め、ポイントの累計にポイント単価を乗じて求められる金額を年金支給額とする仕組みです。

 ポイント制を導入する第一の理由は、「年金又は退職一時金を賃金連動から分離できる」点にあるとされています。賃上げによる年金又は退職一時金の自然増を回避することができるため、退職給付を賃金体系にとらわれずに設計することができるようになります。第二に、ポイントの決め方にもよりますが、従業員の「企業への貢献度を反映した退職給付制度を構築することができる」点があります。第三に、ポイントの管理が容易で、会社にとっても従業員にとっても、退職給付の算定が容易にできる点が挙げられます。

 逆に不都合な点としては、第一にベースアップなどに連動しなくなるため、物価上昇及び賃上げが進んだ場合には、給付単価の見直しによる給付額引上げに関して適切な判断が求められるようになることです。第二に、ポイント制を導入するためには「職能資格制度の導入」が不可欠になるという点です。ポイント制の前提となる職能資格制度を適切に運営していくためには、それなりの経験及び知見が要求されることになります。第三に、ポイント制への移行が就業規則の不利益変更につながる場合には、労使の合意が要求されることです。


3.Cash Balance

 純粋な確定給付型企業年金の年金額は、前述の通り一定額に決定され、原則的には不変です。換言すると、掛金及びその掛金を積み上げた年金原資に係る想定金利が固定金利で不変と言うことができます。これに対してCash Balanceでは、加入中、待機中、さらに受給中にも変動する予め定めた指標金利に応じて付利するという考え方を採用しています。

 具体的には、加入者ごとに仮想個人勘定を設定し、この口座に積み立てられたと想定される残高を元に年金の支給額を決める仕組みです。積立分は、毎期付与される元本部分と利息部分からなり、利息部分は指標金利に応じて決定されるため、年金原資が積み立てる段階から金利変動に連動してある程度増減する仕組みになっています。同様に退職後から裁定(年金額決定)時までの待機期間も変動金利とします。

 そして、年金の給付額は、こうして決定される年金原資を給付期間及び給付利率に対応する年金原価率で除して求められる金額とします。その際、年金原価率は、指標金利に応じて一定期間ごとに改定して行く仕組みを採用しているために、年金給付額は確定給付年金とは言え、一定の範囲で変動することになります。ただし、指標金利には下限及び上限が設けられるのが一般的で、特に下限金利の設定により、下限金利時に想定される年金額を下回る水準に給付額が落ち込まないように配慮されています。

 この指標金利に応じて年金給付額を変動させる仕組みを、退職後の待機期間及び裁定後の年金給付時又は裁定後の年金給付時のみに採用している仕組みは疑似CBと呼称されています。

 また、指標金利には、(1)国債利回り、(2)国債の利回り+1.0%、-0.5%のような設定、(3)(1)又は(2)に上下限を加えた設定などが用いられています。

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東電企業年金給付削減へ

 多くの報道機関から既に伝えられているように、東京電力は企業年金の給付額削減に向けて、対象となる退職者15373人のうち、83%に当たる12700人からの同意を得ることができたことを発表しました。今後の日程は、7月上旬に厚生労働大臣に規約変更を申請し、厚労相の承認が得られれば、10月にも減額を実施するとしています。東京電力は、既に労働組合からの同意を取り付けている加入者への将来支給する年金の削減と合わせ、10年間で1065億円の経費削減効果が期待されるとしています(6月4日 MSN産経ニュース)


1.東電の企業年金

 東電の企業年金は、確定給付企業年金と確定拠出年金の2本立てです(「東京電力の企業年金概要」)。元々は、税制適格退職年金だったものを平成19年(2007年)に確定給付企業年金と確定拠出年金に移行しています。今回減額の具体的な内容については、次のようなものと伝えられています。

減額の内容
(1)有期年金(75歳まで)
 平成19年9月までの退職者(旧・税制適格年金適用者)は、退職時適用の給付利率3.5%から6.5%までを指標金利(国債)に連動させて(下限保証利率2.25%)年金額を毎年変動させる仕組みに変更。
 平成19年9月以降の退職者(確定給付企業年金適用者)は、既に指標金利連動型を適用しているが下限保証利率は2.0%から1.5%に変更。
(2)終身年金(75歳以降)
 現行月額7万円を月額5万円に減額する。


