「パワハラ」の定義

 これまで、セクハラと違い、法律などでその定義づけがなされないままで、人によって定義も異なるような状況であった「パワハラ」について、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」(主査:佐藤博樹東京大学大学院情報学環教授)が報告書を1月30日に公表しました。

 この報告書の中で、職場のパワーハラスメントを「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(註)を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」と初めて定義付を行いました。
 註)上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる。

 職場のパワハラ 行為類型
(1)暴行及び傷害など身体的な攻撃
(2)脅迫、名誉棄損、侮辱、及びひどい暴言など精神的な攻撃
(3)職場で隔離、仲間外し、及び無視
(4)業務上明らかに不要なことなど過大な要求をすること
(5)仕事を与えないことなど過小な要求をすること
(6)私的領域に過度に立ち入ること

 厚生労働省によれば、全国の労働基準監督署などに寄せられたパワハラに関する相談件数は、昨年度39405件に達し、統計を取り始めた平成14年度の約6倍に上っているとのことです。また、厚生労働省は、パワハラの問題に対する労使の取り組みのための留意点として、以下のような点を挙げています。

(1)トップがメッセージを発する
(2)ルールを決める
(3)実態を把握する
(4)教育する
(5)周知する
(6)相談や解決の場を設置する

職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告

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平成24年度雇用保険料率など

 平成24年度の雇用保険料率が、下表のとおり、厚生労働省より告示されました。

 

  単位:(1/1000)
 事業の種類  平成24年4月1日以降 平成24年3月31日以前
 一般の事業  13.5(労働者 5・事業主 8.5) 15.5(労働者 6・事業主 9.5)
 農林水産、清酒製造の事業  15.5(労働者 6・事業主 9.5) 17.5(労働者 7・事業主 10.5)
 建設の事業  16.5(労働者 6・事業主 10.5) 18.5(労働者 7・事業主 11.5)

 

 = 閑話休題 =

 今朝のラジオで、給食の思い出というお題での便りの紹介をしていましたが、小生等は主食が全てパンだった時代の給食を食べて育った世代です。これは、まだ戦後の米国の対日政策を色濃く残していたためなのかどうかはよく分かりませんが、とにかくこれによってパン食に対する抵抗感が全くない味覚になって成長しました。かつて年齢の若い世代の同僚に、「俺、コロッケはさんだパンだけ食って戦える」と冗談を言ったところ、「エーッ」という顔をされたことがありました。私たちよりも若い世代は、地域によりばらつきはあるのでしょうが、給食において米食が徐々に失地を回復していったなかに育った世代なのです。

 このことから言えるのは、子供のころの習慣や体験が如何に重要かということであって、減少傾向にある我が国における米の消費量を増やすことは実に簡単なことで、学校給食にパンを出すことを禁止し、米と麺だけにすればよいのです。もちろん製パン業界からの反発は、食糧自給率を上げるという大義のために抑えられたと仮定してのお話ですが。

 話は飛びますが、「社会保障と税の一体改革」関連の論議が第180回通常国会で今まさに進行中です。年金の話をするときに、必ず俎上に上せられる問題の一つが無年金者等に関する問題です。現在でも約3500万人いる年金受給者の6割が収入は年金の受給だけということからして、高齢になってから無年金や低額年金であるのは非常に厳しいものであることが容易に想像できます。「最低保障年金」や「老齢年金受給資格期間を10年に短縮する」という考え方は、こういった現実から導き出されているのだと理解できます。

 しかし、それより先にやることがあります。多くの無年金者は、異口同音に「若いころに年金について何も知らなかった。意識していなかった。」といった類のことを述べられます。通常、人はお金の話には敏感に反応するものですが、なぜか「社会保障と税」に関して無知な人が多いものです。なぜ知らなかったかといえば、教えてくれる人が周辺に誰もいなかったからとしか考えられません。将来社会に出たときに自分自身の生活に直接関係している「社会保障と税」の仕組みの基本については、義務教育の期間中に教えておくべきだとつくづく思います。我が国の社会保障制度は、少子高齢化の進行もあって、確かに改革も必要な部分はあるのでしょうが、世界的に見れば、まだまだ捨てたものではありません。野放図なばらまきをする前にやるべきことは教育だと思っています。子供のころに身に染みて覚えたことは、そう簡単には忘れません。私たちのコロッケパン同様、忘れずに保険料を納める習慣も身に付くというものです。

社会保障と税の一体改革素案骨子

 第180回通常国会が、1月24日から6月21日までの日程で開会されました。野田総理が法案成立に並々ならぬ決意を表明している社会保障と税の一体改革について、昨年12月20日に決まった改革素案(社会保障部分)について、要点をまとめておきます。