2.企業年金給付減額について

 確定給付企業年金法によれば、給付減額は原則禁止です。例外的に減額が許容される要件及び手続について施行令及び施行規則で以下のように定めています。

確定給付企業年金法施行令(平成13年12月21日政令第424号)
第4条  法第5条第1項第5号 (法第6条第4項 において準用する場合を含む。)の政令で定める要件は、次のとおりとする。
一  (省 略)
二  加入者等の確定給付企業年金の給付(以下「給付」という。)の額を減額することを内容とする確定給付企業年金に係る規約(以下「規約」という。)の変更をしようとするときは、当該規約の変更の承認の申請が、当該規約の変更をしなければ確定給付企業年金の事業の継続が困難となることその他の厚生労働省令で定める理由がある場合において、厚生労働省令で定める手続を経て行われるものであること。

確定給付企業年金法施行規則
(給付減額の理由)
第5条 令第4条第2号の厚生労働省令で定める理由は、次のとおりとする。ただし、加入者である受給権者(給付を受ける権利(以下「受給権」という。)を有する者をいう。以下同じ。)及び加入者であった者(以下「受給権者等」という。)の給付(加入者である受給権者にあっては、当該受給権に係る給付に限る。)の額を減額する場合にあっては、第2号及び第3号に掲げる理由とする。
一 確定給付企業年金を実施する厚生年金適用事業所(以下「実施事業所」という。)において労働協約等が変更され、その変更に基づき給付の設計の見直しを行う必要があること。
二 実施事業所の経営の状況が悪化したことにより、給付の額を減額することがやむを得ないこと。
三 給付の額を減額しなければ、掛金の額が大幅に上昇し、事業主が掛金を拠出することが困難になると見込まれるため、給付の額を減額することがやむを得ないこと。
(以下省略)

(給付減額の手続)
第6条 令第4条第2号の厚生労働省令で定める手続は、次のとおりとする。
一 規約の変更についての次の同意を得ること。
イ 加入者(給付の額の減額に係る受給権者を除く。以下この号及び次項において同じ。)の三分の一以上で組織する労働組合があるときは、当該労働組合の同意
ロ 加入者の三分の二以上の同意(ただし、加入者の三分の二以上で組織する労働組合があるときは、当該労働組合の同意をもって、これに代えることができる。)
二 受給権者等の給付の額を減額する場合にあっては、次に掲げる手続を経ること。
イ 給付の額の減額について、受給権者等の三分の二以上の同意を得ること。
ロ 受給権者等のうち希望する者に対し、給付の額の減額に係る規約の変更が効力を有することとなる日を法第60条第3項に規定する事業年度の末日とみなし、かつ、当該規約の変更による給付の額の減額がないものとして同項の規定に基づき算定した当該受給権者等に係る最低積立基準額を一時金として支給すること。
2 給付の額が減額されることとなる加入者が加入者の一部に限られる場合にあっては、前項第一号イ及びロの規定中「加入者」とあるのは、「給付の額が減額されることとなる加入者」とする。
3 給付の額が減額されることとなる受給権者等が受給権者等の一部に限られる場合にあっては、第一項第二号イ及びロの規定中「受給権者等」とあるのは、「給付の額が減額されることとなる受給権者等」とする。
4 第一項第一号の場合において、実施事業所が二以上であるときは、同号の同意は、各実施事業所について得なければならない。


 要約すると、給付減額が例外的に認められる場合とは、

(1)給付減額がやむを得ないほどの経営悪化
(2)給付減額しないと事業主が掛金拠出困難になるほどの掛金負担の大幅上昇が見込まれること

が挙げられています。

 また、その手続きについては、全加入員の3分の2以上の同意(労働組合の同意で代替可能)が必須条件です。さらに、現受給権者の給付削減にはより厳しい要件が加わります。

(1)事前に給付設計の変更に関する十分な説明と意向確認を行う。
(2)全受給権者の3分の2以上の同意。
(3)希望者に対して一時金としての受取を可とする。

 東電の場合、実質国有化やむなしというところにまで追い詰められていますので、経営の悪化という点で要件を満たしているようですが、年金財政自体は健全を維持していると伝えられており、議論の余地はまだ残っているようです(「企業年金受給権者の給付減額の問題_2010年11月26日」)。 

厚生年金基金の代行部分とは何か

1.代行部分定義

 厚生年金基金の代行部分とはそもそも何なのか、企業年金連合会のHPにある用語集では、次のように定義しています。

 「厚生年金基金が国に代わって給付する部分。老齢厚生年金の報酬比例部分のうち賃金の再評価分と物価スライド分を除いた部分について代行することとなっている。厚生年金基金に加入していた人の場合、受給時に代行部分相当額は基金から給付され、残りは国から受け取ることになる。企業は代行部分に関する保険料を納める義務を国から免除される(免除保険料)代わりに、年金を給付する義務を国から請け負うことになる。
 代行給付の予定利率は長らく年5.5%に固定され、運用環境が悪化した1990年代は厚生年金基金の財政悪化の一因となった。なお、平成17年度から予定利率は3.2%となっている。」(下線は筆者)

 この定義で問題になるのが、「賃金の再評価分」と「物価スライド分」とは何かということです。ということで、厚生年金の報酬比例部分の算式を見てみますと、少なくとも5%減額措置(「5%適正化及び従前額の補償」)の前後、総報酬制の導入前後で算式が変わってきて大変複雑なのですが、実務的に一番多く使われていると思われる算式を上げると;

{(平成15年3月以前の被保険者期間分)
 平均標準報酬月額(過去の標準報酬月額を平成6年標準に再評価し、平均したもの)×7.5(~10)/1000
 +
(平成15年4月以後の被保険者期間分)
 平均標準報酬額(過去の標準報酬額を平成6年標準に再評価し、平均したもの)×5.769(~7.692)/1000}
 ×
1.031(註1)×0.978(註2)

(註1)平成6年の再評価率を使用しているので平成6年から平成11年の物価スライド率を乗じています。
(註2)(平成11年以後の平成23年度までの物価スライド率0.981)×(1-0.003)(=23年中の消費者物価下落率0.3%)=0.978。

 なお、従前額の保障及び物価スライド特例のつかない本来の算式は、毎年改定される最新の再評価率を乗じて平均標準月額及び平均標準報酬額を調整することで完結し、改定率を用いない方式を採っています。

 上述の算式から逆に考えると、基金代行分を計算する際の平均標準報酬月額及び平均標準報酬額は、再評価率を乗じていない生の標準報酬月額及び標準報酬額の平均値ということが言えます。さらに、物価スライド率を乗じることもありません。また、生年月日による乗率は、受給権発生日が平成12年4月1日以降の場合、1000分の7.125及び1000分の5.481などの新乗率を用います。

 結論として、基金が支給する代行部分の年金額は裁定時に一定額に定まり、かつ、不変です。念のため付け加えますと、厚生年金基金の給付義務は加入員の老齢に関して支給する年金給付及び脱退に関して支給する一時金給付に限られますので(厚生年金保険法106条、130条)、加入員の死亡及び障害に関して年金を支給する義務はありません。


2.代行返上等に伴う年金額の減少

 この代行部分を基金の解散や代行返上などによって国に返還してしまうと、報酬比例部分についても通常の厚生年金として国から支給されることになります。すると、次のような理由で報酬比例部分の年金額が減少します。なお、厚生年金基金の規約の内容は基金によって異なり、以下のような寛容な支給を元から行っていない基金もあり得ますが、一般論として、以下の三点が指摘されています。

 第一に、基金は加入期間が1箇月以上あれば、基金が担当する基本部分についての支給を行っています。しかし、厚生年金本体では加入期間が25年以上ないと老齢年金を受給する資格がないので、公的年金の加入期間が25年に充たない者などは、原則的に年金の受給権を失ってしまいます。

 第二に、一般的な厚生年金基金では、60歳から65歳までの特別支給の老齢厚生年金について、年金受給者が他社などに再就職していても、年金額の調整はなされずに支給されています。この部分は、「支給要件緩和によるプラスアルファー給付」と言われているもので、厚生年金基金の加入員となることによる優位性の一つでした。

 この他、各基金の規約によりますが、失業給付、高年齢雇用継続給付、遺族給付、又は障害給付などとの調整を実施していない場合もあり、このような場合に公的年金に移行するとこれらの給付との調整で老齢厚生年金が支給停止になりますので、結果的に年金額が減少することになります。

代行返上の仕組み1