1.雇用関係

(1)高年齢者雇用対策 雇用と年金の接続に向け、継続雇用制度の基準を整備する。
(2)有期雇用労働者救済策 雇用の安定と待遇確保に向け法整備を強化する。
(3)パートタイム労働者 均衡・均等待遇に向け法整備を強化する。
(4)雇用保険制度は、平成23年度末までの暫定措置の延長等に関する法整備を行う。


2.年金関係

(1)基礎年金国庫負担2分の1を恒久化する。
(2)マクロ経済スライドを停止する特例措置によって生じた2.5%年金の支給額が本来水準よりも高くなっている特例措置の解消を今年10月から3年をかけて実施する。
(3)低所得者への加算、障害基礎年金等への加算、受給資格期間の短縮、高所得者の年金給付の見直しを税制抜本改革とセットで検討する。
(4)受給資格期間を25年から10年へ短縮する。
(5)高所得者の年金給付について、国庫負担額を調整する制度を創設する。
(6)産休期間中の保険料負担を免除する。
(7)短時間労働者に対する厚生年金保険の適用を拡大する。(「パートの年金加入拡大_「年収80万円」基準を検討_1月22日」参照)
(8)被用者年金一元化
(9)第3号被保険者制度の見直し、在職老齢年金制度見直し、及び支給開始年齢の引上げは、今後の検討課題とし、今国会への法案提出は行わない。


3.医療保険関係

(1)高額医療費とセットで検討された受信時定額負担の導入については法案提出断念する。
(2)70歳以上75歳未満の患者負担は原則2割に戻さず、1割を維持する。
(3)介護保険の介護納付金について、各保険者の総報酬に応じた按分方法の導入を目指す。

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パートの年金加入拡大_「年収80万円」基準を検討 

 21日共同通信が伝えるところによれば、社会保障と税の一体改革の大綱素案に盛り込まれたパートなど非正規労働者の厚生年金保険と健康保険への加入拡大で、厚生労働省が対象者の当初の収入基準を「年収約80万円以上」とする案を検討していることが判明したとのことです。

 この案の要点は、

(1)年収80万円以上の労働者(註1)
(2)企業規模300人以上(註2)
(3)労働時間が週当たり20時間以上の労働者(註3)

 以上の3要件を全て満たす場合に、厚生年金保険及び健康保険への強制加入とする加入拡大策であるということです。これらを満たす新規加入者は100万人程度になる見通しで、厚労省は通常国会に法案を提出し、3年以内の実施を想定していると記事は伝えています。

(註1)現行は、「年収130万円未満、かつ、被保険者の年収の2分の1未満であれば、被扶養者となる」が原則です。実質的には、130万円未満条件を満たしていれば、被扶養者となります。
(註2)事業所ごとではなく、企業全体でということのようです。
(註3)現行は、1日又は1週間の所定労働時間が、その事業所で同じような業務を行っている正社員の4分の3以上、かつ、1箇月の所定労働日数がその事業所で同じような業務を行っている正社員の4分の3以上。

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セクシャル・ハラスメント_福岡セクハラ事件

1.事案の概要

 女性編集者Xは、昭和60年12月に雑誌社Y社に入社、入社後間もない時期から雑誌編集等の事務において重要な役割を果たすようになり、1年ほど経った頃には中心的な役割を担うようになっていました。Xの上司Y2は、編集業務におけるXの役割が重要になる一方で、Y社の幹部から業績不振の責任を問われるなど、厳しい立場に立たされることになりました。

 このような中でY2は、約2年間にわたり、Xの異性関係が派手であるなど、Xの社会的評価にとって不利益な発言を繰り返していました。昭和62年8月、Y社建て直しのためにA専務が入社し、Y社の立て直しの一環としてY2を業務の中心に据えることとしましたが、Y2のXに対する不利益な発言は続き、XとY2の関係は業務に支障をきたすほどに悪化して行きました。このため、Y2はA専務と相談の上、昭和63年3月、Xに対して、Xと取引先の男性との間に問題が見られるといった指摘をして、Xに退職するよう求めました。

 こうした動きを受けて、A専務は、Y2とX間の話し合いによる解決が図れない場合には、XかY2を退社させる方針を固め、同年5月、まずXに妥協の余地を打診しました。しかし、XがあくまでもY2の謝罪を求めたため、A専務はXに対して退社してもらうことになる旨を述べたことに対して、Xは退社の意思を表明する一方で、Y2の行為やY社の対応は違法であるとして、損害賠償を求めて訴えを提起しました。


2.判決要旨

 Y2が、Y社の職場又はY社の社外ではあるが職場に関連する場において、X又は職場の関係者に対し、Xの個人的な性生活や性向を窺わせる事項について発言を行い、その結果、Xを職場に居づらくさせる状況を作り出し、しかも、右状況の出現について意図していたか、又は少なくとも予見していた場合には、それは、Xの人格を損なってその感情を害し、Xにとって働きやすい職場環境のなかで働く利益を害するものであるから、Y2はXに対して民法709条の不法行為責任を負うものと解するべきことは明白です。

 Y2のXに対する一連の行為はXの職場の上司としての立場からの職務の一環又はこれに関連するものとしてなされたもので、その対象者も、X本人のほかは、Y2の上司、部下にあたる社員やアルバイト学生又はY社の取引先の社員であるから、右一連の行為は、Y社の「事業の執行に付き」行われたものと認められ、Y社はY2の使用者としての不法行為責任を負うことを免れません。

 使用者は、被用者との関係において社会通念上伴う義務として、被用者が労務に服する過程で生命及び健康を害しないよう職場環境等につき配慮すべき注意義務を負うが、そのほかにも、労務遂行に関連して被用者の人格的尊厳を侵しその労務提供に重大な支障を来たす事由が発生することを防ぎ、又はこれに適切に対処して、職場が被用者にとって働きやすい環境を保つよう配慮する注意義務もあると解されるところ、被用者を選任監督する立場にある者が右注意義務を怠った場合には、右の立場にある者に被用者に対する不法行為が成立することがあり、使用者も民法715条により不法行為責任を負うことがあると解すべきです。

 A専務の行為についても、職場環境を調整するよう配慮する義務を怠り、また、憲法や関係法令上雇用関係において男女を平等に取り扱うべきであるにもかかわらず、主として女性であるXの譲歩、犠牲において職場関係を調整しようとした点において不法行為性が認められるから、Y社は、右不法行為についても、使用者責任を負うというべきです。

 Y2→709条 不法行為 人格を損ない、働きやすい職場の中で働く利益を害した
 A専務→709条 不法行為 職場環境配慮義務違反
 Y社→715条 使用者責任 Y2及びA専務


3.セクシャル・ハラスメント

 男女雇用機会均等法では、平成19年(2007年)改正で、第2節「事業主の講ずべき措置」、第11条において、セクハラの定義及び事業主の講じなければならない措置について、次のように定めています。

 第11条  事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

 また、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」が定められました(平成18年厚生労働省告示第615号。以下、「指針」という。「セクハラ及びパワハラに関する法律参照」)。


4.セクハラと使用者責任

 セクハラが民法上の不法行為と認定された場合、会社については715条の使用者責任が問われることになります。今回取り上げた、福岡地裁平成4年4月16判決によれば、「使用者は、被用者との関係において社会通念上伴う義務として、被用者が労務に服する過程で生命及び健康を害しないよう職場環境等につき配慮すべき注意義務(安全配慮義務)を負うが、そのほかにも、労務遂行に関連して被用者の人格的尊厳を侵しその労務提供に重大な支障を来す事由が発生することを防ぎ、又はこれに適切に対処して、職場が被用者にとって働きやすい環境を保つよう配慮する注意義務(職場環境配慮義務)もあると解されるところ、被用者を選任監督する立場にある者が右注意義務を怠った場合には、右の立場にある者に被用者に対する不法行為が成立することがあり、使用者も民法715条により不法行為責任を負うことがある」という理論構成をとっています。

 しかし、会社は、労働契約を締結した労働者に対して、職場環境配慮義務を負うと考えるならば(労働契約法第5条に規定されている「安全配慮義務」の延長線上に「職場環境配慮義務」があるとするならば)、セクハラ行為が職場内に発生した場合には、これを是正する義務を負っていると考えられますから、この義務を果たしていないと認められる場合、不法行為の使用者責任と同時に債務不履行責任が問われることになるとも考えられます。

 契約関係があって損害を受けた場合には、債務不履行及び不法行為の両方が成立すると考えられる場合があります。債務不履行による損害賠償と不法行為による損害賠償の違いは、主に(1)挙証責任、及び(2)消滅時効において表れます。
(1)債務不履行:債務者の責に帰すべき事由は、債務者に立証する責任があります。
   不法行為:被害者(債権者)に加害者(債務者)の故意又は過失を立証する責任があります。
(2)債務不履行:債権成立の時から10年
   不法行為:損害及び加害者を知ってから3年、又は発生から20年

 民法709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 民法715条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。